不貞(不倫)を理由に奥さんから慰藉料を請求されている
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2024.4.5mf更新
弁護士河原崎弘
相談:不貞は自分の責任ではない
私は36歳、派遣社員です。派遣先の会社の上司に誘われ、交際し、愛情を持つようになり、肉体関係を持ち、6年経過しました。
私は、彼とは結婚できなくとも、子どもを産みたくて、彼の同意を得て、子どもを産みました。
出産前から、彼は、「認知する」言っていましたので、私が認知届の用紙を彼に渡しました。彼は認知届の用紙を背広のポケットに入れていたのですが、自宅で背広を着替えるときに、落してしまいました。彼の奥さんが、それを見付けて、私たちの関係を知るようになりました。
現在、彼の奥さんと彼のお母さんから私に何度も電話があり、私は、不倫と責められ、 1000 万円の慰謝料を請求されています。最近は無言電話も続いています。
奥さんから訴えられた場合、私が慰謝料を払うのでしょうか。
彼からは、いつも、「妻とはうまく行っていない」と聞かされていました。うまく行かないのは、夫婦の問題であり、私のせい(責任)ではないと思うのですが。
相談者は、弁護士会に電話をし、予約してから、法律相談を受けました。
回答:慰謝料支払い義務がある
(責任の有無)
夫婦の一方と肉体関係を持った第三者は、故意(相手に配偶者がいることを知っていた場合)または過失(相手に配偶者がいることを知らなかったが、容易に知ることができた場合)がある限り、誘惑して肉体関係を持ったかどうか、自然の愛情によったかに関わらず、損害賠償(慰謝料)義務があります(下記判決)。
相談者の場合、「妻とはうまく行っていない」との彼の言葉が真実であり、婚姻関係が破綻しているなら、相談者に責任はありません。ただ、
彼と妻が同居している限り、婚姻生活は完全には破綻していない、従って、あなたに責任があるとの判決になるでしょう。法律では、婚姻関係にある妻は保護されますが、婚姻関係にない愛人は保護されないのです。
先進国では、不貞は夫婦間の問題であり、第三者は、責任を負わないとの法制度があります。アメリカの約半数の州がそうです(判例タイムズ385−116)。
(慰謝料金額)
婚姻関係の平穏は、第1次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によって維持されるべきものであり、不貞(不倫)についての主
たる責任は配偶者にあるというべきです。従って、彼の方の責任が大きく、あなたの責任は小さいです。しかし、あなたが、積極的に彼を誘った特別の事
情の存在する場合は、あなたの責任は大きいです(異論はあります)。
彼とあなたのどちらが積極的であったか、交際の期間、相談者が原因で彼の家庭が破綻した(離婚)か否かで違ってきます。
不貞行為が,原告ら夫婦が離婚した主たる原因とはいえないが、被告の不貞行為が離婚に至る重要な要因である場合の慰謝料は50万円とした判決があります。愛人に子供がいて、不貞が20年続いた場合、慰謝料を500万円とした判決もあります。慰謝料は、彼が離婚した場合(不貞により、婚姻関係が破綻した)は 150 万円〜 200 万円位、離婚しない場合は 50 万円 〜 200 万円位でしょう。
通常、愛人の方にも、「奥さんが、だんなを大事にしていなかったのが原因だ」などの言い分があります。しかし、それを露骨に言うと、訴訟(裁判)に発展することが多いです。そこで、妻の心に傷を付けたのは確かなのですから、誠意をもって謝罪する態度も重要でしょう。
この場合、あなたと彼は、共同不法行為者となり、あなたと彼は、奥さんに対し(不真正)連帯責任を負います(民法 719 条)。彼が妻に慰謝料を支払うと、その金額だけ妻はあなたに慰謝料を請求できなくなります。下記判決を参考にして下さい。
判例
- 東京地方裁判所平成19年8月27日判決
2 慰謝料額について
被告が原告に支払うべき慰謝料額は,被告の不貞行為当時の原告とAの夫婦関係の状態,Aが被告に対し原告との夫婦関係を相談したという不貞行為に至る経緯,不貞行為が原告らの婚姻関係破綻
に及ぼした影響の程度,特に被告の不貞行為が,原告ら夫婦が離婚した主たる原因とはいえないこと,他方で,被告の不貞行為が離婚に至る重要な要因の一つであること等を総合勘案すれば,50万円が
相当である。
- 東京地方裁判所平成19年8月24日判決
(3)慰謝料額
Aにとっては原告との婚姻が3度目の婚姻であること,原告がAと交際を始めたときには,Aは婚姻を継続しており,原告の妊娠判明後,離婚をして,原告と婚姻したこと,Aは,最初の婚姻,
2度目の婚姻の配偶者との間に,それぞれ二児をもうけていることは認められるが(原告本人,乙7),これらの事実から,直ちに原告の精神的苦痛が小さいものであるということはできない。
そして,原告とAの婚姻期間,幼い子供が二人いること,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,慰謝料額は200万円が相当である。
- 東京地方裁判所平成19年7月27日
判決
よって,被告は,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うものというべきである。
3 争点(3)(慰謝料額)について
被告が,Aに原告という妻がいることを知りながら,Aと肉体関係を持つに至り,昭和60年ころ以降,Aが死亡するまでの約20年間もの長期間にわたり,A
が毎日被告宅に通うようなかたちでAとの関係を継続し,その間に被告はAが認知した2人の子ももうけていること,被告の住居は原告の自宅と同じ町内ないしは近隣
であったこと,そうしたことから原告は愛人や隠し子がいるなどといった風評にも悩まされたとうかがわれること(甲14)などからすれば,原告は,多大な精神的苦
痛を被ってきたものと認めることができる。
一方,A死亡に至るまで同人と原告との婚姻生活が破綻に至ったとは認められず,Aとの信頼関係を強調する原告の主張・供述(甲14,原告本人)からしても
原告は,Aのことは宥恕しているものと解される。
こうした諸事情も含め,本件に現れた全事情を総合考慮し,さらに,本訴提起よりも前に原告が被告に対して本件に係る慰謝料請求をしたと認めるに足りる証拠
はないので,原告の被告に対する慰謝料請求権のうち,本訴提起の日である平成18年8月11日から20年前である昭和61年8月11日より前の分は除斥期間の経
過によりもはや行使し得ないものと解されることからすると,結局,原告に認容すべき慰謝料額としては,500万円が相当である。
- 東京地方裁判所平成18年12月28日
判決
3 原告の損害額について
(1)前記1の事実経過及び前記2に判示したことを総合考慮し,被告の不法行為により原告が被った精神的苦痛を金銭的に評価すれば,250万円を相当とすべき
である。
(2)被告は,前記第2,2(被告の主張)(2)のとおり主張するが,前記1のとおり,原告は,被告の浮気や被告が事件を起こしたこと(甲8)などのたびに,
被告との離婚を何度も考えさせられてきたのであり,そのような被告の素行の積重ねの上での本件不貞関係は,子供のためを思い被告との婚姻関係を継続するよう努力
してきた原告にかなりの精神的苦痛を与えたことは容易に推測できること,原告は平成15年9月18日に倒れたが,それも被告のそれまでの素行が大きく影響してい
ることは否定できないこと,被告とAとの不貞関係は,それを目撃した原告と被告との間の子供らにも大きな傷を与えていること(原告本人)等の事情によれば,仮に,
原告の退職の理由の一つとして仕事上の不満が挙げられるとしても,被告が,その不貞行為により原告に極めて大きな精神的苦痛を与えたという事実を覆したり,被告
の責任を減じたりするものということはできない。
むしろ,前記被告の主張は,仕事を辞め,経済的にも精神的にも不安定な状態であった原告を置いて,家にも帰らず,生活費も入れず,家賃も支払わず,さら
には原告を保証人として購入した車両や子供の修学費用まで持ち出し,Aとの不貞関係を主導的に継続させてきた被告が,それでも家庭を維持し,被告の子供らの父親
としての立場を守ろうと努力していた原告の心労を全く理解していなかったことを示すものということができ,被告の不法行為責任は極めて大きいものというほかない。
-
東京地方裁判所平成18年9月15日判決
3 原告の請求原因(3)のうち,原告がAと被告の不貞行為によりうつ状態となったことは甲66及び原告本人により認める。これに,原告とAとの婚姻期間,子
があること,被告は原告に謝罪することもないこと,その他本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると,本件の慰謝料としては,200万円が相当である。
なお,原告本人は,不貞については,被告が主導的立場にたってAを追いつめているのではないかと考えている旨述べるが,証人Aの証言からすると,被告のみ
が積極的にAと関係を持ったとも思われないし,被告とAとは原告に対する関係では共同不法行為者であって,その場合の損害額は,共同不法行為者のいずれが主導的
な立場にあったかにより左右されるものではないから,この点は考慮しない。
4 よって,原告の本訴請求は,慰謝料200万円及びこれに対する平成17年11月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することし,訴訟費用の負担について民訴法64条本文,61
条,仮執行の宣言について同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。
- 東京地方裁判所平成17年3月30日判決(判例秘書)
不貞行為の相手方に対する損害賠償請求の検討においては,そもそも,婚姻関係の平穏は,第一次的には
婚姻契約に基づく配偶者相互間の守操義務・協力義務によって維持されるべきものであり,この義務は配偶者以外
の第三者の負担する婚姻秩序尊重義務とでもいうべき一般的義務とは質的に異なるから,不貞または婚姻関係破綻
の主たる責任は,原則として不貞を働いた配偶者にあり,不貞の相手方に対する責任は副次的なものであるという
べきである。
そして,慰謝料の具体的な金額の判断において斟酌すべき事情としては,当事者双方の社会的地位,不貞
行為当事者の積極性の強弱,不貞行為前後における夫婦間の親疎の状況,不貞行為の回数・期間・同棲の有無など
の態様,婚姻関係が破綻したか否か等を総合的に考慮して判断すべきである
(2)判断
これを本件について考えると,@AはBが店長を務める飲食店のアルバイト店員であり,Bは上司の立場にあったこと(甲1,乙1),A当初はBの方から積極的にAを誘った事実が窺われるが,
後にはAも積極的であったと認められること(乙1,2,甲2ないし6[枝番を含む]),BBは以前にも複数回に亘る不貞の経験があるが,AとBの不貞行為が行われた時期において,原告とBの婚姻
生活が破綻していたとまでは認められないこと(甲1,乙3),C本件口頭弁論終結時において,原告とBの夫婦関係は破綻するに至っていないと認められること(甲1),D原告は,Bに対して被告か
ら不貞行為による損害賠償請求訴訟が提起されるや,本件訴訟を提起して,Bを助勢している結果となっていること(甲1,弁論の全趣旨),以上の事実が認められる。
そこで,前記「前提となる事実」,甲1号証ないし6号証(枝番を含む),原告及び被告の各本人尋問の結果,前記@ないしDの事実並びに弁論の全趣旨を総合して判断すると,AとBの不貞行
為によって,原告が被った精神的損害の慰謝料は,50万円と認めることが相当である。
- 最高裁平成 8年6月18日判決(家裁月報 48-12-39 )
前記一の事実関係によると,上告人(愛人)は,譲次(夫)から婚姻を申し込まれ,これを前提に平成2年9月20日から同年11月末ころまでの間肉体関係を持ったものであると
ころ,上告人がその当時譲次と将来婚姻することができるものと考えたのは,同元年10月ころから頻繁に上告人の経営する居酒屋に客として来るようになった被上告
人(妻)
が上告人に対し,譲次が他の女性と同棲していることなど夫婦関係についての愚痴をこぼし,同2年9月初めころ,譲次との夫婦仲は冷めており,同3年1月には離
婚するつもりである旨話したことが原因を成している上,被上告人は,同2年12月1日に譲次と上告人との右の関係を知るや,上告人に対し,慰謝料として500万
円を支払うよう要求し,その後は,単に口頭で支払要求をするにとどまらず,同月3日から4日にかけての譲次の暴力による上告人に対する500万円の要求行為を利
用し,同月6日ころ及び9日ころには,上告人の経営する居酒屋において,単独で又は譲次と共に嫌がらせをして500万円を要求したが,上告人がその要求に応じな
かったため,本件訴訟を提起したというのであり,これらの事情を総合して勘案するときは,仮に被上告人が上告人に対してなにがしかの損害賠償請求権を有するとし
ても,これを行使することは,信義誠実の原則に反し権利の濫用として許されないものというべきである
- 最高裁判所平成8年3月26日判決
甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。
けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる(後記判例参照)のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。
- 東京地裁平成 4年12月10日 判決(判例タイムズ 870-232 )
前記認定事実を前提として、判断するに、被告は原告と一郎とが婚姻関係にあることを知りながら一郎と情交関係にあったもので、右不貞行為を契機として原告と
一郎との婚姻関係が破綻の危機に瀕し原告が深刻な苦悩に陥ったことに照らせば、原告がこれによって被った精神的損害については不法行為責任を負うべきものである。
しかしながら、婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によって維持されるべきものであり、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不
貞を働いた配偶者にあるというべきであって、不貞の相手方において自己の優越的地位や不貞配偶者の弱点を利用するなど悪質な手段を用いて不貞配偶者の意思決定を拘
束したような特別の事情が存在する場合を除き、不貞の相手方の責任は副次的というべきである。
妻から、夫の不貞の相手方である愛人に対する慰藉料請求事件において、夫が不倫関係において主導的役割を果たしていたので低額にすべきとして、請求額 500 万円に対し、 50 万円を認めた。
- 横浜地裁平成 1年8月30日 判決 (判例時報 1347-78 )
肉体関係の発端、継続が男性の暴行脅迫であり、しかも、婚姻関係がほぼ破綻に瀕し、妻が夫に対しし貞操を要求し難いような状況下において、
妻から相手方の女性に対する慰藉料請求を否定
- 横浜地裁昭和 61年12月25日 判決( 判例時報 637-359 )
妻から、夫の不貞の相手方である愛人に対する慰藉料は低額にすべきとして、請求額 1000 万円に対し、 150 万円を認めた。
- 東京高裁昭和 60 年 11 月 20 日判決(判例時報 1174 ー 73 )
夫から、配偶者(妻)の不貞の相手方である第三者(男性)に対する慰謝料請求事件において、男性が自己の地位や相手方の弱点を利用するなど悪質な手段を用いて相手方の意思決定を拘束したような場合でない限り、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を行つた配偶者にあり、第三者の責任は副次的なものとみるべきで慰謝料額を減額して 200 万円を認容した。
- 東京地裁 昭和 58 年 10 月 3 日判決(判例時報 1118 ー 188 )。
妻から、夫の不貞の相手方である愛人に対する慰藉料請求事件において、この不貞が原因で夫婦は離婚はしていないが、冷え切っているとし、請求額 1000 万円に対し、 200 万円を認めた
- 最高裁昭和 54年3月30日 判決(民集 33-2-303 )
夫婦の一方と肉体関係を持った第三者は、故意または過失がある限り、誘惑して肉体関係を持ったかどうか、自然の愛情によったかに関わらず、損害賠償義務があると判決した。
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