第1巻

第1話

 ギリシアで脅しに屈し、水中から遺物を引き上げては横流ししていた人がそれでも最後まで守った宝物があり、それはユリシーズの肖像のある金貨だったという話です。

 ホメロスのトロイアとオデッセイアの叙事詩は青銅器時代の記憶が伝説化したものと考えられており、ユリシーズももちろん伝説上の人物なのでその肖像は全くわからないはず。コインをみてこれがユリシーズだというのは、ちょっと無理じゃない?それにそもそも青銅器時代にはまだコインは出現していない。難の多い第1話でした。

第2話

 イタリアでテロリストから逃れられなくなった日本人学生を救う話。

 フィレンツェ郊外のスベダレ・ドーモ遺跡というのが出てきます。聞いたことのない遺跡です。コメント不能。

第3話

 キートンの娘と家族関係の紹介といった話。

 保存運動が取り上げられますが、このような既に調査もされその意義がはっきりしている周知の遺跡の場合、そう簡単には工事許可は出ないシステムになっているのがふつうですが、この市の場合はどうなっているのでしょう。


第4話

 美術品の鑑定の話なのであまり考古学からはコメントできません。

第5・6話

 タクラマカン砂漠で発掘をする日本とイギリスの合同チームが調査隊長の無茶のおかげで死にかける話。

キートンと犬猿の仲の高倉教授が登場。しかしその原因になったのが楠木古墳のガラスボタンの文様解釈ということになっているが,ガラス玉はあってもボタンが出土することはありえない。楠木<->藤ノ木。

砂漠の中でキートンはサバイバル術を発揮するのですが,なぜか石のナイフ作りでもっともらしくルヴァロア技法が登場する。わざわざ中期旧石器の技法をつかうより,後期旧石器の石刃技法の方が効率はいいのにと思う。

ちなみに完成したナイフはルヴァロア技法特有の形態を持っていないので作者は言葉だけ知っていたようですね。

第7・8話

キートンの家族問題の話なので特に考古学とは関係ない。

以上第1巻終わり。

第2巻

第1話〜第5話

 むしろ元SASとしてのキートンの技量を発揮する話で考古学には関係がない。

第6話

 スイスが舞台で,キートンはウィルヘルム・テルの史料を図書館で調べている。いったいこの人の専門は何なんだろうと思わせるが,きっと考古学以外にも非常に関心分野が広いのだろう。

ここで彼の論文名が紹介される。

「エーゲ文明における投げ棒の紋様」 ???

投げ棒って何だろう?

第7・8話

 狂犬病の話で特に考古学は出てこない。

以上第2巻終わり。

後の巻は学生さんの試験が終わらないと読めないな。

とりあえず第5巻まで借りました。

第3巻

第1話

キートンは廃止間近の社会人講座で講義をしている。

ヨーロッパ文明の源はエジプト文明にあるが,それ以外に未発見のドナウ文明と呼ぶべきものがあったのではないかと主張したいようである。

 ちょっと文明をどう定義しているのかが判らないけれど,この話が80年代後半のものとすると,エジプトを持ち出すあたり

やや時代遅れの講義のように思われる。

ドナウ流域はバルカンから農耕文化がいち早く北西へと浸透していく地域なので関心が高く,調査が不十分とは言えないでしょう。

第2話 ドイツでの話

第3話 イタリアでの話

第4話 スペインでの話 と国際的。

第4話でキートンは砂浜でエーゲ海産ウミギクガイというのをひろって,此の地にオリエントから農耕が伝わっていた証拠だという。

これがSpondyllusのこととすると,むしろ黒海産で管状の装飾品として交易されたもので,もともとバルカン南部の装身具だったようなのでオリエントに直接結びつけるのは考古学者の発言としてはちょっと。

分布域からは相当離れているので,結構ニュースになるかもしれない。

第5話

キートンのお父さん活躍の話

以下8話まで考古学には縁のない話。

第4巻

第1話

イギリス北部の教会の廃虚が舞台だが,あまり考古学とは関連なし。

第2,3話

人質救出交渉の話

第4話

17世紀に水素ガスを使って気球を作った人がいたという話。

第5話

中南米で傭兵として活躍した人物の話,

などなどこの巻は考古学の出る幕なし。


第5巻

第1話

いきなりイギリス,シリー島の巨石記念物の破壊をめぐる話。

ローマ人の侵入に抵抗したグィナビーというケルト女性が出てくるが,この名はアーサー王伝説のグィナビアからとったのかな?ケルト人ではないと思うけど。作者は女王Bodiceaの乱などの史実を参考にしているのでしょう。

巨石記念物のほうは紀元前1000年頃という設定になっているけれど2000年ぐらいにしておかないとちょっとまずいでしょう。女神像が関連するのは確かです。ギリシアの文献に登場する現在のスペインの先にあったという錫の産地がどこであったか結構議論があり,その関連でシリー島が取りざたされることもあり,舞台設定はなかなか。

それにしてもどうして未盗掘の古墳の入り口が開いていて,玄室まで入っていけるのだろう?

それからイギリスなら遺跡の保存には政府よりEnglish Heritageが協力に回るはずなのに全然出てこないのはなぜだ?

第2話

キートンのおさななじみの話

第3話

ロンドンの町中で急死した若者の話

第4話

ドイツでのクリスマスの話

第5〜7話

ハーメルンの笛吹き男を下敷きに,ナチによるジプシー虐殺にまつわる話。

 インドがジプシーの起源地とされ,インダス文明の担い手がドラビダ人でアーリア人種であるようなことが書いてあるけれどインダス文明衰退の原因となったのがアーリア人の侵入とするのがよくある説ではなかったでしょうか。

第8話

キートンが面接に間に合わず,就職を棒に振る話。


ところで反応が無いのですが,

このレビューおもしろいですか?

このくらいにしておこうかな。


今度は第12巻まで借りました。

一気にいきます。

第6巻,第7巻

私の出番がないヒューマニズムにあふれたお話が続きます。

第8巻

第1話〜第6話

イギリス王室の人間が考古学調査に名を借りて工作のためイラクに入国中,クウェート侵攻勃発,イラ・イラ戦争の英雄カルーンの鷹に追われる話。

"ヘレニズム文化の隠れキリシタンのカタコンベ"ってちょっと気になります。それぞれ時代がずれるような気がしてならないし,南メソポタミアにそんなにあるのかな。

一行はタルガウラという遺跡に逃げ込むのですが,これはテペ・ガウラという比較的有名な遺跡名をとったのでしょう。"タル"はイランでよく使われるようで,テルと同義。人間が長期間居住することで生じた丘を指しますが,絵では全くその点が考慮されていないです。

第9巻

第4話

失敗した会社経営者がキートンの伝説の池探しに付き合って,勇気を取り戻す話。

またまたケルト人が出てきます。

「銅の精錬技術もあった以上,たぶん刀剣も作ったでしょう。」

 おいおい,ケルト人といえば鉄器時代に入っていて,武器類はたくさん出ているだろう!

第10巻

第3話

エジプト,ハラルコン2世の墓から出たイシス像の呪い(?)の話。

玄室で黄金のイシス像を奪い合ったなどということは昔はあったのでしょうか。

死者の蘇生の力があると信じられ,ローマ世界でも広く信仰の対象となったイシスがこの場合は人を呪い殺すのですね。

第7話

祇園祭の京都が舞台。

山車という表現は抵抗がある人もいるのではないでしょうか。山鉾ですよね。

なぜか巡幸の後に宵山みたいのをやっているし...

第8話

イタリアでエルトリアの遺跡を掘る話。

これってわざとかなぁ。エトルリアなら実在する文化なんだけど。

細かいことだけど,使っているスコップは日本で使う,世界的にいえばかなり特殊な形態で,イタリアには一般には柄の長いスコップしかないはず。タガみたいなもので,壁を削っているけれど,こんな道具を使う調査はみたことがない。

第11巻

第4話

イタリアでナポリ周辺のマフィア,カモッラに追われる人の巻き添えをくう話。

カモッラの構成員をカモリスタというのですが,日本語の語感と合ってしまい,ちっともすごみが感じられない。


ここには珍しく参考文献が挙げられています。

第12巻

第3話

キートンがいかにしてオプとなったかという話。キートンがアルバイトをしている発掘現場で起きた考古学者同士の殺人事件です。

調査主任の小屋になぜか磁器のコレクションが飾ってある。こんな割れ物をわざわざ短期間の現場事務所に持ってくるか?

それから,出土したワイン用の土器に,ワインを入れて乾杯をするのですが,この辺の感覚は私にはわかりません。個人的には出土物を実際に使ってみようという気には全くならないのですが,これは私だけのことかもしれません。

第5,6話

KGBの工作員「赤い風」の話。考古学ではないですが,ちょっと一言。

1973年のモスクワから話が始まります。教生のナタリア先生に恋した三人がウォッカで乾杯し誓いをたてるけれど,ナタリアというよりはナターシャと愛称で呼ぶように思う。

またウォッカは貴重品なので子供が勝手に飲むようなことはちょっと考えにくい。


あと6巻あるらしい。


久しぶりです。

一気に残り6巻を読みましたが、考古ネタは少なくなっています。

第13巻

第3話

森の神のすむ伝説のあるヨークシャーの森で発掘中にいろいろ不思議なことが起こる話。

ケルト遺跡という言い方が少々気になります。文献側の人ならともかく考古学研究者なら鉄器時代遺跡といったより客観的な言い方をすると思います。

第14巻

第5話

昔の経営者が集めた浮世絵を壁に貼っていたというパブが出てきます。しかし150年前に日本と交易していたイギリス人という設定は無理があるのではないですか。まだ鎖国は解けていないはずですね。

第6話

ゆっくり論文を書こうとしていたキートンに幼なじみの女性が難題を持ち込んでくる話。なんとキートンは何も見ずにタイプライター1台で論文を書いている。天才的だ。図のない考古学の論文って、味気ないだろうな。

第7・8話

資金調達のためドイツの博物館から美術品を横流し使用とするネオナチグループとそれを阻止するために戦う学芸員の話。犯行の解明の手がかりとなるメモが7話ではフランス語なのになぜか第8話ではドイツ語になっている。後半を書く段になってドイツが舞台だったことに作者が気づいたのでしょうか?

第15巻

特に考古学関連の話はありません。

家庭教師を引き受けたキートンが「5000年ほど前に人類が犬を飼い始め、文明を持つゆとりが出来た」と述べるくだりがありますが、これは間違いで、犬の飼育は旧石器時代末期には始まっていた証拠が

すでに出ています。

第6話に大英図書館が出てきます。大英博物館の中にありますが、今はもう別館が出来たのでしょうか。

中の雰囲気は良く出ているので、たぶん作者は入ったことがあるのでしょう。

第16巻

第4話〜6話 

メイド・イン・ジャパンというタイトルのこの話では毒を塗った楊枝を使う仕事人、中村氏がキートンの命をねらう。

スコットランドで娘と共にキートンは発掘をしているのですが、まるで古生物の調査のよう。きちんとグリッドも切っていないし、なによりも横方向へ掘っているのは許し難い。タヌキ掘りは緊急時にしかしてはならんものだ。

第8話は「戦場のメリーゴーランド」という映画の話。ときどき見られるこういうパロディっぽいネーミングは結構気に入っています。


第17巻

第5話 

東都大学の講師になりかけたキートンがその職を蹴る話。

まるで安田講堂のような建物がでてきます。

 学内の権威主義やアカデミズムとは無縁の社会にあきれる過程が描かれます。確かに徒弟制の名残を残し、自分の好きなことが出来ない研究室はいまだに存在しますが、ちょっと極端な描き方ですね。

 憮然とした修士過程(ママ)の学生が何と線帯文土器の整理をしている。こんな中部ヨーロッパの新石器時代の土器を持っている大学は日本にはないぞ。

そんな貴重なものを触れるのだから、文句を言うなと言いたくなってしまう。

 教授会メンバーとのゴルフのおつきあいという話題も出ます。考古学研究者でゴルフもする人ってあまり聞かないけれど、どうだろう。

ゴルフ場建設にともなって壊される遺跡が結構多いので、何となく考古学をやっている人間にはゴルフは結びつかない気がします。

 論文を自分の名前で発表しようとする教授からキートンは論文を取り返し職を蹴るわけですが、このパターンは最近の浦沢氏の作品Monsterにもありました。そのきっかけは恩師ユーリー先生の死を知ったことで、この後ルーマニアでの調査資金を作るためにキートンはシャカリキになって仕事を始めます。

第6話

ユーリー先生の孫娘からキートンは遺品のプレートを受け取ります。

ヨーロッパ最古の紋様、雷文と女神像をあしらった円盤です。

どういう根拠で最古などといっているのでしょうね。旧石器時代の洞窟絵画とか、中石器時代の彩色礫はどうなるのだろう。

第8話

キートンの娘、百合子は考古学をめざす2浪の青年と出会い、とりあえず彼と同じ早慶大に合格しますが、最終目的はオクスフォードとのこと。

考古学は確かのようですが、その何を専攻する気なのかな。


第18巻

いよいよラストです。

全巻,ルーマニアでのチャウシェスクの秘宝をねらう元秘密警察とキートンとの戦いにキートンのメインテーマ「ドナウ文明」の手がかりが絡む話。

論文を送っておいたブカレスト大学の考古学科の助手がキートンの説に共感してくれるのですが,その直後に同僚が殺人の濡れ衣を着せられ,キートンも秘宝を狙う者達に追われる身になります。

なかなか緊迫感あふれる話運びで,追跡と謎解きが展開します。

秘宝の隠されているジェコバ村に入るとき,「辛気くさい」という表現が出てきますが,これは原義を知らない用法ですね。字面と音のイメージから,関東人は陰気な

とか不景気なという意味だと誤解していることを私は関西に住むようになって知りました。

このジェコバ村こそユーリ先生がドナウ文明の手がかりとなるプレートを見つけた場所だったという容易に予想できるおちになっています。

とりあえず一人で発掘を始めたキートンが別れた妻にここに来てくれと語りかける感動のラストシーンへと続きますが...

学術調査なら他分野の研究者を含んだチームを先に組織しないといけないのに、一人でところかまわず掘ったら単なる盗掘ではないか。ちゃんと土層の断面が見えるように,掘らんか!

グリッドも何も設定していないし,事前の手続きや地形測量はどうなっているんだ。

遺物を取上げる用意も何もしていないぞ。

そもそも外国人に発掘許可がそんなに簡単に出るの?

と文句たらたらになってしまった。

 ヨーロッパ文明の源としてドナウ文明が位置づけられていますが,どの段階をヨーロッパ文明としているのかが私にはわかりません。ヨーロッパが一体のものとして認識できるのは,ギリシア・ローマ文化の遺産とキリスト教のせいであってそれ以前は少なくとも青銅器時代まではあの地域を包括できる概念は成立しにくいと思います。バルカン半島を起点とする農耕文化が中部ヨーロッパを縦断し,スカンディナヴィア南部やブリテン諸島に達したのは確かですが,全く別の地中海沿いに広まった文化も存在しました。

考古学の面は今一つでしたが、ストーリーは楽しめるものが多かったと思います。

御紹介いただきありがとうございました。


註:某BBSに1996年1月〜5月に書き込んだものです。

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