題目:Real Conservation 第4回勉強会

日時:2019108日(火)午後7時より9時まで

会場:日本野鳥の会、会議室

テーマ:自然環境保全基本方針の改定とパブコメに向けて

参加者(敬称):羽澄、葉山、浦、羽山、草刈、野口、吉田

趣旨:今年の4月に自然環境保全法(以下、自環法)が一部改正された。この改正により、「自然環境保全基本方針(1973年策定)」(以下、基本方針)が、46年ぶりに見直される。日本の自然環境保全について、基本方針の改定は一つの重要な案件であり、第4回RC勉強会として開催した。

勉強会参照資料:中央環境審議会・自然環境部会(第38回)議事次第・配布資料

https://www.env.go.jp/council/12nature/38_1.html

 

参照サイト:

自然環境保全地域

https://www.env.go.jp/nature/hozen/index.html

自然環境保全法の概要

https://www.env.go.jp/nature/hozen/law.html

 

使用した資料:06.資料1-6 自然環境保全基本方針 変更案(新旧対照表)

https://00m.in/E2p23

 

(注:審議会で検討された資料とパブリックコメントで上がっている資料は、内容が一部削除されたり加えられたりしております。両方の資料を参照して意見を述べた方が良いと思います。)

 

パブリックコメントで対象となっている資料(自然環境保全基本方針 変更案(新旧対照表)。

 

資料1−6を元に草刈が議論のたたき台を作成、同たたき台を元に議論。

 

自然環境保全法の背景:

 1960年代に起こった四大公害事件(熊本水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく)の体験を経て、公害法に重点が置かれるようになった。

 1960年代半ばころまでは、戦後の経済成長の過程で公害が各地に発生し、個別法での取り組みが行われたが、これらは対症療法的な対応のみであり、十分なものではなかった。その後、1960年代半ばから1970年代にかけて公害対策の充実化が図られてきた。1967年には公害対策基本法が制定され、1970年の臨時国会(いわゆる公害国会)では14の公害関係の法律の整備・改正が行われ、公害対策基本法から経済調和条項が削除された。個別法が制定されるとともに、公害対策基本法と、1972年に制定された自然環境保全法によって、公害法と自然保護法の体系が確立した。

 公害対策基本法と、自然環境保全法の政策原則部分を取り入れて、1993年に環境基本法が制定・施行された。こうした枠組みの転換の背景には、環境問題をめぐる時代や経済社会の変化がある。

 自然環境保全基本方針は、昭和48年に制定され、日本の自然環境保全の基本的な方針としてこれまで改定されることなく、現在に至っている。

 

そもそも論:

 自然環境保全基本方針(以下、基本方針)の制度的な位置づけについて説明する記述が必要ではないか。関連法規との関係はどうなっているか?他の関係法令でカバーされる部分について重複して記載するべきものなのか。この法律に何を求めるべきものであるか不明。

 

 環境基本法に基づいて、環境基本計画が策定されている。第五次環境基本計画の閣議決定について

https://www.env.go.jp/press/105414.html

 

 生物多様性基本法に基づいて、生物多様性国家戦略が策定されている。

 

「生物多様性国家戦略2012-2020」(以下、国家戦略)の閣議決定について

http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=15758

 

 現在の自環法の基本方針は、自然環境基礎調査と原生自然環境保全地域(国および都道府県)の方針を定めているに過ぎない。

 

 自環法(基礎調査の実施)

第四条 国は、おおむね五年ごとに地形、地質、植生及び野生動物に関する調査その他自然環境の保全のために講ずべき施策の策定に必要な基礎調査を行うよう努めるものとする。

 

 基礎調査が努力義務で終わっている、次の改正では、自然環境保全基礎調査を義務付ける必要がある。環境省事業の全体で、生物情報の蓄積とモニタリングに関する実行体制が崩壊の危機にあり、生物多様性保全の国家的危機として認識すべきである。

多様性センターに集約される自然環境情報の効果的、効率的活用について、これからの時代を見据えた工夫の議論が必要であり、その活用システムについても、法にも書きこんでおくべきである。

 環境省自然環境局の自然関連法規の下で実施される各種事業の中で調査が行われるが、内容の重複があるにも関わらず、自然環境保全基礎調査の情報が活用されていない。そのため、たとえば動物分布情報の収集調査について、各事業の受託事業者から、同時期に類似したアンケートが個別に自治体に投げられるため、自治体側は何度も対応する必要が生じるなど、よけいな負担が発生する実情がある。このことは明らかに予算の無駄遣いにつながっている。

 モニタリング1000は、国家戦略の実施計画として位置づけられている。

 生物多様性センターの位置づけも整理する必要がある。

 

【第1部】

1頁:1部の前段に、これまで策定してきた生物多様性国家戦略で明記していた生物多様性に対する4つの危機のように、国(環境省)として、自然環境に関して、どんな問題があると認識しているかについて記載するべき。そのうえで、それにどのように対応していくという文章が続くべきではないか。この場合の問題(危機)の内容は、国家戦略と重複してもよいが、法的位置づけを整理した上で、本法ならではの、特徴を出すべきだろう。

 

生命が存立する基盤であり、=>生命が存立する基盤であり財産である、

 

 生物多様性基本法前文の記述

「人類は、生物の多様性のもたらす恵沢を享受することにより生存しており、生物の多様性は人類の存続の基盤となっている。また、生物の多様性は、地域における固有の財産として地域独自の文化の多様性をも支えている。」

「我らは、人類共通の財産である生物の多様性を確保し、そのもたらす恵沢を将来にわたり享受できるよう、次の世代に引き継いでいく責務を有する。」

 

変更前の第一部Aの「それ自体が豊かな人間生活の不可欠な構成要素をなす」が削除されている。生物多様性が人類生存の為の構成要素であることを書き残す必要はないか?

 

生物多様性基本法(定義)

第二条

2 この法律において「持続可能な利用」とは、現在及び将来の世代の人間が生物の多様性の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である生物の多様性が将来にわたって維持されるよう、生物その他の生物の多様性の構成要素及び生物の多様性の恵沢の長期的な減少をもたらさない方法により生物の多様性の構成要素を利用することをいう。

 

自然の理(ことわり)に沿った => 自然の摂理に沿ったにすべき

 

自然の仕組みを基礎とする真に豊かな社会をつくること => 自然の仕組みを基礎とする真に豊かな循環型社会をつくること

 

「このように、人間も、日光、大気、水、土、生物・・・・」この段落に水循環基本法の理念を加筆すべきでは?

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/mizu_junkan/about/pdf/02_kihonho_all.pdf

 

変更前の第一部「自然環境保全の問題に対処することが要請される」が削除されたが、「地球環境保全の問題に対処することが要請される」と地球環境を加えて、残すべきではないか?

 

「自然環境の破壊に対処することが最も大きな課題であったため」の記述、現在も様々な開発行為は、続けられており、むしろ戦略的な環境影響評価や簡易アセスの必要性も加筆すべきではないか?(同7頁の3同様)

 環境影響評価の代替案としてゼロ案がな、ゼロオプションも含めた代替案とする必要がある。

 

2頁:加えて、近年では、本格的な少子高齢化・人口減少社会・・・・多様な生物相とそれに基づく豊かな文化が危機に瀕している」重要な段落である。唯一、この段落にのみ「里地・里山」の記述がある。手付かずの自然や二次的自然環境である里地・里山の重要性が高まっており、9頁以降の「第2部 自然環境保全地域等に関する基本的事項」に里地・里山の記述を加えるべきである。

 

意図的・非意図的に導入される生物 => 意図的・非意図的に導入される外来生物人獣共通感染症や感染症問題なども記述が必要では?

 ワンヘルス(One Health)の考え方を書き加える必要がある。

 

 国際獣疫事務局(OIE)と世界保健機関(WHO)及び国連食糧農業機関(FAO)が協力して、ワンヘルス(One Health):人の健康、動物(家畜)の健康、生態系の健康が、相互に密接な関係があり、それらを総合的に良い状態にすることが真の健康である、という概念を打ち出した。

 

OIE,WHO,FAOの三者の声明One Health

 

FAO/OIE/WHO Collaboration (Tripartite)

https://www.who.int/zoonoses/concept-note/en/

 

ONE HEALTH: Food and Agriculture Organization of the United Nations Storategic Action Plan

http://www.fao.org/3/al868e/al868e00.pdf

 

One Health News

https://www.onehealthcommission.org/en/news/one_health_news/?action=search&tag=OIE

 

日本ワンヘルスサイエンス学会

http://jsohsci.kenkyuukai.jp/about/

 

3頁:「生物多様性に深刻な影響を与える可能性がある」 => 「生物多様性に深刻な影響を与えている」

 

「生態系がある臨界点を超えた場合、生物多様性の劇的な損失と(中略)危険性が高い。」=> 生物多様性基本法の第3条基本原則3の記述とすべき。「一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難である」

 

生物多様性基本法(基本原則)

第三条3 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており、科学的に解明されていない事象が多いこと及び一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることにかんがみ、科学的知見の充実に努めつつ生物の多様性を保全する予防的な取組方法及び事業等の着手後においても生物の多様性の状況を監視し、その監視の結果に科学的な評価を加え、これを当該事業等に反映させる順応的な取組方法により対応することを旨として行われなければならない。

 

4頁:上から4行目に「社会的な選択としての方向性の決定を重視つつ」とある恐らくリニア中央新幹線問題などを想定していると思われるが、であれば、社会的な選択として重要な生物多様性の主流化もしっかり明記すべきである。

 

「予防的な態度に基づく」=>予防原則に基づくにすべき

 

 リオ宣言の第15原則を踏襲すべき。「原則15:環境を防御するため各国はその能力に応じて予防的取組を広く講じなければならない。重大あるいは取り返しのつかない損害の恐れがあるところでは、十分な科学的確実性がないことを、環境悪化を防ぐ費用対効果の高い対策を引き伸ばす理由にしてはならない。」

 

5頁:SDGsの部分にポスト愛知目標の記述が必要。

 

6頁:(3)および(4)に2頁で指摘した通り、二次的自然の保全として里地・里山の記述を加える。

 4頁に地域循環共生圏の取組を明記しており、同様に具体的取組として、6頁の(3)(4)に加える。

(4)現代の新しい自然(都市部の獣害問題など)との関係性をどうするのか?

 「無秩序な市街化地域の防止」 => 野生鳥獣の軋轢が市街化地域でも発生している点も加えるべき。

 

(5)海洋プラスチックに関する問題(海鳥の事例)も記述を加えるべきである。

 

7頁:民間保護地域やOECMとの連結強化の記述は、大きな前進である。

 

2、「絶滅危惧種や固有種の保全」 => 「絶滅危惧種の指定の推進や固有種の保全」

 

 改正種の保存法に基づき絶滅の恐れのある種を2030年までに700種指定することやIPBESの生物多様性の報告書による100万種が絶滅危機に関係する記述を加えるべき。

 

「外来生物の防除や」 => 「外来生物の根絶や防除」

 

 外来生物の根絶をめざした事業が今も続いており、地域によっては、根絶も成功しているケースもある。

 

3、「住民の理解を得たうえ」 => 「住民の合意を形成したうえ」または「住民の合意を得たうえ」

 

「大規模な各種の開発」 => 大規模を削除する。

 

4、自然のメカニズムから始まるブロックには、自然環境基礎調査をしっかり具体的に明記し、義務付ける必要がある。

 現在の危機的現状を乗り越える為に、情報が枯渇しないように、実行主体が情報を収集・整理する必要がある。

 「研究体制の確立、情報システムの整備・・・・・養成等に努める」技術者の育成だけではなく、自然を保全する人材育成や然るべき予算措置も必要である。

 指定管理者事業者や委託業者は、データが出せないでいる現状がある。

 

8頁:6「自然とのふれあい」 => 「自然との豊かなふれあい」

 

【第2部】

 自然環境保全基礎調査は、緑の国勢調査とも呼ばれ、陸域、陸水域、海域 の各々の領域について国土全体の状況を調査している。自然環境保全法に基づき昭和48年(1973年)度よりおおよそ5年に一度を目安に実施される、日本における自然環境の現況及び改変状況を認識し、自然環境保全施策の策定に必要な基礎調査である。調査結果は、報告書及び地図等にとりまとめられたうえ公表されており、これらの報告書等は、自然環境の基礎資料として、自然公園等の指定・計画をはじめとする自然保護行政の他、各種地域計画や環境調査等の各方面において活用されている。

 しかしながら、本基本方針には、「自然環境保全基礎調査」という名称は、一切出てこない。第二部には、「自然環境保全基礎調査」のことをしっかり明記するべきである。

 

9頁:自環法が作られる当初は、自然環境保全地域は、都市部の自然も対象にしたが、国交省等の圧力で消されてしまった。

 東京都は、あえて名称を歴史環境保全地域として保全している。

 現在の自然環境保全地域は、保全計画しかないが、活用のあり方を明記すべきである。

 また、保護区のバッファがない。例えば、西之島は、原生自然環境保全地域にしたいが、バッファがない為していできない。潮間帯(沿岸地域、藻場など)も指定できるよう性省令の改正すべき。

 

10頁:2の原生自然環境保全地域の保全施策では、管理が必要なエリアもある為、むしろ手を加える方向性を書くべき。

 「自然の繊維に任せる」は、現状認識が甘く、問題である。

 

14頁:6と7の間に追加項目「沿岸域および海域の生物多様性重要な自然環境保全地域の指定または保全施策」

 

附帯決議の反映;

三 我が国の生物多様性保全上重要な海域を後世に引き継ぐために、沿岸域を含めた我が国の周辺海域について、自然環境保全基礎調査による調査を充実させ、海洋保護区の指定の推進を図ること。また、的確な調査の実施のために十分な予算及び人員を確保するよう努めること。

 

四 海洋保護区の設定に当たっては、平成二十八年四月に環境省が公表した「生物多様性の観点から重要度の高い海域」を踏まえ、沖合域に限定することなく、幅広く海洋保護区化を推進するよう努めること。また、持続可能な漁業と生物多様性保全の両立を目指した保護区の創設など、我が国における海洋保護区の在り方について幅広く検討すること。

 

五 海域の生態系と密接なつながりを持つ陸域の生態系については、絶滅危惧種の多くが里地里山に生息・生育することから、人の手が入ることで保たれる自然環境の保全を目的とした保護区の在り方についても検討を進めること。

 

日本自然保護協会(NACS-J)・沿岸保全管理検討会提言日本の海洋保護区のあり方〜生物多様性保全をすすめるために〜

https://www.nacsj.or.jp/archive/files/katsudo/wetland/pdf/20120517mpateigensyo.pdf

 

末尾に;

 2020年の生物多様性条約締約国会議で合意される2030年までの目標も踏まえて、今後の改訂の方向性を明記しておくことが必要である。

 

今後のために:

 環境基本法そのものを改正する必要がある。

 

提供・リアル・コンサベーション