不貞行為の慰謝料を支払った相手が私に求償してきた/弁護士相談
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2023.2.23mf更新
弁護士河原崎弘
相談:慰謝料を支払った者が求償してきた
私が不貞行為(不倫)をおかしたので、夫が私の交際相手に慰謝料を請求し、裁判になりました。交際相手は、夫に200万円を支払いました。
その半年後、私の交際相手の代理人弁護士から、私に対し、私の負担部分として200万円を請求するとの内容証明郵便を送ってきました。支払わない場合には、訴えを提起すると書いてあります。
これは、適正な請求なのでしょうか。
私と彼との交際は、彼が、何度もメールをくれてから始まりました。彼が、主導したのです。
相談者は、弁護士会に電話予約し、法律相談を受けました。
回答:不真正連帯債務には負担部分がある
不貞行為(不倫)は、不貞配偶者(相談者)と不貞関与者の、不貞された配偶者(夫)に対する、共同不法行為です。不貞配偶者(相談者)と交際相手の男性(不貞関与者)が、共同して、慰謝料支払い義務を負うのです。不貞関係者は、下記のようになります。
(不真正連帯債務)
各支払い義務者は、債権者に対して全額を支払う義務を負います。これを不真正連帯債務といいます。不真正連帯債務の場合、昔は、各債務者に全額の支払い責任があるが、債務者間に負担部分はないと考えられてきました(求償できない)。
しかし、最高裁の判決(昭和41年11月18日)以降、不真正連帯債務にも負担部分があり、負担部分を超えて支払った債務者から他の債務者に対する求償を認めるようになりました。
(責任割合/負担部分)
名 | 置かれた状況 | 責任割合/負担部分 | 法的立場 |
不貞配偶者 | 不貞をした配偶者 | 7割〜6割 |
不真正連帯債務者 |
不貞関与者 | 不貞の相手方 = 不貞に関与した者 | 3割〜4割 |
不貞された配偶者 | 不貞による被害者 | - | 権利者 |
(負担部分を決める要素)-
(積極性など)
あなたのケースでは、あなたにも責任(負担部分)があるのです。
あなたと彼の責任割合(負担部分の割合)は、通常、不貞において、どちらが積極的であったかなどにより決まります。このような考えに立つと、男性の方が積極的で、責任も大きいと認定され易いです。
積極的だったのは、彼のほうであった場合は、あなたの負担部分は60万円〜80万円くらい(3割〜4割)、彼の負担部分は120万円〜140万円くらい(6割〜7割)に決まるでしょう。
- (不貞配偶者の責任が第一次的)
不貞配偶者(相談者)の責任が第一次的であり、不貞関与者(不貞の相手方=不貞行為に加担した者)の責任は副次的との考えもあります。この考えなら、不貞配偶者(相談者)の負担割合は6割〜7割、不貞関与者の負担割合は3割〜4割です。
求償された場合、あなたは200万円全額を支払う義務を負いません。
責任割合を考えますと、彼が交際に積極的であったので、その意味では彼の責任割合は大です。他方、あなたが配偶者ですから、あなたの責任も大きいです。
そこで、「若干は支払います」と回答しておき、最終的には80万円〜120万円(4割〜6割)くらい支払う覚悟でいればいいのです。
(訴訟告知)
以前の裁判のときに、将来の求償のため、訴えられた人(相手の男性)が、他の不真正連帯債務者(この場合は、相談者)に訴訟告知(民事訴訟法53条)すると、将来の(求償の)裁判のために役に立ちます。
訴訟告知を受けた当事者は、訴訟の当事者になり、判決に拘束されます。後の裁判で、訴訟告知された相談者は、「不貞は存在しなかった」とは、主張できなくなるのです。
本件では、
男性は、訴訟告知をせず、今になって訴えると言ってきたのです。
判決
- 最高裁判所平成31年2月19日判決
(1) 夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ,本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して,離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
以上によれば,
夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,上告人は,被上告人の妻であったAと不貞行為に及んだものであるが,これが発覚した頃にAとの不貞関係は解消されており,離婚成立までの間に上記特段の事情があったことはうかがわれない。したがって,被上告人は,上告人に対し,離婚に伴う慰謝料を請求することができないというべきである。
- 東京地方裁判所平成17年12月21日判決(出典:判例秘書)
共同不法行為者は,連帯して損害賠償債務を負うべきところ,被害者に損害を賠償した加害者が全面的に責任を負担するのは
公平ではなく,損害賠償の先後にかかわらず,被害者に損害を賠償した一方の加害者から他方の加害者に対して求償を認めることが公
平にかなうものといえる。
そうすると,各自の負担部分を超えて被害者に賠償した加害者は,超えた部分につき他の加害者の負担部分
の範囲において求償することができることになるというべきである。
したがって,原告は,原告が負担部分を超えて支払った部分に対
して求償することができるものというべきである。
<<中略>>
記1(2)に認定した事実に基づいて被告の負担割合を検討するに,被告は婚姻関係にありながら,Aに対する婚姻関係を維
持すべき義務があるにもかかわらず,これに反して不貞行為にいたったこと,他方原告は平成11年4月には被告が既婚者であること
を認識しており,その上で肉体関係をもつに至ったこと,平成14年11月には被告が原告と会うきっかけを作ったものの,原告が原
告の部屋に誘ったのであり,むしろ積極的に肉体関係を持とうとしたと評価できること,原告には被告とAの婚姻関係が破綻している
との確たる認識があったともいえないこと(原告は,婚姻関係が破綻していると認識していた旨供述するが,平成14年11月2日の
数時間の会話から直ちにこのような認識をもったとは到底考えられず,同供述は信用できない。),原告は当時現在の妻と交際してお
り,上記認定のメールの内容に照らすと,被告とのつきあいは必ずしも真剣なものではなかったこと(なお,原告は,前訴訟は被告と
Aが共謀して高額な賠償額を認容させた旨主張するがこれを認めるに足りる証拠はない。),これらの事情を総合勘案すると,原告が
不貞行為に導いたと評価できるので,被告には70万円を限度として負担させるのが相当である。
---------- 説明 ----------
夫のある客室乗務員(被告=女)と不貞行為をした男性(原告)が、被告の夫に慰謝料など164万0573円を支払った後、男性が客室乗務員に対し、負担部分として150万円を求償した。
裁判所は、男性(原告)が不貞行為に導いたと評価できる(積極的であった)と判断し男性の負担部分(94万0573円)を多くし、70万円の求償を認めた。
- 東京地方裁判所平成16年9月3日判決(出典:判例秘書)
不貞行為は,平穏な家庭生活を営むべき利益を侵害する不法行為であり,これは,不貞をされた配偶者からすると,不貞配偶者と第三者の共同不法行為であるというべきである。
共同不法行為による損害賠償請求権は不真正連帯債務であり,賠償をした加害者は,他方の加害者に対し,損害への寄与の割合を超えた部分につき求償権が発生するというべきである。
ただ,不貞行為による平穏な家庭生活の侵害は,不貞に及んだ配偶者が第一次的に責任を負うべきであり,損害への寄与は原則として不倫の相手方を上回るというべきである。
<<中略>>
このような経緯等をふまえると,A(不貞された配偶者)の権利侵害に対する寄与度は,原告(第三者=男)3割,被告(不貞配偶者=女)7割と考えるのが相当である。
証拠(甲65の1及び2,原告本人)によれば,原告は,別件訴訟で認容された慰謝料及びその遅延損害金の支払いとして,
平成15年7月23日及び同年9月12日にAの代理人弁護士に対し合計315万円を支払っていることが認められる。
他方で,証拠(乙124,被告本人)によれば,被告は,平成14年9月Aと離婚し,平成15年8月Aに対し,慰謝料とし
て150万円を支払っていることが認められる。
そうすると,原被告がAに支払った慰謝料合計465万円のうち3割の139万5000円が原告が負担すべき部分であり,
原告は,それを超えて支払った175万5000円について被告に求償できる。
- 東京地方裁判所平成16年3月26日判決(出典:判例秘書)
ウ 次に被告が原告に支払うべき慰謝料の額について検討する。
第三者の不貞行為が,婚姻関係の平穏に対する違法な干渉として不法行為を構成するとしても,婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務,協力
義務によって維持されるべきものであり,この義務は,配偶者以外の第三者の負う婚姻秩序尊重義務とでもいうべき一般的義務とは異なるというべきであって,夫婦間の不貞行為又は婚姻破綻についての主たる責任は原則として不貞を働いた配偶者にあり,不貞の相手方(第三者)の責任は副次的なものと解すべきであるから,慰謝料の算定に当たっても,この点を考慮することが相当である。
そして,本件では,前提となる事実(第4 当裁判所の判断 1(8))記載のとおり,@被告Y1の心臓病が悪化したことが直接の理由であるとしても,原
告と被告Y1は,本件口頭弁論終結時には,一旦開始した別居生活を解消して,再び同居して生活している事実が認められ(この点につき,原告及び被告Y1は,原告と
被告Y1との関係は家庭内別居状態であり,婚姻関係は破綻している旨を主張しているものの,原告と被告Y1の生活が破綻して修復不能と成っていることを認めるに足
る的確な証拠はない。),Aまた,原告が被告Y1との婚姻の解消を請求したり,同人に対して慰謝料の支払を請求している事実を認めるに足る証拠はないこと,B本件
別荘の購入ないし建物建築に関して,被告がおよそ3300万円もの多額の資金を提供していること,C前提となる事実及び弁論の全趣旨を総合して判断すると,本件不
貞行為は,専ら被告Y1が強引に開始し,主導的に継続させたものであり,被告は受動的あったと評価でき,さらに被告は,被告Y1との交際によって多額の財産を失っ
ている事実が認められること,さらに,D原告と被告Y1は法律上の夫婦であり,相互に協力扶助の義務を有しており,双方の推定相続人たる地位にあることなど本件に
おいて認められる一切の事情を総合して慰謝料の額を検討すると,被告が原告に対して支払うべき慰謝料の額は,30万円をもって相当であるというべきである。
<<中略>>
本件不貞行為は,専ら被告Y1が主導的に開始し,これを維持したものであり,本件マンションの賃借,本件別荘の建築,本件旅行の実行などのいずれを見ても,被告Y1の責任は重大であるというべきであり,本件各証拠並びに弁論の全趣旨を総合して本件不貞行為における過失割合を認定するならば,被告Y1は9割,被告が1割であるとすることが相当である。)。
- 最高裁判所平成3年10月25日判決(出典:裁判所時報1061号171頁)
共同不法行為の加害者の各使用者が使用者責任を負う場合において、一方の加害者の使用者は、当該加害者の過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、他方の加害者の使用者に対し、当該加害者の過失割合に従って定められる負担部分の限度で、求償することができる。
-
札幌地方裁判所昭和51年12月27日判決(出典:判例タイムズ364号243頁)
次に、被告小河に対する慰藉料請求について判断する。
同人は、被告誠次に妻子があるのを知りながら不貞の関係を続けたこと
は前示のとおりであり、右行為により原告に して精神的苦痛を与えたことについて、被告誠次とともに、共同不法行為者としての責
任を負うべきことは明らかである。
而して、前記被告誠次の原告に対して支払うべき慰藉料金300万円のうち、被告小河との共同不法行為に基づく部分は80万円と
解するのが相当である(被告誠次の女ぐせの悪さは結婚当初からのもので、今日まで何人もの女性と不貞な関係を続けてきたこと、ま
た被告誠次は原告に対してたびたび殴る蹴るの乱暴をしたこと等被告小河と無関係のことに起因する部分を控除した)。
ところで、共同不法行為の成立が認められても、ある加害者の行為もしくは結果に対する関与の度合いが非常に少ない場合で、かつ、
そのことが証明されている場合には、その者については、右関与の度合いに応じた範囲での責任のみしか負わすことができないものと
解すべきである。これを本件についてみると、被告誠次は、被告小河との不貞な関係の招来およびその維持について常に主導権を握つ
ており、被告小河はただそれに服従したにすぎないともみられること、少なくとも現在は、被告小河は被告誠次と別れ夫の下に戻ったこ
と、被告誠次との関係を生じたことで被告小河自身の心神もかなり傷ついたこと等を考慮すると、被告小河の責任は、前記共同不法行
為部分の8分の1すなわち金10万円に相当する部分に限られるものというべきである。
- 最高裁判所昭和41年11月18日判決
使用者は、被用者と第三者との共同過失によつて惹起された交通事故による損害を賠償したときは、右第三者に対し、求償権を行使することができる。
この場合における第三者の負担部分は、共同不法行為者である被用者と第三者との過失の割合にしたがつて定められるべきである。
2010.5.10
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