生物多様性基本法案<与党案>
目次
 第一章 総則(第一条―第九条)
 第二章 生物多様性戦略(第十条―第一二条)
 第三章 基本的施策
第一節 国の施策(第一三条―第二五条)
第二節 地方公共団体の施策(第二六条)
 附則

第一章 総則
 (目的)
第一条 この法律は、環境基本法(平成五年法律第九十一号)の基本理念にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用について、基本原則を定め、並び に国、地方公共団体、事業者、国民及び民間の団体の責務を明らかにするとともに、生物多様性国家戦略の策定その他の生物の多様性の保全及び持続可能な利用 に関する施策の基本となる事項を定めることにより、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって豊かな生物の多 様性を将来にわたって継承しその恵みを持続的に享受できる自然と共生する社会の実現を図り、あわせて地球温暖化の防止等の地球環境の保全に寄与することを 目的とする。

 (定義)
第二条 この法律において「生物の多様性」とは、様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在することをいう。
2 この法律において「持続可能な利用」とは、生物その他の生物の多様性の構成要素及び生物の多様性の恵沢の長期的な減少をもたらさない方法(以下「持続可能な方法」という。)により生物の多様性の構成要素を利用することをいう。

 (基本原則)
第三条 生物の多様性の保全は、健全で恵み豊かな自然の維持が生物の多様性の保全に欠くことのできないものであることにかんがみ、野生生物の種の保存等が図られるとともに、多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて保全されることを旨として行われなければならない。
2 生物の多様性の利用は、社会経済活動の変化に伴い生物の多様性が損なわれてきたこと及び自然資源の利用により国内外の生物の多様性に影響を及ぼすおそ れがあることを踏まえ、地域の自然的社会的条件に応じて、国土及び自然資源を持続可能な方法で利用することを旨として行われなければならない。
3 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており、科学的に解明されていない事象が多いこと及び 一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることにかんがみ、科学約知見の充実に努めつつ生物の多様性を保全する予防約な取組方法及び事業等の 着手後においても生物の多様性の状況を監視し、その監視の結果に科学的な評価を加え、これを当該事業等に反映させる順応的な取組方法により対応することを 旨として行われなければならない。
4 生物の多様性の保全及びその持続可能な利用は、生物の多様性から長期的かつ継続的に多くの利益がもたらされることにかんがみ、長期的な観点から生態系等の保全及び再生に努めることを旨として行われなければならない。
5 生物の多様性の保全及びその持続可能な利用は、地球温暖化が生物の多様性に深刻な影響を及ぼすおそれがあるとともに、生物の多様性の保全及び持続可能な利用は地球温暖化の防止等に資するとの認識の下に行われなければならない。

 (国等の責務)
第四条 国は、前条に定める生物の多様性の保全及び持続可能な利用についての基本原則(以下「基本原則」という。)にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する基本的かつ総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 (地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、基本原則にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 (事業者の責務)
第六条 事業者は、基本原則にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、事業活動が生物の多様性に及ぼす影響を把握するとともに、他の事業者その他の関 係者と連携を図りつつ生物の多様性に配慮した事業活動を行うこと等により、生物の多様性に及ぼす影響の低減及び持続可能な利用に努めるものとする。

 (国民及び民間団体の責務)
第七条 国民は、基本原則にのっとり、生物多様性の重要性を認識するとともに、その日常生活に関し、外来生物を適切に取り扱うこと及び生物の多様性に配慮した物品又は役務を選択すること等により、生物の多様性に係る影響の低減及び持続可能な利用に努めるものとする。
2 国民及び民間団体は、基本原則にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用のための取組を自ら行うとともに、他の者の行う生物の多様性の保全及び持続可能な利用のための取組に協力するよう努めるものとする。

 (法制上の措置等)
第八条 政府は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講じなければならない。

 (施策の有機約な連携配慮)
第九条 生物の多様性の保全及びその持続可能な利用に関する施策を講ずるに当たっては、地球温暖化が生物の多様性に深刻な影響を及ぼすおそれがあること等 にかんがみ、地球温暖化の防止、循環型社会の形成その他の環境の保全に関する施策相互の有機約な連携か図られるよう、必要な配慮がなされるものとする。

 第二章 生物多様性戦略
 (生物多様性国家戦略の策定等)
第十条 政府は、生物の多様性の保全及びその持続可能な利用に関する施策の総合的かつ計画約な推進を図るため、生物の多様性の保全及びその持続可能な利用に関する計画(以下「生物多様性国家戦略」という。)を定めなければならない。
2 生物多様性国家戦略は、次に掲げる事項について定めるものとする。
 一 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策についての基本的な方針
 二 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関し、政府が総合約かつ計画的に構ずべき施策
 三 前二号に揚げるもののほか、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3 環境大臣は、中央環境審議会の意見を聴いて、生物多様性国家戦略の案を件成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 環境大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、生物多様性国家戦略を公表しなければならない。
5 前二項の規定は、生物多様性国家戦略の変更について準用する。

 (生物多様性国家戦略と国の他の計画との関係)
第十一条 生物多様性国家戦略は、環境基本法第十五条第一項に規定する環境基本計画(次項において単に「環境基本計画」という。)を基本として策定するものとする。
2 環境基本計画及び生物多様性国家戦略以外の国の計画は、生物の多様性の保全及びその持続可能な利用に関しては、生物多様性国家戦略を基本とするものとする。

 (生物多様性地域戦略の策定等)
第十二条 都道府県又は市町村は、生物多様性国家戦略を基本として、単独で又は共同して、当該都道府県又は市町村の区域内における生物の多様性の保全及びその持続可能な利用に関する基本的な計画(以下「生物多様性地域戦略」という。)を定めることがてきる。
2 生物多様性地域戦略は、次に掲げる事項について定めるものとする。
 一 生物多様性地域戦略の対象とする区域
 二 当該区域内の生物の多様性の保全及びその持続可能な利用に関し、総合的かつ計画的に講ずべき施策
 三 前二号に掲げるもののほか、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を総合約かつ計画約に推進するために必要な事項
3 都道府県又は市町材は、生物多様性地域戦略を策定したときは、遅滞なく、これを公表するとともに、環境大臣に当該生物多様性地域戦略の写しを送付しなければならない。
4 前項の規定は、生物多様性地域戦略の変更について準用する。

 第三章 基本的施策
  第一節 国の施策
 (地域の生物の多様性の保全)
第十三条 国は、地域固有の生物の多様性の保全を図るため、我が国の自然環境を代表する自然的特性を有する地域、多様な生物の生息地又は生育地として重要 な地域等生物の多様性の保全上重要と認められる地域の保全、過去に損なわれた生態系の再生その他の必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、農林水産業その他の人の活動により特有の生態系が維持されてきた里地、里山等の保全を図るため、地域の自然的社会的特性に応じて当該地域を継続的に保全するための仕組みの構築その他必要な措置を講ずるものとする。
3 国は、生物の多様性の保全上重要と認められる地域について、地域間の生物の移動その他の有機的なつながりを確保しつつ、それらの地域を一体的に保全するために必要な措置を講ずるものとする。

 (野生生物の種の多様性の保全等)
第十四条 国は、野生生物の種の多様性の保全を図るため、野生生物の生息又は生育の状況を把握し、及び評価するとともに、絶滅のおそれがあることその他の 野生生物の種が置かれている状況に応じて、生息環境又は生育環境の保全、捕獲等及び譲渡し等の規制、保護及び増殖のための事業その他の必要な措置を講ずる ものとする。
2 国は、野生生物が生態系、生活環境又は農林水産業に係る被害を及ぼすおそれかある場合には、生息環境又は生育環境の保全、被害の防除、個体数の管理その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (外来生物等による被害の防止)
第十五条 国は、生態系に係る被害を及ぼすおそれがある外来生物、遺伝子組換え生物等について、飼養等又は使用等の規制、防除その他の必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、生態系に係る被害を及ぼすおそれがある化学物質について、製造等の規制その他必要な措置を講ずるものとする。

 (国土及び自然資源の適切な利用等の推進)
第十六条 国は、持続可能な利用の推進が地域社会の健全な発展に不可欠であることにかんがみ、地域の自然的社会的条件に応じて、地域の生態系を損なわない よう配慮された国土の適切な利用又は管理及び自然資源の著しい減少をもたらさないよう配慮された自然資源の適切な利用又は管理が総合的かつ計画的に推進さ れるよう必要な措置を講ずるものとする。

 (生物資源の適正な利用の推進)
第十七条 国は、生物資源の有用性にかんがみ、農林水産業、工業その他の分野においてその適正な利用を図るため、生物の多様性に配慮しつつ、生物資源を有 効に活用するための研究及び技術の開発並びに生物資源の収集及び体系的な保存の推進その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (生物の多様性に配慮した事業活動の促進)
第十八条 国は、生物の多様性に配慮した原材料の利用、エコツーリズム、有機農業その他の事業活動における生物の多様性に及ぼす影響を低減するための取組を促進するために必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、国民が生物の多様性に配慮した物品又は役務を選択することにより、生物の多様性に配慮した事業活動が促進されるよう、事業活動に係る生物の多様 性の持続可能な利用に関する情報の公開、生物の多様性に配慮した消費生活の重要性についての理解の増進その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (地球温暖化の防止等にも資する施策の推進)
第十九条 国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用が地球温暖化の防止等にも資することを踏まえ、多くの二酸化炭素を吸収し及び固定している森林、里 山、草原、湿原等を保全するとともに、間伐、採草等の生物の多様性を保全するために必要な管理が促進されるようバイオマスの利用の推進その他の必要な措置 を講ずるものとする。

 (多様な主体の連携及び協働並びに自発的な活動の促進)
第二十条 国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を適正に策定し、及び実施するため、地方公共団体、事業者、国民、民間団体、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関し専門知識を有する者等の多様な主体と連携し、及び協働するよう努めるものとする。
2 国は、事業者、国民又は民間の団体が行う生物の多様性の保全上重要な土地の取得並びにその維持及び保全のための活動その他の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する自発的な活動が促進されるよう必要な措置を講ずるものとする。

 (調査等の推進)
第二十一条 国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を適正に策定し、及び実施するため、生物の多様性の現状の把握及び監視等の生物の多 様性に関する調査の実施並びに調査に必要な体制の整備、標本等の資料の収集及び体系的な保存並びに情報の提供その他必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、生物の多様性の状況及びその恵沢を総合的に評価するため、適切な指標の開発その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (科学技術の振興)
第二十二条 国は、生物の多様性に関する科学技術の振興を図るため、野生生物の種の特性の把握、生態系の機構の解明等の研究開発の推進及びその成果の普及、試験研究の体制の整備、研究者の養成その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (国民の理解の増進)
第二十三条 国は、学校教育及び社会教育における生物の多様性に関する教育の推進、専門的な知識又は経験を有する人材の育成、広報活動の充実、自然との触れ合いの場及び機会の提供等により国民の生物の多様性についての理解を深めるよう必要な措置を講ずるものとする。

 (事業計画の立案の段階等での生物の多様性に係る環境影響評価の推進)
第二十四条 国は、生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っおり、一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることから、生物の多 様性に影響を及ぼす事業の実施に先立つ早い段階での配慮が重要であることにかんがみ、生物の多様性に及ぼす影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業 を行う事業者等が、その事業に関する計画の立案段階からその事業の実施までの段階において、その事業に係る生物の多様性に及ぼす環境影響の調査、予測又は 評価を行い、その結果に基づき、その事業に係る生物の多様性の保全について適正に配慮することを推進するため、事業の特性を踏まえつつ、必要な措置を講ず るものとする。

 (国際的な連携の確保及び国際協力の推進)
第二十五条 国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用が、地球環境の保全上重要な課題であることにかんがみ、生物の多様性に関する条約等に基づく国際 的な取組に主体的に参加することその他の国際的な連携の確保並びに生物の多様性の保全及びその持続可能な利用に関する技術協力その他の国際協力の推進に必 要な措置を講ずるものとする。

 第二節 地方公共団体の施策
第二十六条 地方公共団体は、前節に定める国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を、これらの総合的かつ計画的な推進を図りつつ実施するものとする。

 附則
 (施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。
 (環境基本法の一部改正)
第二条 環境基本法の一部を次のように改正する。
 第四十一条第二項第三号中「及び石綿による健康被害の救済に関する法律(平成十八年法律第四号)」を「、石綿による健康被害の救済に関する法律(平成十八年法律第四号)及び生物多様性基本法(平成二十年法律第 号)」に改める。
 (愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律の一部改正)
第三条 愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(平成二十年法律第 号)の一部を次のように改正する。
 附則第五条のうち、環境基本法第四十一条第二項第三号の改正規定中「及び石綿による健康被害の救済に関する法律(平成十八年法律第四号)」及び愛がん動 物用飼料の安全性の確保に関する法律(平成二十年法律第 号)に改める」を「石綿による健康被害の救済に関する法律(平成十八年法律第四号)」の下に「、 愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(平成二十年法律第 号)」を加える」に改める。

 理 由
 豊かな生物の多様性を将来にわたって継承しその恵みを持続的に享受できる自然と共生する社会の実現を図るとともに、地球温暖化防止等の地球環境の保全に 寄与するため、生物の多様性の保全及び持続可能な利用について、基本原則を定め、並びに国、地方公共団体、事業者、国民及び民間の団体の責務を明らかにす るとともに、生物多様性国家戦略の策定その他の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策の基本となる事項を定めることにより、生物の多様性の保 全及び持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進する必要がある。これが、この法律を提出する理由である。