浅利義遠氏のコメント




 「第三十五回日本SF大会コクラノミコン」をめぐる騒動について、ある程度の事情通ならば聞き及んでいることと思う。
 確かな情報をつかんでいる人間ならばそれが裁判沙汰だという事も知っているだろう。
 さらに正確な把握をしていれば、訴訟の内容が「大会実行委員の一人に雇われた人間が運営費を水増し請求して抜き取った…」という世間一般でいうところの
「横領」
をやらかしたということ…に対し、もともとの実行委員の中から、内部事情に精通しつつ「社会的にケツのふける人間」が代表となって「管理委員会」をまとめ原告となりその相手を告訴した…というところまでは分かっているはずである。

 で、その事について私・「あさりよしとお」が何を言いたいかというと実は、その事については何も無いのである。



 まあ「真っ当な社会人」であれば当然、常識の範囲内で了解していることと思うが、公の機関・裁判所が訴訟を受理した以上、その係争の内容について白黒付けるのは裁判官であり私ではない。当たり前の話である。 ついでに言うなら、この件に関し、もっともらしい事をいいまくっているあなたでもないのだ。
 裁判が結審していない以上、外野がそれについてああだこうだ言うのは無意味の極致。

 このいざこざは当事者(自称・当事者は除く)だけのドラマであり、部外者が口をさしはさんだり、邪推したりする余地はない。
 それでもあえて…と言うのであればかってに法治国家日本の司法システムに挑戦してくれ。結果の報告はいらないから。



 さて、当事者以外関係ない話だというならば、なぜ私がこんな文章を書いて首を突っ込んでいるのか…という疑問は当然あるだろう。
 実は、今までのはただの前振りにすぎない。
 実際問題、裁判の行方を野次馬に左右できる訳などなく、また興味も(全く…とは言わんが)無い。
 問題なのは、それを前にした「日本のSFファンダム」の…全員とはいわないが、かなりの数の…「幼稚極まりない」反応である。

 さすがに私もあきれはてた。

 別段権威ぶるつもりもないし、親切のつもりもない。あまりの非常識さを目の前に、市民が「つい」こんなことを書いてしまっていると了解してくれ。
 まず、何があきれたといって「今まで仲間としてやってきたもの同志が争うとはなんて悲しい事だろう」…的は発言の横行していること。
 この寝ぼけた考え方が、さらに次のおおぼけ発言につながる。
 「われわれはアマチュアであり、金銭で物事を解決するなどアマチュアの領分を逸脱している」
 もう、良識ある社会人…法的に行為能力・責任能力のある人間なら頭抱えてしゃがみこみそうな「無知・かつ無責任」なたわごとである。

 結局、仲間だなんだともっともらしい事を言っていてその実、トラブルの収拾能力がないために表面上の仲良しを取り繕い、すべてをなあなあで済ませようとしているに過ぎない。あるいは能力がないではないが、問題に対し何かを提起すると自分だけ周囲から浮き上がり、良いにつけ悪いにつけ風当たりが強くなるのを敬遠して決して行動を起こさない。結果的にはどちらも同じ事だ。
 「SFファンダム」ってのは小学校の学級委員会か?社会的に責任を負わされた大人(成人していれば)の集まりではないのか?
 まあ醜悪なことなかれ主義は、ここに限らず日本中に蔓延している悪しき風習ではあるが「せんせい。○○くんが、がっこうにマンガのほんをもってきているのは、よくないことだとおもいます」と言ったら「△△くんは、○○くんをあくにんよばわりして、クラスのわをみだすので、よくないとおもいます」…と来るかァ普通?ええ年した大人が。
 しかも先述の裁判という厳然としたシステムに対しても野次馬根性で覗きにかかるは、さも自分が裁判の行く末を左右できるかのような口を聞いてみるは…。

 寝ぼけているのは勝手だが、当人にその気が無くても責任取らされるのが世の中というもの。気付いていないかもしれないが、大人になった以上、一挙手一投足に「責任」が存在しているのだよ。



 でもって「アマチュア」という社会的「甘えの聖域」の登場となる。
 「アマチュア」ってなんだ?非営利目的の活動…まぁそんなもんだろう。
 だからその運営を金で解決するのは遺憾である…か。ふーん。
 じゃあ今までの大会会場はすべて無料で借りられて、完全ボランティアの実行委員の手によって費用は各自の持ち出しで大会運営ができていたわけだ。


うそつけ。


 最終的に利潤を追求するのが目的ではないにしろ、実際問題カネは動く。場合によっては「黒字」すら出る可能性がある。
 極論すれば、「SF大会」がアマチュアの活動だったとしても、誰かの横面を札ビラでひっぱたく事態も、もうけが出る事も十分にある得るのだという事だ。
 逆に言えば、いくら目的に「非営利」をうたったとしても、社会通念上はイベントという「商売」をやっているのだという事だ。
 その事実に目を背け、世の中に甘えているから先に書いたような寝ぼけたアマチュア宣言が飛び出すのだ。

 まあアマチュアを名乗るのはよしとしよう。しかし、実際問題カネが動けばそこに当然の義務が生じる。収支を明確にし、当該機関にいつでも金の動きをつまびらかに出来るようにして「いなければならない」。それが「納税の義務」を負う国民の務めだからだ。
 誰かやってた?やってたら「アマチュアだから金使わん」みたいな寝言は出ないはずだよね。

 結局、今までズーっと「アマチュア」という、社会のルールから隔絶した「聖域」があると「信じ込んで」世間さまに甘えていただけではないのか。そんな「社会不適格者」の群れが偉そうに何をぬかすのか。
 当人に全くその気がなくとも、社会の決まりごとはその頭上に網を広げている。昨今の同人誌発行元への税務署の査察がいい例だ。
 いくら「アマチュアです」と念仏を唱えても法が曲がるわけではない。成人になった以上「知らない」では世の中済ましてはくれないのだ。



 さあ、そうした社会常識をにらんで今回の一件を見直してみれば、この裁判のいく末がどうなろうと「社会のルール」の中に「SF大会」がデビューした記念すべき出来事ではないか。喜べよ。
 大体、団体があって一切軋轢が生じないのはその組織が不健全だからだ。トラブルが起きてそれを収拾できて初めて一人前の組織だぞ。

 これを機に、甘えを捨てて膿を出し、実行委員会を法人化(「アマチュア」イベントであるコミックマーケットの準備会がすでにそうしているのは知っていると思うが…)するもよし、さもなくば何かあったときにすべて背負って腹を切れる、本当の意味での責任者に立てるか…。(私は御免被る。特にキミタチの尻拭いは…)

 とにかく一千万からのカネが動いて「同好の士が集まるアマチュアのお祭りです」なんて「意味不明」な言い訳は社会に通じるものではない。なかよし集団が寄り集まって何か決議したって世間さまのルールは動かないのだ。


 いいかげん額面通りの大人になるべし。

 SF大会も、もう次で三十七回目。大会が人間だったらすでに中年の域。イベントとして成熟していていいお年頃だ。この辺でワールドコンでも主催してみたらどうだ。
 もっとも、主催団体の責任能力が小学生の域を出ず、語彙だけは立派だが発言内容は幼稚園児、社会常識も知らずに「SF大会はアマチュアのイベントです」などと宣っているようなところへ「アマチュア活動」の成熟したお国の方々は恐ろしくて近付けないだろうがね。何かあったときに責任を取れないイベントなんて…。




 と、まぁ一見キツい事のようで、実はただの一般常識を並べただけな訳だが、たぶん今まで目が覚めてないヤツはこれ読んでも理解できないんだろうな。
 自分の中の、自分だけの常識にしたがって自信たっぷりに行動して、いつかどこかの公的機関から呼び出しくらうなり踏み込まれるなりして初めて「マイ・ルール」は社会に通用しないと知るんだろうな。

 それでも言わないよりは言っておいたほうが良い…と信じてこれを記す。

平成十年二月八日   

浅利 義遠 


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