考古学データの“裏”を読む  〜「ある・ない」論の陥とし穴〜
公正徹也 KIMIMASA Tetsuya


【Case 4・蕨手刀は、蝦夷の刀!?】

事実

 8〜9世紀の遺物に「蕨手刀」と呼ばれる刀がある。柄頭がワラビの新葉のように巻き込む形状なのでこの名がついている。

 蕨手刀は、(北海道を含む)東北地方に集中して分布しており150例近く出土している。一方、近畿以西ではわずか一桁台が知られるに過ぎない。

解釈1

 蕨手刀の分布状況からみて、この刀は東北・北海道地方の「蝦夷」と呼ばれる人々が使ったものである。

解釈2

 西日本で発見された蕨手刀は、(数は少ないとはいえ)東北地方で発見されたものとは型式学的に異なっており、西日本で製作されたことを示唆する。ひいては、蕨手刀が、もともと地域性をもちつつ

かつては列島全域に分布していたことを示す。

 7世紀以降、律令制の時代を迎えて西日本では古墳が消滅していった時期に、東北地方では「末期古墳」(北海道では「北海道式古墳」)と呼ばれる小型群集墳が築造され続けていた。東北地方の蕨手刀の大半は、こうした

「末期古墳」の副葬品として発見されたものなのである。

 一方、西日本の蕨手刀は、リサイクルされたか、錆び果ててしまったのだろう。

 Case 3で学んだ「“副葬”の習慣の有無」と「金属のリサイクル」の問題、さらにCase 2で学んだ「遺跡・遺物の年代差と分布との関係」とを合わせて考えなければならない事例である。