「兄上の望みならなんでも叶えてさしあげたいのですよ」
兄は弱まらない弟の昂りを感じながら望みを口にした
「眠い…おなかすいた」
「あ、もう少し待ってくださいね」
(なんでもって今言ったのに)
兄は精一杯の非難をする
「はやく…して」
それがあおる言葉だと気づかずに
王は朝日を浴びきらめいていた
「兄上が、はやくしてくれと余を求めてくださったのだ。なんと良き日よ」
「はい。まことに」
側仕えの狼たちは互いに目配せする
あれは「はやく終わりにしてくれ」との懇願だったように思うが
世界が美しく輝いているのでこのまま見守る狼たちだった
「兄上新しい食材を召し上がってましたね。レシェが紅斑がないか隅々まで確かめて差し上げます。さあ全裸で寝てください」
燭を持った王が兄に詰め寄る
「…巻雲さんにかわってくれ」
「私よりも巻雲を欲せられるか!この体の奥まで知っていいのは私だけですよ!」
「診察だよな?」
「もう退位したい。兄上と毎日いちゃいちゃしたい」
「先日兄上さまが陛下の聴政をこっそりご覧になられていましたが」
「ああ、城にいらっしゃっていたな」
「執務をこなす陛下が素敵ですと」
「なんと?」
「惚れ直してしまうと囁かれていました」
「…次の案件を持ってまいれ」
王は自分の元に、足を引き摺りながら駆けつけようとしている兄の姿に気づき、急いで近寄り兄を抱き上げた
「歩けるぞ」
「私が参りますのでその場で待っていてくださればよかったのに」
「でも早く会いたかったし」
「私に…会いに…」
侍従たちの心はひとつ
(これ朝までコースだ)
「兄上さま、何かお悩みですか?」
「命さん。…レシェのこと好きだけど5回以上続けてするの辛い。いつもお願いしてるのにきいてくれない。レシェひどい…でも好き。お願いが足りないのかな?」
「…それは難しゅうございますね」
(お可愛らしすぎて命の方が先に倒れそうです)
「一進さま、兄上さまは畑からお戻りになり午後はお部屋で読書の予定です」
「陛下のことは何かおっしゃっていたか?」
「何も…」
「何も?何かないか?」
「…畑仕事の合間にお城の方を何回か見ておられましたが」
「よし!それだ」
王の幸せのために奔走する一進だった
「A国が陛下をご招待したいと」
「断る」
「B国が王女をお仕えさせたいと」
「断る」
「C国の王が兄上さまにお会いしたいと」
「抹殺せよ」
「はっ」
「待てつい本音がでた。断れ。今後もしつこく兄上に言い寄るようならこの世からご退場いただこう」
王の瞳が冷たく光る
兄は寝台の上で弟を見送った後うめいた
「おれはレシェに何か吸いとられているんじゃないかな」
むしろ注がれてますが、という言葉を命は飲み込んだ
「翌日のレシェがいつもより綺麗で見惚れてしまう」
「兄上さまもいつもよりお可愛らしいです」
命の失言に赤面する兄だった
「長官、邪魔してるぜ」
朝霧は長官室で植物図鑑に顔を突っ込んでいた
「あなたが本とは珍しいですね」
「兄上さまの山に見たことない花が咲いてたから何の花かと思ってな。教えてさしあげようかと」
「あなたが…花…」
長官は笑いを堪えることができなかった
「おい!笑うな」
「長官、最近本を買い足しましたか?」
「そうか?気のせいだ」
長官室に兄が訪ねてきた
「長官、この間借りた本とても面白かったです。ありがとう」
「いえいえ。次はこちらなどいかがでしょう?たまたま手に入った本でして」
水明は、兄に新しい本を手渡す長官をじーっと見ていた
腹痛を訴える兄のため巻雲はかけつけた
「兄上さま、何かお口にしたものはございませんか?」
海老の件もある侍従たちが心配そうに見守っていた
「昨夜から何も食べてませんし、口にしたものってレシェくらいしか…」
巻雲と侍従たちが固まった
「…お疲れが出ただけのようです」
「先日馬を見に兄上さまがいらっしゃった時、自由に走れる馬はいいですねっておっしゃって」
「…兄上さま。おいたわしい」
「その時通りすがりの青嵐さまが、私がお抱きして馬のように走れますよって手を伸ばして。また通りすがりの朝霧さまがそんな青嵐さまを跳び蹴りして」
「絶対に通りすがりじゃない」
「レシェ、あれの時間を短くできないか?朝起きられなくてお腹が減るんだ」
「では繋がっている間に私が食べさせてさしあげます」
「ダメだそんなのはダメだ!」
「少しずつお口にいれてあげますよ」
「そんなの…間違ってレシェの舌噛んだら困るじゃないか」
「噛んでくださいっ」
「兄上、最近楽しそうですね」
「皆さんとてもよくしてくれるから」
「私は兄上をよくしてない?」
「そんなことない」
「気持ちよくしてる?」
「え。意味が違っ」
「ねえ、こたえて。気持ちいい?ここは?」
「あ…」
「私が一番気持ちよくしてるでしょ?」
「……うん」
「命さん。最近レシェのことばかり気になるのだけど、変じゃないかな?」
「どのように気になるのですか?」
「レシェがそばにいないと胸がきゅって痛くなる。病気かな?夢にもでてくるし」
「わかりました」
「どうしたら」
「陛下をお呼びします。治していただきましょう」
注)恋わずらいの元ネタ
足弱は真剣に悩んでいた
「命さん。…レシェは…」
「陛下がどうかされましたか?」
「おれから会いに行くのと、来てくださいって言うのとどっちがいいんでしょう?」
「……どちらも大層お喜びになるかと」
可愛いらしすぎて震えそうな声を抑え、命は完璧な微笑みで返した
<命>裏日記
『兄上さま昼過ぎにお目覚め、寝台でしばらく微睡むも、陛下の小さなお忘れ物に気付き微笑まれる。
「おはよう。レシェ」と、陛下の一筋のお髪に向かってご挨拶される。
本日もお可愛らしい』
「おれの腹が苦しくなるのはレシェが何度も中で出すからじゃないかな?」
足弱はふと思い至った
「レシェが外で出せばいいんだ」
その場が凍りついた
「……絶対嫌です!」
王は、足弱にすがり付いて泣いた
(兄上さま、ご容赦ください!)
侍従たちも心で泣いた
<命>裏日記
『先日、兄上さまの湯殿後の肌香油を、香を抑えたものに替えたところ、
本日もとに戻してほしいとのご要望。
すぐにお戻ししたところ『この香りの方がよく眠れるので』と微笑まれる。
陛下と同じ香りに包まれお休みになる兄上さま、本日もお可愛らしい』
夏野菜を収穫する足弱は摘んだばかりの実をひょいと口に放り込む
「美味しい」
嬉しそうな足弱に狼たちは他の野菜もすすめる
「こちらはどうでしょう?」
野菜を次々と口に運ぶ足弱
(雪解けはどう思うかな?)
命はふっと笑った
(喜ぶか、悔しがるか)
大地には誰も敵わない
「指を怪我されたとお聞きしましたが」
「棘が刺さっただけだよ」
王は兄の痛めた指を舐める
「兄上に刺さるような棘には罰を与えねばなりませんね」
「レシェだっておれに刺してくるくせに」
「ではここも舐めて癒してさしあげます」
屈む王の頭を、兄はあわてて押し退けた
兄の手の甲に薄い切り傷をみつけた侍従が軟膏を取り出すと兄はそれを拒否した
「だってそれは苦いでしょう?」
「お舐めになったんですか」
「レシェが。いつも舐めてくるから薬はいらないです」
その後すぐに舐めても安全蜂蜜入りの軟膏の開発に成功し今日もせっせと兄を癒した
「兄上はもっとわたしに甘えていいのですよ?」
「甘えるってどうやるんだ?」
「どうって…頭を撫でて抱き締めてもらう、とか?」
足弱は、王を抱き締めて頭を撫でた
「兄上逆です。それはわたしがする方です」
「おれがしたいんだ」
王はおとなしく足弱の腕の中におさまった