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自然保護憲章について

 

 毎年、6月5日は環境の日となっています。これは、1972年6月5日からストックホルムで開催された「国連人間環境会議」を記念して定められています。国連では、日本からの提案を受けて6月5日を「世界環境デー」と定めました。日本では「環境基本法」が法律に基づき「環境の日」を定めています。

 

 (環境の日) 

 第10条 事業者及び国民の間に広く環境の保全についての関心と理解を深めるとともに、積極的に環境の保全に関する活動を行う意欲を高めるため、環境の日を設ける。

2 環境の日は、65日とする。

3 国及び地方公共団体は、環境の日の趣旨にふさわしい事業を実施するように努めなければならない。

 

 6月5日は環境の日の他に、自然保護憲章制定国民会議1974(昭和49)年65日に「自然保護憲章」を制定した記念日でもあります。自然保護憲章は、自然保護に関する国民的指標として制定されました。この憲章は、西ドイツの「マイナウの緑の憲章」にならったもので、「自然保護憲章制定国民会議」(学術団体・自然保護団体・婦人団体・行政機関・産業労働団体・議員など各界149団体で組織)により制定されました。日本自然保護協会は、「自然保護憲章制定促進協議会」の中心的組織として、8年がかりでこの憲章を起草しました。今も遜色ないこの憲章の内容は、生物多様性基本法の基本理念に合致するものと思います。

 

 制定の背景

 

 憲章制定の根底には、高度経済成長期の自然破壊や道路建設、ダム問題など、環境破壊が激しかった時代に、学術的価値であり、美しい自然を残すことなどが自然保護のよりどころであったことがあります。

「自然保護憲章」制定年から遡ること10年前の1964年頃に、日本自然保護協会の有識者の間で、西ドイツの「緑の憲章」にならって、日本でも「自然保護憲章」のごときものの制定の必要性が議論され、厚生省国立公園局やその他の関係各方面に呼び掛けられました。この呼びかけに反応した国立公園局長が局内で一応の研究をして、1966年8月、大山隠岐国立公園鏡カ成集団施設地区で開催された第8回国立公園大会で、大会参加者一同として、自然保護憲章制定促進決議が採択され、関係方面に陳情されたのが始まりです。

 その後、同大会参加団体を代表して、国立公園協会、日本観光協会、日本山岳協会、新生活運動協会、日本自然保護協会が幹事団体となって、数回会合を開いて自然保護憲章案の検討を行いましたが、資料不足等で会議を進めることが困難を極めました。そこで、日本自然保護協会が資料収集を行い1969年に同協会内に自然保護憲章研究部会を設けて、憲章案制定に努力し、197010月に自然保護憲章第1次案が発表されました。さらに同協会は、全国の自然保護関係141団体が参加する自然保護憲章制定促進協議会が創立され、第1次案に対する研究を加え1971年に第2次案が発表されました。この案に対して更なる意見が寄せられ、同協会の役員を含めた促進協議会理事会などで検討を加えた結果、自然保護憲章案(第3次案)が決定されました。この憲章案が広く国民の各層を結集した自然保護憲章制定国民会議において検討され3年後、自然保護憲章が天皇陛下も臨席し制定されました。

 

 憲章の問題点

 

 国民的指標として制定された憲章でしたが1960年代「自然は人間の為に賢明に利用すると言う」人間中心主義から脱却していない時代でした。人間と自然は共存すべき主張する団体の賛同は得られませんでした。

 また、自然保護憲章は、1985年まで国会でも度々取り上げられていましたが、2000年以降は一切語られなくなりました。環境問題の多様化に取り残されてしまったのが原因のようです。

 

 内なる自然・今後の課題

 

 人間中心主義からの脱却として「内なる自然」と言う考え方があります。「日本を始め東洋の自然観は、人間と自然の関係を「一体不二」一つのもとして、古くは万葉の時代から、清少納言、兼好法師、を経て親鸞・道元・芭蕉とぶれることなく日本古来の伝統的自然観が続き、不思議に思わなかった。」「日本の風土に根ざした伝統的自然観は、多くの日本人の心の基底で共有されてきたが、それは、いはば、心から心に伝わる秘伝のようなものであった。」(品田穣)。霊長類学者の河合雅雄は「子どもと自然」(90 岩波新書)の中で「進化史を通じて人類の存在の根本を形成している諸性質を“内なる自然”と名付けよう。」とし、「系統発生的適応を通じて、われわれの心性の奥深く形成されたもの」を“内なる自然”と呼んでいる。」日本らしさの探求が求められます。

 

〜 自然保護憲章 〜

 

 自然は、人間をはじめとして生けとし生けるものの母胎であり、厳粛で微妙な法則を有しつつ調和をたもつものである。

 人間は、日光、大気、水、大地、動植物などとともに自然を構成し、自然から恩恵とともに試練をも受け、それらを生かすことによって文明をきずき上げてきた。

 しかるに、われわれは、いつの日からか、文明の向上を追うあまり、自然のとうとさを忘れ、自然のしくみの微妙さを軽んじ、自然は無尽蔵であるという錯覚から資源を浪費し、自然の調和をそこなってきた。

 この傾向は近年とくに著しく、大気汚染、水の汚濁、みどりの消滅など、自然界における生物生存の諸条件は、いたるところで均衡が破られ、自然環境は急速に悪化するにいたった。

 この状態がすみやかに改善されなければ、人間の精神は奥深いところまでむしばまれ、生命の存続さえ危ぶまれるにいたり、われわれの未来は重大な危機に直面するおそれがある。しかも、自然はひとたび破壊されると、復元には長い年月がかかり、あるいは全く復元できない場合さえある。

 今こそ、自然の厳粛さに目ざめ、自然を征服するとか、自然は人間に従属するなどという思いあがりを捨て、自然をとうとび、自然の調和をそこなうことなく、節度ある利用につとめ、自然環境の保全に国民の総力を結集すべきである。

 よってわれわれは、ここに自然保護憲章を定める。

 

・自然をとうとび、自然を愛し、自然に親しもう。

・自然に学び、自然の調和をそこなわないようにしよう。

・美しい自然、大切な自然を永く子孫に伝えよう。

 

1.自然を大切にし、自然環境を保全することは、国、地方公共団体、法人、個人を問わず、最も重要なつとめである。

2.すぐれた自然景観や学識的価値の高い自然は、全人類のため、適切な管理のもとに保護されるべきである。

3.開発は総合的な配慮のもとで慎重に進められなければならない。それはいかなる理由による場合でも、自然環境の保全に優先するものではない。

4.自然保護についての教育は、幼いころからはじめ、家庭、学校、社会それぞれにおいて、自然についての認識と愛情の育成につとめ、自然保護の精神が身についた習性となるまで、徹底をはかるべきである。

5.自然を損傷したり、破壊した場合は、すべてすみやかに復元に努めるべきである。

6.身近なところから環境の浄化やみどりの造成につとめ、国土全域にわたって美しく明るい生活環境を創造すべきである。

7.各種の廃棄物の排出や薬物の使用などによって、自然を汚染し、破壊することは許されないことである。

8.野外にごみを捨てたり、自然物を傷つけたり、騒音を出したりすることは、厳に慎むべきである。

9.自然環境の保全にあたっては、地球的視野のもとに、積極的に国際協力を行うべきである。

昭和4965日 自然保護憲章制定国民会議

 

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