蝸牛月刊 第27号 1998年1月18日発行


CD-ROM版ロシア語辞典を評価する

 今回、二種類のCD-ROM版ロシア語辞典を使うことができたので、その使用感を紹介する。入手したのは、


の二種類。どちらもWindows95上で動かしている。
 電子辞典の使いやすさは、以下の二点に集約されるといっても良いだろう。
  1. 収録語数
  2. 検索ツールのユーザーインターフェース

 加えて「B検索の速さ」もあるが、どちらも辞書ファイルをハードディスクにインストールできるため、特に問題はない。
 では、上に挙げた二点に注目してそれぞれの特徴を示してみたい。なお、使用感の試験にあたっては、エディタ上の単語をコピーして検索するだけという単純な使用方法をとっている。複数単語の同時検索や訳語を元テキストへ書き戻すといった使用方法で評価すれば別の結果が出る可能性は大いにあるので、この点をまずご了解いただきたい。

Lingvo

 DOSの時代から存在したロシア製のロシア語⇔英語電子辞書である。42万語を収録しているということになっている。
 ユーザーインターフェースは図に示すような形で、検索ウィンドウと結果表示ウィンドウが別々になっている。この二つのウィンドウを縦に置くことによって文章ファイルのエディット画面とは重ならないようにすることができる。また、複数の結果ウィンドウを表示したままにできるのも便利である。
 検索は、もちろんそのまま入力することもできるが、文章ファイル上で文字列をコピーし、マウスで検索ウィンドウをハイライトしてペーストすることによって行うこともできる。ハイライトした時点で検索語が全選択になるので、そのままペーストすることができる。つまりCtrl+Cでコピー、マウスのクリック、Ctrl+Vでペースト、Enterで検索が完了する。
 難を言えば、Alt+TabでエディタとLingvoを切り替えたとき、ハイライトが検索ウィンドウではなく、結果ウィンドウに行ってしまうため、マウスのクリックがどうしても必要になる点である。これさえなければ、すべての操作をキーボードからのショートカットで行うことができるのだが・・・。
 ただ、結果ウィンドウにカーソルが移動することによって得られる利点もある。英和辞典との組み合わせである。検索結果をSift+カーソルキーで選択し、Ctrl+Cとすることで英和辞典に移動してすぐに検索語を指定することができる。

参考:ビットソフトのサイト

Oxford Russian

 同じくロシア語⇔英語電子辞書だが、こちらは名前の通りイギリス製である。
 ユーザーインターフェースは図に示すような形で、検索と結果表示は同じウィンドウで横置きにされている。そのため、どうしても横幅が広くなり、エディタの画面と重なってしまう(縦に置く方法もあるのかもしれないが、まだ発見していない)。また、ヒストリ機能によって過去に検索した語を見ることができるが、同時にみられないのは残念である。
 また、マウスでハイライトしたとき、カーソルが検索ウィンドウの入力ラインに表示されるのだが、前に調べた単語が選択になっていないので、わざわざバックスペースで消すか、マウスで選択しなければならない。直接単語を入力するにしても、結局はバックスペースのお世話になるのだ。連続して使用する際、この手間は煩わしい。また、収録語数の点でもLingvoに劣るようである。
さらに、プロテクトの関係で、起動の際にCD-ROMを入れなければならないのも煩わしい。百科事典などのCD-ROMを使いたいときには、わざわざ入れ替えなければならなくなる。

総評と要望

 ここまで読んでいただければわかると思うが、今回の使い方では総じてLingvoのほうが便利である。辞書においてユーザーインターフェースがどれほど重要か、わかっていただけるだろう。
 英和辞典などにはエディタ上で単語をCtrl+Cによってコピーするだけで検索語の欄に単語が張り付き、自動的に検索してくれるものがあるが、この機能は是非とも欲しい。そうなればCtrl+CとAlt+Tabだけでロシア語⇔英語⇔日本語が変換できるということになる。しかし、ロシア語⇔日本語が直接検索できる辞書の登場が最高の福音であることは間違いない。
(大野典宏)


新刊案内


日本語版 Windows 95 とロシア語の世界

中川研一著
東京ロシア語学院 1997.12
ISBN(なし) \1,500(税抜き)

 日本語 Windows 95 に標準で搭載される多国語機能を利用してロシア語その他の言語と日本語の混在文をかなり容易に作成できることは、あまり知られていない感がある。何しろ、多国語機能についてマニュアルでほとんど触れられておらず、ディスケット版のキットにはこの機能が含まれていないくらいだから、マイクロソフト自身、積極的にアピールするつもりはないのかもしれない。でも、あの Mac OS 8 でも、多国語機能はオプションなのだから、Windows 95 の多国語機能はかなりの目玉だと思うのだが、この扱いは残念なことである。
 そこで本書の登場である。本書は3種類の代表的な日本語ワープロで 日露混在文を扱うための入門書であり、マイクロソフト Word 7.0、ロータス WordPro 96 及びジャストシステムの一太郎8がそれぞれ独立した章として扱われている。各章の内容的に若干の重複はあるが、各ソフトのユーザは該当する章だけを見れば用が足りるように構成されているのだ。特に、Word 7.0 については、ロシアで発売されている支援ツールОРФО95 を併用するためのテクニックが詳細に解説されており、ロシア語の文章を書く必要があり、自己責任の原則を理解する者にとっては良い参考となるだろう。
 著者は商用ネットワークの一つ、ニフティサーブの外国語フォーラム(FLM)でも時折、発言されているため、FLM ロシア語会議室の読者にとって目新しい情報ではないかもしれないが、やはり図書の形になってまとめられていると便利なものである。難点をあえてあげれば、付録部分にささいなミスが散見されることだろうか。
 なお、本書には ISBN が付けられておらず、一般書店での入手方法は未確認であるが、評者はナウカの神田神保町店で購入したことを補足しておく。また、読者はがきを返送すると、東京ロシア語学院特製キーボード用シールがもらえるのが面白い。


わが家の人びと ドブラートフ家年代記

セルゲイ・ドブラートフ著 沼野充義訳
成文社 1997.10
ISBN4-915730-20-4 \2,200-(税抜き)

 1978 年に当時のソ連を追い出され、アメリカ合衆国に移住した著者による嘘実入り交じった一族の年代記。SFとはほんの!一部分(p.65 参照)を除いて関係ないのだけれど、ソルジェニーツィンに代表される、とっつきにくい亡命者文学とは趣の違った作家の存在感が楽しめる。亡命後のシニャフスキイ(幻想的作品『こちらモスクワ』や『リュビーモフ』の著者)の作品もあまり日本には紹介されなかったが(書評を除く)、ドブラートフ作品もまとまった形での出版は本書が初めてとのことである。訳者の言うとおり、確かにもっと早く紹介されるべきであった作家なのだろう(もちろん、遅くても紹介される方が良いに決まっているが)。
(大山博)