王は、自分のために怒る兄が見たかった。
「まもなく兄上が来る。〈一進〉、兄上に余の悪口を言え」
「陛下!どうかお許しください!」
〈一進〉は這いつくばって許しをこう。
その時、早目に兄が到着してしまった。
「レシェ何やってるんだ!〈一進〉さんをいじめるなよ!」
「え!違っ」
王は兄に怒られた。
再び。王は自分をかばって怒る兄が見たかった。
「この間は失敗した。〈一進〉、勅命である。兄上に余の悪口を言え」
「ううっ…」
〈一進〉は主の命令に逆らえず泣いた。
しかし、またしても兄はそこに通りかかってしまった。
「レシェイヌ!また一進さんに酷いことしてるのか!」
「ああっ!もう!でも怒られるのもいい!」
王は怒る兄にときめいた。
王は、あきらめない男だった。
〈一進〉じゃダメだった。〈青嵐〉にしよう
「〈青嵐〉、余の悪口を兄上に言え」
「承知いたしました!」
王は隠れて見守った。
「兄上さま、聞いてくださいよ。陛下ってば先日も我儘ばっかり」
足弱はクスクスと笑いながら〈青嵐〉の話を聞いた。
(…………あれ?怒らない)
でも、笑う兄上が見られたのでこれはこれでいいか、と王は思った。
王は、兄絡みでは本当にあきらめようとしない
〈青嵐〉でもダメだった。長官にしよう……
「長官、余の悪口を兄上に言え」
「聡明な陛下には悪いところなど一つもございません。ご安心くださいませ」
「………ああ、うん」
王は諭された。
王は、最後の手段を使った。
最後の切り札〈命〉。
「〈命〉余の悪口を兄………」
「(にっこり)」
〈命〉の微笑みを真っ正面から受け、王は何も言えなくなった
「いや、なんでもない。さがってよい」
微笑み一つで王を黙らせる〈命〉だった。