山野哲也選手のジムカーナ走行映像

(2002.01/01)


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【少し立ち止まって】
 全身が熱くなり、そして身震いするほど感動させられることは、そうあるものではありません。確かに、多感な子供のころなら、とりまく世界のさまざまなものに心を動かされることはあるでしょう。しかし悲しいことに、大人になるにつれ、そうした感覚は鈍る一方であることに気づかされます。その方が、生活していく上で都合が良いといえば良いかもしれませんが・・・。

 さて。ここで少し立ち止まって、考えてみたいと思います。
 一見もっともらしく聞こえる「大人になるにつれ、感覚が鈍くなってくる」というフレーズ。果たして、これは本当なのでしょうか。

 それは違うのではないか、と私は思っています。
 感覚が鈍くなっている部分はやはりあるとしても、それとは別に、失敗や成功を重ねていくことで物事を見極める能力が備わり、本当に優れたものでないと感動できなくなっていると解釈してもよさそうです。だから結果として、なかなか感動する場面に遭遇できなくなっているのです。
 逆にいえば、心から感動させられ、時間がたった後でもその感動を呼び起こすことができるようなものは、何か魅力にあふれるものを持っており、本当に素晴らしいものだと言えるかもしれません。

 2001年6月24日、日曜日。長野県のラリーキッズ伊那において、全日本ジムカーナ選手権第6戦の決勝が開催されました。
 コースを2回走行し、良い方のタイムで順位を決定するというのがジムカーナのルールです。この日は天候の変化が激しく、午前が強い雨、午後が快晴となったため、路面が乾いた午後の走行のみで順位が決まることになりました。

 当日録画したビデオ映像があります。これを編集し、A3クラスに参戦する山野哲也選手の走りを、第1ヒートと第2ヒート、それぞれアップしました。

 QuickTimeストリーミング形式でファイル出力してありますので、クリックすると自動的に動き出します。
 通信速度、OSの違う端末で数カ所にわたり動作確認したところ、ADSLやケーブルネットのような高速通信環境でないと、ぎこちない動きになってしまうことが分かりました。もしうまく再生できないようでしたら、いったんハードディスクに保存して、改めてそのファイルを再生すれば良いかと思います。

【第1ヒート撮影データ】
 ・撮影者:早川泰志
 ・撮影日:2001年6月24日(日)
 ・時刻:午前10時40分頃
 ・天候:雨
 ・場所:ラリーキッズ伊那 Aパレット
 ・ドライバー:山野哲也
 ・車両:ビルシュタイン540S2000
 ・タイム:1'28"583
 ・順位:7位


【2001年 全日本ジムカーナ選手権第6戦 第1ヒート】

ファイル名:gym010624_1.qt
ファイル容量:4.7MB

山野選手第1ヒート走行映像


YAMANO Driving Magic
 A3クラスの全車両が第1ヒートの走行を終えます。トップタイムはインテグラを駆る松岡和之選手の出した1'25"878です。対する山野選手は、場内アナウンスが伝えていたように「平凡なタイム」1'28"583に終わり、7位でした。優勝候補の一人であるにもかかわらず、このような結果になってしまったことを、どう捉えればいいのでしょう。
 第1ヒートの上位6台のうち5台がインテグラだったことから、雨の日はFF優位と仮に結論付けることが可能だとしても、同じくS2000で参戦している田口玲選手のタイム1'27"502より1秒以上遅いことの説明はつきません。
 雨が苦手なのだろうか、という意見に対しては、例えば、ニューズ出版から発売されている“DVD Version”「HYPER REV VIDEO SPECIAL ドラテク バイブル vol.1」に収録されている、雨の筑波サーキットでの山野選手のブッチ切りの走りを見れば、そうでないことが分かります。また車両に関しては、この大会に先立ちロールケージに補強を加えたことで剛性が上がりハンドリングも良くなったと語っていたほどですから、仕上がり具合に間違いはなさそうです。
 失礼を承知でタイムのことを伺ってみました。すると返ってきた言葉は、「なぜだか分からないけど、タイムが出ないんだよね」というものでした。

 空気圧の設定を失敗してしまったとか、インを逃してタイムロスしてしまったというようなものなら、対処の見当がつく分、次の走行に臨みやすいのではないでしょうか。ところが今回は状況が違います。
 ・・・。原因がよく分からない。

 さて。
 ジムカーナ競技には「慣熟歩行」という時間が設けられています。いわゆる“下見”のようなもので、第1ヒート前と第2ヒート前に、それぞれ45分間とか30分間が与えられます。この時間に選手は歩きながらコース状況を調査し、ドライビングに役立てるわけです。
 ファンということを差し引いても、この慣熟歩行を見ていてとりわけ目を引いたのが、山野選手でした。ほとんどの選手が文字どおり「歩いて」コース下見をしている中で、走っては後ろを振り返り、戻ってはまた走るといったことを何度も何度も繰り返している姿に、並々ならぬこだわりが伝わってきます。

 しかし、「どうしてそこまでこだわるのだろう? こんなに調子が悪いのだから、いくらやったって勝ち目なんかないじゃないの?」 素直に私はそう思いました。
 それなのに、なぜだ?

 ふと、以前「スピード・マインド」誌に掲載されていた“精神力をつける”という特集のことを思い出しました。
 山野選手に関連している文章を一部引用します。

------ ここから ------------------------------
 「あらゆることに対して、考え方をポジティブに持つことが大切だね」
          (中略)
 冒頭のコメントに対する山野選手の理論はこうだ。例えば道路を走っていたとしよう。そのとき、渋滞にハマってしまったとする。渋滞を避けるため、裏道に入ったが行き止まりだったため、再び渋滞する道に戻ってきた。このとき、どう考えるかということだ。
「普通なら失敗したって思うよね。行き止まりで戻ってきただけ時間をロスしているわけだから。でも、僕はそう思わないようにしているわけ」
 つまり、渋滞していたおかげで、その裏道が行き止まりということを知ることができたじゃないか、というわけだ。(中略) 確かにそのときは失敗したが、その失敗が今後に役立つことになる、と良い方向に考えるのだ。
          (中略)
「裏道に入るっていうことは、ルート探索に挑戦しているってことだと思うんだよ。つまり守りじゃないってこと。だから失敗を恐れなくなるんだな」
          (中略)
 これも山野選手の体験談だが、以前F1の前座レースで鈴鹿を走ったときのことだ。3位争いをしていた山野選手は、リタイヤを恐れて引いてしまい、結局4位で完走したことがある。だが、そのレースで山野選手はもの凄く後悔したというのだ。
「あれで吹っ切れたね。あんなことじゃ到底プロじゃやっていけないって。だから、あのときからは、当たってもいいから攻めるっていう方針に180度変えたよ」
          (中略)
 ほかにもパンクしたまま完走して4位に入賞したり、GT選手権ではシフトレバーが折れてしまったが、レバーの根本でシフトして30周を走りきったなど、武勇伝は数知れない。だが、すべてに共通していることは、
「絶対にあきらめちゃいけないってことだね。もしかしたら、自分より上位のヤツらがすべてリタイヤする可能性だって絶対ないわけじゃないでしょ」
 確かに、トラブルを抱えながらの走行は、根性という言葉も関係してくるかもしれない。だが、与えられた環境の中でベストをつくす、という姿勢が山野選手をここまで強くしたと言えるのではないだろうか。
------ ここまで ------------------------------

 「プロ」という言葉がありましたが、それに対して語ったものがあります。
 衛生放送の「movin' you.」で放送された山野選手の特集から一部引用します。

------ ここから ------------------------------
「一生サラリーマンで暮らすよりは、自分にそういう生き甲斐を感じられる事があるんであれば、そっちの道にちょっとのめり込みたいな。
 で、最後自分が死ぬときになってね、人間ってやっぱりいつかは死ぬわけだから、そのタイミングっていうのはね人によって、もちろん長生きする人もいれば、何かのきっかけですぐ亡くなっちゃう人もいるかも知れない。で、そうなった時に、自分がやりたい事をやってきたなっと思える死に方がね、できるためには、サラリーマンのままじゃ僕はダメかなっていう風に思ったんだよね。それがプロに転向したきっかけとなったかな。」
------ ここまで ------------------------------

 しかし、そうは言っても、今回はやはり状況が悪すぎという印象が拭い取れませんでした。これで勝てたら、本当に手品のようです。

 そろそろ、第2ヒートの時間がやってきたようです。

【第2ヒート撮影データ】
 ・撮影日:2001年6月24日(日)
 ・時刻:午後3時00分頃
 ・天候:晴れ
 ・タイム:1'17"469
 ・順位:YAMANO Driving Magic ?


【2001年 全日本ジムカーナ選手権第6戦 第2ヒート】

ファイル名:gym010624_2.qt
ファイル容量:5.2MB

山野選手第2ヒート走行映像


【少しだけ解説】
 後日、鈴鹿サーキットで開催されたシビックRミーティングで山野選手にお会いしたとき、この2本目の走行のことを伺いました。
 山野選手曰く:「ああ、あの時はもう死ぬ気で走ったよ」

 映像を見るとき、左右の矢印キーを使うとコマ送りになります。
 スタートして間もなくの奥の左コーナー。フロントが滑っているのが分かるでしょうか。それと手前側の、2回通ることになる右コーナーのライン取り。素晴らしいの一言です。

 すごいものを見たりして強く感動することがあっても、それは時間とともに段々と薄らいでいってしまうのが普通です。ただ、そうやって忘れていってしまうのは、非常にもったいないことです。
 できることなら、いつでもその感動を思い出せるような気持ちでありたいものですね。


【リンクのご案内】
 山野哲也選手のホームページはこちらです。

 http://www.yamanomagic.com/


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