1996年/フジテレビジョン・角川書店・東宝 | |
監督 | 市川崑 |
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原作 | 横溝正史「八つ墓村」 |
美術 | 櫻木晶 |
出演 | 豊川悦司、浅野ゆう子、加藤武、宅麻伸 |
市川崑による久しぶりの金田一耕助シリーズである。かつての石坂金田一のシリーズが好きな身にはまさに待望の作品であった。
まず主役の交代がこの映画に及ぼした影響はどんなものであったか。予告編を見る限り豊川悦司に不安はなかった。しかしながら実際に映画が始まってみると、やっぱりなんだかちょっと、ううむ、と思ってしまったのである。いったい豊川悦司の何がそう思わせたのだろうか。
まずその若さ。あまりに若すぎて高名な探偵には見えない。市川監督は前回のシリーズの時から既に、原作者の横溝正史にことわって、金田一耕助というキャラクターを警察官に捜査のじゃま扱いされるなどという様に、高名な探偵という風には描いていないのだが、それにしても年齢から来る信頼感のなさは前の石坂浩二とは異なり拭いきれないような気がしてならない。それと台詞の話し方が時折古畑任三郎のように間延びした言い方になって、これも気になる。
ならば石坂浩二ならよかったのだろうか。確かに以前のイメージから来る安心感で及第点の取れる作品にはなったろう。だが新しい金田一像を造るという点では石坂金田一の残像を消し去らなくてはいけないのだろう。石坂浩二にしたところで「犬神家の一族」ではまだ硬さもあったろうが、次の「悪魔の手鞠唄」からようやく板に付いてきてシリーズの最高傑作を生みだしたのである。だからもしこの「八つ墓村」の続編が作られるならば、そこで始めて豊川金田一の真価が分かるのかもしれない。ただ心配なのは、あまり興行成績が良くなかったことである。果たして続編の企画が生まれるであろうか?
さて、もう一つ気になったことがある。それはまた役者の話になるのだが、脇役の層の薄さである。以前の日本映画には名バイプレーヤーと呼ぶにふさわしい個性的な脇役がぞろぞろいたのだがとにかく最近の日本映画はこの点が極端に不足している。また、役者がテレビに出すぎてタレント化し、映画を見ていてもゴージャス感に欠けて作品を貧相なものにしてしまっている。これは全くもって残念なことである。
不満ばかり書いたが、映像的には市川監督独特の明暗のコントラストのはっきりした美しいもので、美術も一級品。こういったところは日本映画の黄金期の職人芸が生きているようで大満足であった。
<MK>
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