月夜のMelody
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鍵のかかる部屋 (緑土なす二次創作 3)



 開かずの間と呼ばれる部屋があった。
 その部屋を、誰もが見ないように触れないようにしているのに、足弱は気がついた。
「何があるんですか?」
 命は、はっとしてひざまづいた。
「何もございません。お気になさいませんように」
 そう言われたらさらに気になってしまう。足弱が宮殿の一角の小部屋のことを誰に尋ねても、上手く話をそらされて教えてもらえなかった。

 数日後、足弱が王と二人で散歩から帰ってきた時、王は自然にあの小部屋を避けるように促した。
(今までもそうだったのだろうか)
「レシェ、どうしてこっちの廊下を使わないんだ?」
 何気なく聞いた足弱の言葉に、今世王は一瞬身をすくませた。
 そして足弱は、今世王の揺れた視線で気づいてしまった。
 あの小部屋は、足弱が最初に今世王から乱暴を受けた部屋だということに。
「……ああ、そうか」
 足弱の中ではすでに過去のものとして全く意識していなかったので、まさか皆が気にしているとは思わなかった。
 青ざめる今世王の心には、今も苦しみが渦巻いていた。気にするなと言っても無駄だろう。
「あの部屋の中が見たい」
「……はい」
 今世王は、重い足取りで足弱を案内した。

 鍵のかかっていた何もない小さな部屋。
 あの嵐のような一夜が嘘のようだ。あれほど押しても開かなかった扉が、軽く開いた。
 足弱は室内の物が完全に処分されてしまっている本当に空っぽの部屋を見回してから、今世王に顔を向けた。
「……レシェ、もう一度始めようか」
「え?」
 足弱は、ずっと俯いていた今世王に自ら腕をまわし、口づけた。
「《よいですよね》って言って」
 それは、あの日の言葉。
 今世王は、消え入りそうな小さな震える声で、あの言葉を繰り返した。
「…兄上……よいですよね。わたしが兄上を抱いても」
 足弱は、微笑んだ。
「ああ、いいよ。でも……」
(でも!?)
 王族の中の王族が、緊張でこわばる。
「ここだと床が痛いから、運んでくれるか?」
 侍従たちを振り切る速さで、今世王は足弱を寝室に抱き運び、寝台の上に押し倒した。
 のちに一進は、陛下最速でしたと記録した。

 早急に今世王は足弱をもとめた。
 緊張から解き放たれた解放感に、歯止めがきかない。足弱の体が完全に開く前に王は突き入れた。
「ああっ……まっ……」
 狭い中を押し広げていく快感に、王は酔う。きつく締め付け蠢き奥へと誘う足弱の体は、すぐに喜びにほぐれていく。
「…は、…あ……あ…ぁ」
 ゆっくりと抜き差しを繰り返し、足弱の中に続けざまに精を放った。匂いたつ、アラスイの香りに煽られる。
「もっと私をもとめて、私がいなくちゃだめになって。ずるいです、私だけがこんなにラフォスに夢中なんて」
 何度も足弱を激しく突き上げ、揺さぶった。叫ぶように、想いとともに中にさらに愛情を注ぎ込む。
「も……なってる、から……ああっ…そんな、いっぱい…」
 翻弄される足弱は、荒い呼吸の合間に伝える。
「え!聞こえない。もう一回言って」
「あ、あぁ、あ………っ」
「言って。ラフォス」
 今世王の声に、必死さが交じる。
「レシェ、すき……レシェがほしい…よ」
 足弱中の今世王が、さらに大きくなる。
「…あっ……おく……ううっ」
「ごめんなさい。とまらない」
 ぎゅっと足弱は王にしがみつき、その耳に囁く。
「はぁっ……おれ…も、レシェに、夢中だ」
 今世王は、くらりと目が眩んだ。熱い息とともに吹き掛けられた言葉に、狂暴な獣が目覚めかけるのを全力でとめる。濡れた黒い瞳を見つめ、震える声で王は今更ながらの許しを請う。
「動いてもいい?がまんできない」
 足弱はしがみついている腕をゆるめた。というより力が抜けて腕が落ちた。すでに何回達したかわからない。
「……レシェが、したいように、していい」
 今世王は、足弱の中を貪欲に味わう。
 のけぞる無防備な足弱の首に胸に、何度も噛みつき吸い上げては、足弱の腰を掴んで突き上げた。
「あ、ああ、 ぁ、ぁ……ひっ」
「呼んでラフォス。レシェって呼んで」
 足弱の中にいるのは自分だと、強く感じてほしかった。
「れ、レシェ……あぁ…レ…シェ」
「もっと呼んで」
「レシェ、レシェ、レシェ……」
 レシェイヌが自分の中にいる、そう思うと何ともいえない感覚が足弱を痺れさせる。名前を呼ぶごとに愛しさが増していく。腰が震える。脚を限界まで開いて深くもっと一つになりたいと思う。
 見上げると今世王と目があった。薄く唇を開けば、すぐに口を塞がれ口内まで侵入される。
(苦しくて痛くて……気持ちいい)
 離れる王の舌を、足弱は追いかけて吸った。その間も足弱を穿つ今世王の動きはとまらない。
「……んっ……はあぁ……っ」
 足弱は王の頭を抱え込み、その美しい髪に指をからませ無意識に自分の方へと引き寄せた。
 足弱の口内を堪能つくした王は、名残惜しげに口を離すと、壮絶なまでに艶かしい瞳で足弱を射抜き、両手を足弱の腰に回した。
「あっあああああ!」
 緩やかだった動きが、一呼吸後激しくなる。結合部から溢れる濡れた音を気にする余裕など、もう足弱にはなかった。
「ああっ…深いっ……あ、あ、あ」
 信じられないほど深いところに今世王を感じた。足弱は、中から腹が裂けるかと思うほどに激しい今世王の高ぶりを受けいれる。包み込む。足弱の限界まで引き伸ばされている内壁がさらに飲み込もうと蠢く。
「レシェ、レシェ、レシェ」
「ラフォス、わたしの……わたしのラフォス」
「っ……あ、あーーーーーっ!」
 今世王は、身体をのけ反らせ快楽に溺れかけている足弱の中に、もう何度目かわからない精を迸らせながら、もっと欲しいと思ってしまう。壊してはいけない苦しめてはいけないと、いつも我慢を強いられる。どんなに抱いても満足できない。
「わたしのラフォス」
 さすがに足弱も限界だろう。もう止めなければいけない。手を離して足弱の中から出ていかなければ…。
 今世王が悲痛な覚悟を決めたとき、強い快楽を受けぼんやりとしていた足弱が王の名を呼んだ。
「レシェ……おれのレシェイヌ」
(自分の、と今言ったのか?)
 今世王は、喜びに震える。
「そうです。あなたのレシェイヌです」
「おれのレシェイヌ…」
 今にも意識を手放してしまいそうな危うさを見せながら、足弱は言った。
「もう一回だけなら、しても、いい」
「ああ!ラフォス!!」
 今世王は、足弱の息を全て奪うように深く口づけながら止まらない愛を見せつけ、足弱の声が枯れるまで喘がせ、完全に足弱の意識がなくなるまでその身体の中から出ることはなかった。

 その後、何をしてもくったりとしたまま反応を見せない足弱に焦った今世王は、医者を呼びに行かせ、大事ないとわかると足弱が動けるようになるまで、嬉々として世話をした。
 あまりに甲斐甲斐しく世話をする王に、侍従たちは立場をなくして恥じ入るほどだった。


 開かずの間に、今はもう鍵はかけられていない。