紫波町以北の北上低地帯では河床の砂礫層や段丘堆積物の下に半固結状態の粘土・シルト・砂等からなり亜炭や薄い軽石を挟む灰色の地層が分布しています。建設コンサルタントの報告書では、この層を三ツ沢川層や金沢層に区分している場合が多いようです。それは、地質調査所の地質図「盛岡」や岩手県土木技術振興協会の岩手県地質図、長谷地質調査事務所の北上川流域地質図などで、紫波町西部の北上低地帯西縁に「三ツ沢川層」が、石鳥谷町から花巻市以南の北上川沿いに「金沢層」の分布が示されているため、それらの分布地に比較的近い位置で確認されたという安易な理由によるものです。ちなみに、共立出版の「日本の地質2東北地方」では、「盛岡夾炭層」について「相当層を含め沼宮内(岩手町)北方から北上市にかけての北上低地帯全域に分布」と書いてあります。「盛岡夾炭層」は「三ツ沢川層」に対比される層です。自分達が命名した盛岡夾炭層を広めるための筆者(故大上先生)のキャンペーンでしょうか^^;。
文献によっては鮮新世に区分されているこれらの層は、象の足跡化石発見などから、更新世の前期の層に評価されるようになりました。和賀川以南では、鮮新世〜更新世の地層をかなり細かく区分していますが、今のところ私の手元には石鳥谷〜紫波・矢巾地域でこれらの層を細分するような資料はありません。活断層関連の文献で石鳥谷・花巻付近の更新世前期の地層を志和層に区分しているのを見たことはありますが。。。。
さて、この層(私のようなアホにも単位をくれた大上先生に敬意を払い、このページでは盛岡夾炭層相当層と呼ぶことにする)、多くは更新世〜完新世の堆積物の下にあり、露頭もほとんどないため、その分布がよくわかりません。北上低地帯に沿って分布しているのは確かなようですが、東の北上山地側にも所々分布しているようです。土井さんの岩手火山群地質図では、盛岡市松園の東側に分布する事が示されています。私の務め先でも北上山地で時々この盛岡夾炭層相当層と思われる層をボーリング調査で確認しています。以下に確認した地点を紹介します。
※添付している地質図は地質調査所の地質図「盛岡」CD版より一部拝借m(_ _)m
(1)盛岡競馬場跡地付近
地質図の凡例
更新世〜完新世 Vd:火山砕屑性堆積物、t3:北上川流域低位段丘堆積物
中生代前期白亜紀 g5:花崗岩類
古生代 Hc:チャート、 Hv:苦鉄質火山岩、Hs:粘板岩
盛岡市西部では、盛岡夾炭層の上に古北上川雫石川堆積物や、青山町岩屑なだれ堆積物、大石渡岩屑なだれ堆積物などの層が厚く分布しているのですが、競馬場跡地付近では被覆する層が薄く、比較的浅い深度で盛岡夾炭層を確認できるようです。
(2)紫波町周辺
地質図の凡例
完新世a:沖積層
更新世 t1:北上川流域高位河岸段丘堆積物
古生代Hc:チャート、Hv:苦鉄質火山岩、um:超苦鉄質〜苦鉄質岩、N:石灰岩及び粘板岩
No.2とNo.3の黄色の地点は北上川沿いのボーリング地点で、この2点では砂礫層の下に盛岡夾炭層相当の地層が確認できますが、それよりやや標高の高いNo.1(紫波町東長岡)でも半固結状態のシルト層を確認しています。この地点は段丘の上にあたり、この地域では段丘堆積物の下に盛岡夾炭層相当の地層が分布している可能性が考えられます。
紫波町星山のNo.4付近は、この地質図ではよくわかりませんが、北上川支流の小さな川(沢)があり、その川沿いに東西方向の小規模な谷地形となっています。ボーリングは谷底の水田で実施し、耕土の下に盛岡夾炭層相当層を確認しています。かなり浅い深度で確認したため、この近くに露頭があるかも知れません。
No.5は紫波町遠山で、北上川から東側に山を一つ越えた所に位置します。ここでも亜炭や白い軽石層を挟む盛岡夾炭層相当と考えられる地層を確認しています。周囲の山々は古生層からなりますが、谷底には盛岡夾炭層相当の地層が分布しているようです。
(3)宮守村達曽部
地質図の凡例
完新世a:沖積層
更新世 Ks:金沢層
更新世 t1:北上川流域高位河岸段丘堆積物
中生代 g3:花崗岩
古生代um:超苦鉄質〜苦鉄質岩、Pm:砂岩・粘板岩・石灰岩・礫岩、Pu:粘板岩、PI:粘板岩・石灰岩・砂岩及び礫岩
地質図左側のKsが金沢層。このページで盛岡夾炭層相当層に区分している層です。宮守村達曽部は北上低地帯から見て、かなり東側に位置していますが、ここでもボーリングで亜炭を挟むシルトを主体とする層を確認しました。たぶん盛岡夾炭層相当層でしょう。
このように、盛岡夾炭層相当層は谷地形沿いに北上山地の西部にも所々分布しているようです。これらの層はN値が15〜30程度で、構造物によっては支持層として評価するには物足りない場合もあります。その時は古生層の岩盤まで掘り下げて調査するわけですが、北上山地は一般に岩盤線が浅いため、ボーリング調査深度を甘く見積もっている場合が多く、盛岡夾炭層相当層に遭遇すれば「調査予算オーバー」なんて事になってしまいます。ご用心。
なお、ここで紹介した層は、盛岡夾炭層より時代の新しい無名の洪積層かもしれません。m(_ _)m