凝固点降下法による浸透圧の測定

 

T.目的

 細胞の浸透圧を測定する方法として、顕微鏡を用いた限界原形質分離法が知られている。しかし、一部の光学条件の良い細胞を除き、一般的な高等植物の組識や器官の細胞の浸透圧を限界原形質分離法により求めることはそれほど容易なことではない。そのような場合にも可能な測定法として、その抽出液の凝固点降下や蒸気圧降下から浸透圧を求める方法がある。ここでは、抽出液の凝固点降下度を測定して浸透圧を調べる。

 

U.準備

・サーミスタ(石塚電子502AT-2 ・温度センサ(島津理化学器械:ML-T

・理科実験用インターフェイス(島津理化学器械:MIOS-Lab ・パソコン

・計測用ソフト ・氷 ・食塩 ・スタンド ・スターラー ・駒込ピペット

・試験管(Φ1.8cm×6.5cm ・断熱材(厚さ3mm、片面アルミ箔の発泡ポリウレタン)

・ミカン

 

V.方法

 微小な凝固点降下度を測定する方法として、サーミスタによるパソコン計測を行った。測定ユニットである温度センサに付属のサーミスタはステンレス管により固定されているが、熱容量が大きく、少ない試料での測定では誤差が大きくなるため、同規格のサーミスタを結線して使用した。このとき、サーミスタとの結線部を防水のためエポキシで固め、その上より熱収縮チューブで覆った。実験前にあらかじめ、砕いた氷による氷温を測定し、温度センサ内の多回転ポテンショメータを調節して0点の較正を行った。

 試料は、ミカンの果汁を用い、小型の試験管内に、スターラの攪拌用の磁石とともに入れた。試料の凝固のためには、100ccビーカーに氷を入れ、寒剤として氷の1/3程度の食塩を入れ、外側を断熱材で包み、ビーカー内の温度を−10℃以下に保った。実験中に氷が溶けて生じた水は、温度上昇を避けるためピペットで抜き、その分氷を加えた。さらに、ビーカーの上部と下部との温度差をなくすために攪拌を行った。

 スターラー上にビーカーをのせ、ビーカー内に試料を入れた試験管を入れてスタンドで固定した。試験管内に、管面に接触しないように注意してサーミスタを入れて固定した。

 測定は、スターラーで試験管内を攪拌しながら行った。

 

W.結果

 ミカンの果肉の細胞の抽出液を凝固させたときの温度変化は次の図のようになった。

寒剤を入れたビーカー内に入れると、ほぼ一定の速度で温度は下降し、過冷却の後、凝固が始まり、再び一定の速度で緩やかに温度が下降した。このグラフより凝固点を求めたところ、−0.6℃となった。

 

D.考察

凝固点降下度は、溶液の質量モル濃度に比例し、その比例定数は溶質の種類に関係なく、溶媒の種類だけで決まる。

ΔT=kc

ΔT 凝固点降下度

比例定数(モル凝固点降下)

質量モル濃度

この場合の溶媒は水であり、水の凝固点が0℃であることから、実験結果により、ミカンの抽出液の凝固点降下度は0.6℃である。また、水のモル凝固点降下が1.86Kkg/molより抽出液の質量モル濃度を求めると、

c= 0.6 / 1.86

より、0.32 mol/kg となった。

 また、薄い溶液の浸透圧は、絶対温度と溶液のモル濃度に比例するというファントホッフの法則

Π=cRT

モル濃度(mol/l

R 気体定数 0.082

T 絶対温度(K

Π 浸透圧(atm

より、20℃での浸透圧を算出すると、

Π= 0.32 × 0.082 × 273 + 20

より、7.8気圧となった。