蝸牛月刊 第7号 1996年4月27日発行


アレクサンドル・ソクーロフ監督ビデオ作品

『精神の声』全5部作連続上映

大山博

 SF関連作品ではストルガツキイ兄弟の『世界終末一〇億年前』の
モチーフを利用して劇映画『日陽はしづかに醗酵し……』を作ったソ
クーロフ監督だが,ドキュメンタリー映画監督としても知られている.
そのソクーロフが1995年にロシア北方のコミ共和国,そして,戦
火のアフガニスタン国境,タジキスタンで撮影した長編ビデオ作品が
8月から東京は渋谷のユーロスペース2でレイト&モーニングショ
ー予定の『精神の声』だ.サブタイトルは『戦場の日記』.この作品,
過日,配給もとのパンドラが主催する試写会(ただし,第1,2部の
み)に参加できたので以下,紹介をしてみたい.
 第1部は冬のコミ,氷雪に覆われた川辺の針葉樹と野原,遥かな山
並みと雲に覆われた空が固定カメラで延々と映し出される.バックミ
ュージックに流れるモーツァルト,ベートーベン,メシアンの調べ.
男声のモノローグ.38分間の第1部は何とわずかに4カット(だと
思う)で構成されているのだが,移り行く微妙な光の具合と音楽の配
置は観ている者をあきさせない.そして,ラスト近くの短い2カット
が第2部への布石となっている.
 第2部は,一転して炎熱とほこり渦巻く中央アジアの戦場からはじ
まる.先頭ヘリの機体の日陰で休む若い兵士たち.目を閉じ,一列に
並んで何かを思う,これまた少年のような兵士たち.流れる音楽は武
満徹.やがて一同はほこりの色をしたヘリコプターに乗り込み,地を
這うように飛びながら前線へと向かう.飛行場から先は装甲車に同乗
して前線基地に向かうソクーロフ.熱さを避けるためか,はたまた閉
ざされた戦闘室内を忌み嫌うのか,砂埃と炎熱にさらされながら車体
上に群れなす兵士たち.キューブリックの名作『フル・メタル・ジャ
ケット』がなぜか思い出される.そして,奇襲を警戒しつつたどり着
いた前線基地もまた,岩と砂ばかりのけわしい山中の孤塁にすぎなか
った…….
 全作上映すると5時間半におよぶ大作だが,1,2部を観て感じた
ことはこれは一気に観るべき作品と言うことだ.監督自身はテレビで
分割放映されることを想定していると言ってはいるが,続けて観た場
合との印象は多分に異なって来るだろう.また,試写会だけの問題か
もしれないが,ビデオプロジェクタによる上映はマスター・ビデオの
もつ微妙な色彩の変化をうまく表現しきれていないようだ.字幕を担
当している児島宏子さんの話では,山形映画祭で上映された時はもっ
ときれいだったとのことなので,本上映の時はもっと良い状態である
ことを期待したい.

外見書評

第一回目
ウラジミール・ソローキン著 ロマン

 ロマンと言うと長編小説のことになってしまうが、本書では何と
主人公の名前である.
 ストーリーは、狂気・殺人モノだが、驚くのは本書のタイプデザイ
ンである.
 版面を掲載するが、読んでいてクラクラしてくるような文字の流れ
である.ノンブルを見てもらえるとわかるが、この調子でp.333-p.398
の間に段落替えが一回しかないのだ.

 以下、クリックで拡大表示します.

(27K)

 p.333すでに改行がなくなっている.

(26K)

 最後から2ページ目.完全に分裂している.名詞+動詞の繰り返しに
なっている

 以上、見ていただいたように本書は恐るべきレトリックとビジュア
ル的な特徴を持つ本なのである.内容はともかく、非凡な本だ.