〜骨髄と胎児由来の幹細胞臨床研究を例に〜
日時:2004年4月3日(土) 13:00〜16:15
会場:共立薬科大学 3号館11階1101教室
[趣 旨]
再生医療への期待は大きいが、それが実際にどれだけ安全で有効な治療技術になりうるのか、医学的評価はまだ定まらない。そのようななかで、日本では国レベルのルールづくりが遅々として進まない間に、個々の医学者の発意で臨床試験が様々な施設において始められようとしている。
医学的な評価は、その医療技術を受け入れるかどうか判断を迫られる個々の当事者にとって死活の問題である。また社会にとっても、倫理的問題を議論する際には、科学的根拠に基づく研究評価を専門家との間で共有することが出発点として不可欠である。
そこで研究対象者保護法制を考える会では、科学技術文明研究所とくすり勉強会との共催で、日本で臨床応用が進み社会の関心も高い骨髄細胞移植と、その是非が議論されている胎児由来の幹細胞を用いる臨床研究を例にとり、専門家を招き医学的評価を交わしてもらう開かれた場を設けようとの趣旨で、今回のシンポジウムを企画実行することにした。幅広い分野の方々に、自由な質疑討論にご参加いただけることを期待している。
プログラム
開 会 |
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13:00〜13:05 |
司会進行:栗原千絵子(研究対象者保護法制を考える会) 開催趣旨:栗岡 幹英(静岡大学教授 人文学部/くすり勉強会代表) |
講師より発表・質疑 |
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13:05〜13:10 |
ヤ島 次郎(研究対象者保護法制を考える会) 講師紹介と問題提起:体性幹細胞臨床研究について |
13:10〜13:40 |
岡野 栄之 氏(慶應義塾大学医学部生理学教室教授) 骨髄由来の幹細胞臨床試験の医学的評価 (質疑) |
13:40〜13:45 |
光石 忠敬、栗原千絵子(研究対象者保護法制を考える会) 講師紹介と問題提起:胎児由来幹細胞臨床研究について |
13:45〜14:15 |
福島 雅典 氏(京都大学医学部附属病院探索医療センター検証部教授) 再生医療の医学的評価と倫理的論点 (質疑) |
<休 憩>(15分)
コメント・ディスカッション |
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14:30〜14:55 |
コメント: 渡部 基之 氏(日本せきずい基金理事) 打出 喜義 氏(金沢大学医学部附属病院産科婦人科講師) 松本佳代子 氏(性と健康を考える女性専門家の会副会長/共立薬科大学社会薬学教室助手) |
14:55〜16:05 |
質疑、討論
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閉 会 |
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16:05〜16:15 (10分) |
まとめ・閉会の辞:米本 昌平 |
講演者・コメンテイター紹介
岡野 栄之 氏(慶應義塾大学医学部生理学教室教授)
1983年慶應義塾大学医学部卒業、同医学部生理学教室助手、米国ジョンス・ホプキンス大学医学部生物化学教室留学、東京大学医科学研究所化学研究部助手、 筑波大学基礎医学系分子神経生物学教授、 大阪大学医学部神経機能解剖学研究部教授などを経て、2001年より 慶應義塾大学医学部生理学教室教授。
2003年より21世紀型COEプログラム「幹細胞医学と免疫学の基礎-臨床一体型拠点」(医学系、慶應義塾大学)拠点リーダー。慶應義塾大学医学部北里賞受賞その他受賞、文部科学省・厚生労働省・日本学術振興会等の専門委員を歴任。主たる研究領域は分子神経生物学、発生生物学、再生医学など。
福島 雅典 氏(京都大学医学部附属病院探索医療センター検証部教授)
1973年名古屋大学医学部卒業。1976年京都大学大学院医学研究科生理系専攻博士課程終了。同年浜松医科大学文部教官助手。1978年愛知県がんセンター病院内科診療科医長。
2000年京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野教授、2001年医学部付属病院探索医療センター探索医療検証部教授(薬剤疫学兼担)。専門は腫瘍内科学、臨床試験デザイン・管理・評価、薬剤疫学。2003年4月より(財)先端医療振興財団 臨床研究情報センターの臨床試験運営部長併任。メルクマニュアル日本語版、米国国立がん研究所NCI最新がん情報データベースPDQ®日本語版、カレント・メディカル診断と治療日本語版監訳・監修。
渡部 基之 氏(日本せきずい基金理事)
1964年、都立町田高校卒業後、紀伊国屋書店洋書部、海鳴社編集部をへて、1999年より日本せきずい基金事務局勤務(常勤・理事)。2001年;和泉福祉専門学校、2003年;東京福祉大学卒業。社会福祉士・介護福祉士。
打出 喜義 氏(金沢大学医学部附属病院産科婦人科講師)
1978年金沢大学医学部医学科卒業。1984年金沢大学大学院医学研究科博士後期課程単位取得満期退学。1987年金沢大学産婦人科助手。1995年より現職。2002年10月3日朝日新聞「直言」“ES細胞研究、慎重に審議を”。2003年5月“『人体実験』と患者の人格権”(御茶の水書房)。
松本 佳代子 氏(性と健康を考える女性専門家の会副会長/共立薬科大学社会薬学教室助手)
共立薬科大学大学院薬学研究科博士後期課程修了。AVONプロダクツ株式会社、薬局薬剤師を経て現職共立薬科大学社会薬学助手。性と健康を考える女性専門家の会(会員600名)副会長。くすり勉強会副代表。興味分野はリプロダクティブヘルスと薬。
配布資料一覧
●プログラム
●ぬで島次郎問題提起資料(「ぬで」は木偏に「勝」)
●岡野栄之氏講演資料(パワーポイント)
●福島雅典氏講演資料(パワーポイント)
・関連資料
・「§再生医療TR演習問題」(臨床研究情報センター研修会資料集より)
・Freedら、Olanowら 論文抄録(英・日対訳)
・TAPS日本語版(臨床研究情報センター研修会資料集より)
●栗原千絵子問題提起資料
●渡部基之氏提供資料
・「骨髄間質細胞による脊髄再生のための臨床研究」に関する懇談会報告(概要)
〔日本せきずい基金事務局 編〕
・会報
●打出喜義氏提供資料
・ 朝日新聞記事「直言」
「ES細胞研究、慎重に審議を」打出喜義 「ES細胞の必要性は大きい」辻中辻憲夫
●主催団体紹介資料
・科学技術文明研究所
・くすりネット・くすり勉強会
参考資料 (作成:研究対象者保護法制を考える会)
中絶に関する日本の法規制
◆母体保護法と堕胎罪:
・母体保護法により、胎児であって母胎の外で生命を保続できない時期の人工妊娠中絶は、下表に示す要件を満たせば堕胎罪の違法性が阻却される。この時期は1991年の通知により22週未満とされている(ただし、周産期医療の発達により現在は22週目未満も生存可能)。
堕胎罪の違法性が阻却される要件
・妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがある場合、または
・暴行もしくは脅迫によって、または抵抗もしくは拒絶することができない間に姦淫され妊娠した場合であって
・本人及び配偶者の同意(配偶者が知れない時もしくは意思表示できないときは本人のみ)を得ること
胎児細胞・組織についての研究に関する日本の法規制
◆妊娠4か月以上の死亡胎児:
・死体解剖保存法に準拠、死亡・埋葬の届出が求められる。死体と同様、遺族の承諾を得て研究利用できる。ただし、想定される研究は、病理解剖および、将来の研究のための保存であり、後者については、法の制定当時は再生医学研究等、他者の益のための研究は想定されていないと考えられるが、これを適用し研究利用可能とも考えられる。
・研究現場では、死亡・埋葬届出等の煩雑さを理由に、4か月以上は明示的にはあまり利用されていないが、実際には法に準拠せずに取扱われている可能性も否定できない。
◆妊娠4か月未満の死亡胎児:
・胎児に特定して適用される法律が無く、他の人体組織細胞と同様に廃棄物処理法に準拠して感染性廃棄物として処分されなければならない。(廃棄物として扱うことの是非も問われている。)
・研究現場では、死亡・埋葬届出等が必要ないことから、廃棄物処理法に抵触する可能性はあるものの、下記の産婦人科学会の会告を根拠に譲渡されている。
法的根拠のない規制
◆EG細胞(embryonic germ cell:胚性生殖幹細胞):科学技術会議報告書で据え置き(200.3.6)
◆死亡胎児研究利用についての産婦人科学会会告:
昭和62年1月(産婦人科学会 会告)
1) 12週以降は死体解剖保存法に従う。 2) 代替の方法がなく、研究成果が大きいと予想される場合に限られる。 3) 研究を行う者は医師に限定。 4) 生存中の胎児・新生児の研究は予後の好転が予想される場合のみ、両親の同意のもと、プライバシーを尊重して行う。
平成13年12月15日 解説追加
・12週未満は死体解剖保存法に規定されていないが、倫理上の配慮をし、尊厳を侵すことのないよう取り扱う。 ・学会は死亡した胎児・新生児組織細胞の再生医療への応用研究の発展を禁止しない。提供する立場となる会員は自主的判断により、倫理委員会の承認を得て行う。
◆「胎児の体性幹細胞」については、現在厚生科学審議会で審議中。(幹細胞・EG細胞以外の胎児組織については?)