[宛先]環境省自然環境局自然環境計画課

[件名]「自然環境保全基本方針(変更案)」に対する意見

[氏名]草刈秀紀

一般社団法人 リアル・コンサベーション 代表理事

 

[意見]1頁2

・意見内容

第1部の前に「はじめに」として過去数十年に及ぶ自然環境の変化や様々な法制度の制定、改正等について記述を加えるべきである。特に、これまで策定してきた生物多様性国家戦略で明記していた生物多様性に対する4つの危機のように、国(環境省)として、自然環境に関して、どんな問題があると認識しているかについて記載するべき。そのうえで、それにどのように対応していくという文章が続くべきではないか。この場合の問題(危機)の内容は、国家戦略と重複してもよいが、法的位置づけを整理した上で、本法ならではの、特徴を出すべきである。

・理由

自然環境保全法が制定された背景は、1960年代に起こった四大公害事件(熊本水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく)の体験を経て、公害法に重点が置かれるようになったこと。その後、1960年代半ばころまでは、戦後の経済成長の過程で公害が各地に発生し、個別法での取り組みが行われたが、これらは対症療法的な対応のみであり、十分なものではなかったこと。その後、1960年代半ばから1970年代にかけて公害対策の充実化が図られてきた。1967年には公害対策基本法が制定され、1970年の臨時国会(いわゆる公害国会)では14の公害関係の法律の整備・改正が行われ、公害対策基本法から経済調和条項が削除された。個別法が制定されるとともに、公害対策基本法と、1972年に制定された自然環境保全法によって、公害法と自然保護法の体系が確立した。そして、公害対策基本法と、自然環境保全法の政策原則部分を取り入れて、1993年に環境基本法が制定・施行された。こうした枠組みの転換の背景には、環境問題をめぐる時代や経済社会の変化がある。自然環境保全基本方針は、昭和48年に制定され、日本の自然環境保全の基本的な方針としてこれまで改定されることなく、現在に至っている。このような変遷や新たな生物多様性保全に関する国家戦略の制定など前文として記述しておく必要がある。その際、生物多様性国家戦略の前文が参考になる。

https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/initiatives/files/2012-2020/01_honbun.pdf

 

[意見]1頁6

・意見内容

「生命が存立する基盤であり」は「生命が存立する基盤でありまた財産であり」とすべき。

・理由

 生物多様性基本法の前文の記述を踏襲すべきである。

「人類は、生物の多様性のもたらす恵沢を享受することにより生存しており、生物の多様性は人類の存続の基盤となっている。また、生物の多様性は、地域における固有の財産として地域独自の文化の多様性をも支えている。」

「我らは、人類共通の財産である生物の多様性を確保し、そのもたらす恵沢を将来にわたり享受できるよう、次の世代に引き継いでいく責務を有する。」

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=420AC1000000058

 

[意見]1頁7−8

・意見内容

変更前の第一部Aの「それ自体が豊かな人間生活の不可欠な構成要素をなす」が削除されている。生物多様性が人類生存の為の構成要素であることを書き残すべきである。

・理由

生物多様性基本法の第二条(定義)において、次のような記述がある。これは、重要な点であり、本基本方針においても書き残しておくべきである。

第二条(定義)

2 この法律において「持続可能な利用」とは、現在及び将来の世代の人間が生物の多様性の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である生物の多様性が将来にわたって維持されるよう、生物その他の生物の多様性の構成要素及び生物の多様性の恵沢の長期的な減少をもたらさない方法により生物の多様性の構成要素を利用することをいう。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=420AC1000000058

 

[意見]1頁11

・意見内容

「このように、人間も、日光、大気、水、土、生物・・・・」は、水循環基本法の理念を参照して書くべきである。

・理由

水循環基本法の理念を加筆すべき。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/mizu_junkan/about/pdf/02_kihonho_all.pdf

 

[意見]1頁12

・意見内容

「自然の理(ことわり)に沿った」は「自然の摂理に沿った」にすべきである。

・理由

理(ことわり)の意味よりも摂理(自然界を支配している法則。自然の法則)が本基本方針の理念に即している。

 

[意見]1頁13−14

・意見内容

「自然の仕組みを基礎とする真に豊かな社会をつくること」は、「自然の仕組みを基礎とする真に豊かな循環型社会をつくること」修正すべき。

・理由

地域循環共生圏をはじめSDGsも持続可能な社会を目ざしており、循環型社会とすべき。

https://www.env.go.jp/policy/chiikijunkan/

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html

 

[意見]1頁15

・意見内容

変更前の第一部「自然環境保全の問題に対処することが要請される」が削除されたが、「地球環境保全の問題に対処することが要請される」と地球環境を加えて、残すべきである。

・理由

現在も様々な自然環境保全の問題が潜在的に残っており、地球環境全般についても深刻な状況にある。

 

[意見]1頁15

・意見内容

「本法制定時は、経済成長に伴う開発等による自然環境の破壊に対処することが最も大きな課題であったため」と記述されているが、現在も様々な開発行為は、続けられており、むしろ戦略的な環境影響評価や簡易アセスの必要性も加筆すべきである。(同4頁の131同様)

・理由

現在も様々な開発行為は、続けられており、むしろ戦略的な環境影響評価や簡易アセスの必要性も加筆すべきである。また、環境影響評価の代替案としてゼロ案がない、ゼロオプションも含めた代替案とする必要がある。

 

[意見]1頁22

・意見内容

「加えて、近年では、本格的な少子高齢化・人口減少社会・・・・多様な生物相とそれに基づく豊かな文化が危機に瀕している」重要な段落である。唯一、この段落にのみ「里地・里山」の記述がある。手付かずの自然や二次的自然環境である里地・里山の重要性が高まっており、9頁以降の「第2部 自然環境保全地域等に関する基本的事項」に里地・里山の記述を加えるべきである。

・理由

手付かずの自然や二次的自然環境である里地・里山の重要性が高まっており、9頁以降の「第2部 自然環境保全地域等に関する基本的事項」に里地・里山の記述を加えるべきである。

 

[意見]1頁30−31

・意見内容

「意図的・非意図的に導入される生物」は、意図的・非意図的に導入される外来生物や人獣共通感染症や感染症問題などについても記述が必要である。また、ワンヘルス(One Health)の考え方を書き加える必要がある。

・理由

意図的・非意図的に導入される生物という曖昧な書き方にせず、未だに深刻な意図的・非意図的に導入される外来生物や人獣共通感染症や感染症問題などについても記述が必要である。

ワンヘルスについては、国際獣疫事務局(OIE)と世界保健機関(WHO)及び国連食糧農業機関(FAO)が協力して、ワンヘルス(One Health):人の健康、動物(家畜)の健康、生態系の健康が、相互に密接な関係があり、それらを総合的に良い状態にすることが真の健康である、という概念を打ち出している。

OIE,WHO,FAOの三者の声明One Health

FAO/OIE/WHO Collaboration (Tripartite)

https://www.who.int/zoonoses/concept-note/en/

ONE HEALTH: Food and Agriculture Organization of the United Nations Storategic Action Plan

http://www.fao.org/3/al868e/al868e00.pdf

One Health News

https://www.onehealthcommission.org/en/news/one_health_news/?action=search&tag=OIE

日本ワンヘルスサイエンス学会

http://jsohsci.kenkyuukai.jp/about/

 

[意見]2頁38−44

・意見内容

「生物多様性に深刻な影響を与える可能性がある」は、「生物多様性に深刻な影響を与えている」とすべきである。

「生態系がある臨界点を超えた場合、生物多様性の劇的な損失と(中略)危険性が高い。」は、生物多様性基本法の第3条基本原則3の記述とすべき。「一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難である」

・理由

可能性ではなく、実際に深刻な影響与えられている。また、生物多様性基本法の基本原則は、重要な指摘である。

第三条3 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており、科学的に解明されていない事象が多いこと及び一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることにかんがみ、科学的知見の充実に努めつつ生物の多様性を保全する予防的な取組方法及び事業等の着手後においても生物の多様性の状況を監視し、その監視の結果に科学的な評価を加え、これを当該事業等に反映させる順応的な取組方法により対応することを旨として行われなければならない。

 

[意見]2頁57

・意見内容

「社会的な選択としての方向性の決定を重視つつ」とある恐らくリニア中央新幹線問題などを想定していると思われるが、であれば、社会的な選択として重要な生物多様性の主流化もしっかり明記すべきである。

・理由

生物多様性の保全と社会的な選択の適切なバランスが重要であり、政治的な力で社会的な選択が優先されるべきではない。

 

[意見]2頁56

・意見内容

「予防的な態度に基づく」は「予防原則に基づく」とすべきである。

・理由

リオ宣言の第15原則を踏襲すべき。「原則15:環境を防御するため各国はその能力に応じて予防的取組を広く講じなければならない。重大あるいは取り返しのつかない損害の恐れがあるところでは、十分な科学的確実性がないことを、環境悪化を防ぐ費用対効果の高い対策を引き伸ばす理由にしてはならない。」

 

[意見]3頁83

・意見内容

SDGsの記述の部分にポスト愛知目標の記述を加筆すべきである。

・理由

愛知目標の記述が一切、見受けられないが日本で合意した愛知目標およびポスト愛知目標のことについても記述すべきである。

 

[意見]2頁63

・意見内容

2頁63に地域循環共生圏の取組を明記しているが、同様に具体的取組として、3頁の(3)(4)にも記述を加えるべきである。

・理由

地域循環共生圏の取組は、優れた取り組みと考えられる。このような取組は、具体的取組としても、(3)(4)記述を加えるべきである。

 

[意見]4頁109

・意見内容

(4)の部分に現代の新しい自然(例えば、都市部の獣害問題など)との関係性を記述すべきである。また、「無秩序な市街化地域の防止」については、野生鳥獣の軋轢が市街化地域でも発生している点も加えるべきである。

・理由

都市地域における問題として獣害問題や外来生物に関する問題も発生していることから、これらの事象についても記述を加えるべきである。

 

[意見]4頁114

・意見内容

(5)の海洋に関する記述に海洋プラスチックに関する問題(海鳥の事例)も記述を加えるべきである。

・理由

海洋プラスチック問題は、国際的な課題として注目されており、環境省がどのように対処するのか基本的な方針として記述すべきである。

 

[意見]4頁126−129

・意見内容

「絶滅危惧種や固有種の保全」は、「絶滅危惧種の指定の推進や固有種の保全」とすべき。

「外来生物の防除や」は、「外来生物の根絶や防除」とすべき。

・理由

改正種の保存法に基づき絶滅の恐れのある種を2030年までに700種指定することやIPBESの生物多様性の報告書による100万種が絶滅危機に関係する記述を加えるべきである。

外来生物の根絶をめざした事業が今も続いており、地域によっては、根絶も成功しているケースもある。

 

[意見]4頁131−136

・意見内容

「大規模な各種の開発」は、大規模を削除すべきである。

「住民の理解を得たうえ」は、「住民の合意を形成したうえ」または「住民の合意を得たうえ」とすべきである。

・理由

「大規模な各種の開発」は、小規模な開発を容認する書き方で問題である。また、「住民の理解」ではなく住民から合意を得ることが重要である。

 

[意見]4頁138〜144

・意見内容

この段落は、自然環境保全法の第四条の自然環境保全基礎調査を指していると思われるが、「科学的な調査を実施する」を「科学的な自然環境保全基礎調査等を実施する」を修正すべきである。また、基礎調査が努力義務で終わっているが、次の改正では、自然環境保全基礎調査を義務付ける必要がある。

・理由

環境省事業の全体で、生物情報の蓄積とモニタリングに関する実行体制が崩壊の危機にあり、生物多様性保全の国家的危機として認識すべきである。

多様性センターに集約される自然環境情報の効果的、効率的活用について、これからの時代を見据えた工夫の議論が必要であり、その活用システムについても、法にも書きこんでおくべきである。

環境省自然環境局の自然関連法規の下で実施される各種事業の中で調査が行われるが、内容の重複があるにも関わらず、自然環境保全基礎調査の情報が活用されていない。そのため、たとえば動物分布情報の収集調査について、各事業の受託事業者から、同時期に類似したアンケートが個別に自治体に投げられるため、自治体側は何度も対応する必要が生じるなど、よけいな負担が発生する実情がある。このことは明らかに予算の無駄遣いにつながっている。

モニタリング1000は、国家戦略の実施計画として位置づけられており、生物多様性センターの位置づけも整理する必要がある。

 

自然環境保全法

第四条(基礎調査の実施)国は、おおむね五年ごとに地形、地質、植生及び野生動物に関する調査その他自然環境の保全のために講ずべき施策の策定に必要な基礎調査を行うよう努めるものとする。

自然環境保全基礎調査

https://www.biodic.go.jp/kiso/fnd_list_h.html

 

[意見]4頁140

・意見内容

「研究体制の確立、情報システムの整備・・・・・養成等に努める」は、技術者の育成だけではなく、自然を保全する人材育成や然るべき予算措置も必要である。

・理由

指定管理者事業者や委託業者は、データが出せないでいる現状がある。

 

[意見]5頁152−157

・意見内容

「自然とのふれあい」は、「自然との豊かなふれあい」とすべきである。

・理由

自然との豊かなふれあい、つまり豊かな生物多様性とのふれあいが重要である。

 

[意見]5頁172

・意見内容

「自然環境保全基礎調査」は、自然環境保全法の核心とも言うべき取組であるが、本基本方針には、「自然環境保全基礎調査」という名称は、一切出てこない。第二部には、「自然環境保全基礎調査」のことをしっかり明記するべきである。

・理由

自然環境保全基礎調査は、緑の国勢調査とも呼ばれ、陸域、陸水域、海域 の各々の領域について国土全体の状況を調査している。自然環境保全法に基づき昭和48年(1973年)度よりおおよそ5年に一度を目安に実施される、日本における自然環境の現況及び改変状況を認識し、自然環境保全施策の策定に必要な基礎調査である。調査結果は、報告書及び地図等にとりまとめられたうえ公表されており、これらの報告書等は、自然環境の基礎資料として、自然公園等の指定・計画をはじめとする自然保護行政の他、各種地域計画や環境調査等の各方面において活用されている。

 

[意見]5頁172

・意見内容

都市部における自然環境保全地域の位置づけを明確にする記述を加えるべきである。

・理由

自環法が作られる当初は、自然環境保全地域は、都市部の自然も対象にしたが、国交省等の圧力で消されてしまった。東京都は、あえて名称を歴史環境保全地域として保全している。また、現在の自然環境保全地域は、保全計画しかないが、活用のあり方を明記すべきである。更に、保護区のバッファがないのも問題である。例えば、西之島は、原生自然環境保全地域にしたいが、バッファがない為、指定できない。潮間帯(沿岸地域、藻場など)も指定できるよう政省令の改正をすべきである。

 

[意見]6頁193

・意見内容

「自然の遷移に任せる」は、現状認識が甘く、問題である。原生自然環境保全地域の保全施策では、管理が必要なエリアもある為、むしろ手を加える方向性を書き加えるべき。

・理由

そもそも原生自然環境保全地域は、手を加えない、手厚く保全するエリアであったが、最近は、管理も必要な場所もあるため方針を変えるべきである。

 

[意見]8頁276

・意見内容

項目を追加して「沿岸域および海域の生物多様性重要な自然環境保全地域の指定または保全施策」として附帯決議で約束した内容を記述すべきである。また、生物多様性の観点から重要度の高い海域の指定の推進についても加筆すべきである。

http://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/kaiiki/index.html

・理由

附帯決議の反映;

三 我が国の生物多様性保全上重要な海域を後世に引き継ぐために、沿岸域を含めた我が国の周辺海域について、自然環境保全基礎調査による調査を充実させ、海洋保護区の指定の推進を図ること。また、的確な調査の実施のために十分な予算及び人員を確保するよう努めること。

四 海洋保護区の設定に当たっては、平成二十八年四月に環境省が公表した「生物多様性の観点から重要度の高い海域」を踏まえ、沖合域に限定することなく、幅広く海洋保護区化を推進するよう努めること。また、持続可能な漁業と生物多様性保全の両立を目指した保護区の創設など、我が国における海洋保護区の在り方について幅広く検討すること。

五 海域の生態系と密接なつながりを持つ陸域の生態系については、絶滅危惧種の多くが里地里山に生息・生育することから、人の手が入ることで保たれる自然環境の保全を目的とした保護区の在り方についても検討を進めること。

参考:日本自然保護協会(NACS-J)・沿岸保全管理検討会提言日本の海洋保護区のあり方〜生物多様性保全をすすめるために〜

https://www.nacsj.or.jp/archive/files/katsudo/wetland/pdf/20120517mpateigensyo.pdf

生物多様性の観点から重要度の高い海域とは

http://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/kaiiki/index.html

 

[意見]9頁318

・意見内容

2020年の生物多様性条約締約国会議で合意される2030年までの目標も踏まえて、今後の改訂の方向性を明記しておくべきである。

・理由

2020年の生物多様性条約締約国会議や第7回世界自然保護会議などで示される今後のあり方も踏まえて、同基本方針の改訂の方向性についても記述すべきである。

 

以上。

戻る