月夜のMelody
戻る

 (緑土なす二次創作ぷらいべったログ 7)
『名月』


「残念ながら雲が隠してしまいましたが、今夜は素晴らしい月を愛でる日なのですよ」
 王族がたくさんいた頃、毎年この時期は虫の声や月を楽しんでいたらしい。
 今世王が一人になって、そういった楽しみも取りやめていたけれど、今は足弱が側にいる。

 今世王は足弱を夜中に庭に誘ってみたものの、今夜の雲はかなり厚い。
 残念そうな今世王の姿に、このまま部屋に戻りたくないなと、足弱は思った。
「レシェ、瑟を弾いてくれないか?」
「いいですよ。では兄上は笛を」
 侍従たちが喜びに沸き立つ心を抑え準備を整えると、二人の合奏が始まった。

 秋虫の声がとまる。
 美しい楽器の調べが、遠くまで、雲の上まで届きそうだ。
 途中で、今世王はわざと瑟の手をとめた。
 足弱の美しい笛の音だけが響きわたった。
 しばらく吹き続けてから、足弱は独奏に気づいて笛をとめた。
「レシェ、ひどい……」
 恥ずかしさに頬を赤らめて、足弱は文句を言った。
「ごめんなさい。兄上の笛が素晴らしくて聞き惚れてしまったんです」
 楽しそうに笑う王。
「もう一度、ね。合わせてください。お願いします」
「途中でやめたら怒るからな」
 足弱は笛を構える。
「では、わたしから先に。曲名は名月」
 今世王の指が瑟の上を滑る。
 少し遅れて、足弱の笛の音が入った。
 二人の音が睦みあう。
 自然に笑みが浮かんでしまう。
 演奏する二人を、柔らかな光が照らし出した。雲がどんどん薄くなり、辺りが明るくなっていく。
 見上げれば、いつの間にか雲は消え去り、夜空に満月が輝いていた。
 月が二人に会いに来たようだ。

 侍従たちは、一枚の絵のような二人の姿を目に焼き付ける。
 楽しそうに微笑みながら音を重ねる二人を、天にも昇る心持ちで見守った。

 今宵は中秋の名月という。