蝸牛月刊 第21号 1997年6月21日発行


関連情報


チェコ映画について少々

 昨年の東京映画祭で上映されたチェコ映画があったのを記憶されているだろうか?(賞の権威があるか否かはともかくとして、インタナショナル・コンペティションの東京グランプリを受賞している) その映画が今年の夏、シネマテンの配給により公開される予定なのだが、先日、原作本『コーリャ 愛のプラハ』(映画祭での公開時は『プラハ・小さな愛の詩』だったが、題名を変えて公開されるようだ)が集英社から発行された。著者は、ズデニック・スヴェラーク、訳者はチェコ語ではおなじみの千野栄一(ISBN4-08-773268-1 \1,500-税抜き)。
 これだけのことなら、あえて蝸牛月刊でとりあげることもないのだが、実はこの映画の監督であるヤン・スヴェラーク(脚本家ズデニックの息子)とズデニックは、昨年三月、都内で単館上映されて一部観客の人気を博したチェコ初のSFX映画『アキュムレータ1』を作っていたのだ。社会主義時代のコメディ『スイート・スイート・ビレッジ』も楽しい作品だったが、『アキュムレータ1』も残念ながら筆者は未見なのだが、なかなか風変わりで面白い作品だったようだ。多芸な映画人たちの今後一層の活躍に期待したい。(大山博)

モスクワ映画祭は予定どおり開催(一応)

 一時は開催が危ぶまれたモスクワ映画祭だが、やはり、七月十九日から開催される模様である。
 エイゼンシュテイン・シネクラブ日本(代表:山田和夫)では、この映画祭に合わせてロシアの国立フィルムライブラリーであるゴスフィルモフォンドを訪ね、日本では未公開あるいはそれに近い作品を泊り込みでひたすら観ることを計画中である。この計画には筆者も参加予定であるので、実現の折には改めて詳細を紹介したい。(大山博)

新刊紹介

天使墜落(上・下)
ラリー・ニーブン&シェリー・パーネル&マイクル・フリン著 東京創元社刊
 時は未来,環境を壊す科学技術を代表する物として宇宙ステーションは地球と対立していた.同じく,科学を信奉する者としてSFファンも迫害され,地下に潜って活動していた.
 ある時,一機の宇宙船が地球に墜落する.地球政府に見つかるとかなりまずい.何とかロケットで帰還したい.そこで協力する団体が現れた.地球上で唯一,宇宙ステーションを支持する団体,SFファンダムである!! そして追う側,政府の中にも元SFファンというやっかいな奴がいて話はややこしくなる.
 SFファンダムを舞台とした小説としては,ミステリー「暗黒太陽の浮気娘」が有名だが,本書は今後それと対をなして語られるであろうSF(ファンダム)小説である.
 で,何でこれが?というと,実はこの小説に登場する宇宙ステーションでは露英語とでもいうべき,ロシア語と英語が混ざった言語が使われているのだ.しばしばロシア語が登場する.ただそれだけと言えばそれだけなのだが,SFファンならSF小説として,そしてファンダム小説として楽しめるだろう.
 また,本書で興味深いのは,ギャグのようなストーリの向こうに不気味なディストピアが見える点だ。
 本書に登場する社会は「1984年」のような力任せの独裁ではない。「1984年」が警察権力にものをいわせ,有無を言わせない父権的独裁国家であるのとは対照的に,本書に登場する社会は,母性的独裁国家である。何かを無理矢理強制するのではなく,「こういうことをしてはいけないとは思いませんか?」,具体的には「環境を壊すのはいけないことですよね?」といった道徳的建前をたてに,やんわりと,だがいろいろな方面に制限をかけている。良心,良識,道徳をたてにとられるとなかなか反論しづらいだけに,さらに巧妙でさらに病根が深い社会である。最近の日本でも上記と似たような理屈で事実上の制限になってしまっているものは多い。アメリカや日本がソ連とは全く正反対の全体主義を構築してしまっているのである。(大野典宏)

とっくに出た本/とっくに出た&これから出る英訳ペレーヴィン

大野典宏