初心者の自作顛末記、自作リニアアンプに挑戦


1・自作なりそめ:

初めてゲルマラジオを作って音がした時の感動は今も新鮮だ。小学校五年の時だった。小学生の頃きっと誰もが熱中したように私もプラモデル作りが好きだった。そして高学年になってラジオ作りを知る。「初ラ」(初歩のラジオ)、「モラ」(模型とラジオ)、といった雑誌が愛読書となる。ゲルマラジオに続いて作ったのが一石のトランジスタラジオ、でも確かこれは上手く鳴らなかったように覚えている。半田づけが悪いのか、トランジスタの極性ミスか・・。以来いくつかのラジオ、エレクトロニクスキットに挑戦したがいずれもその成功率は低かったように覚えている・・。

ラジオ作り・エレクトロニクス工作、は楽しそうだが難しいもの、大人の趣味、そんな印象だった。

アマチュア無線、という世界の存在を知ったのもそのころだった。ラジオ作りを極めた人達の世界、知らない外国の人といつでも話が出来る夢の世界、そんな感じで、興味はあったが免許取得は大きな壁のように感じた。

二十年後7M3LKFというコ−ルサインが私の元へ届いた。壁に感じた免許取得も「カンマル君」のおかげでなんという事はなかった。免許取得のきっかけは山歩きの連絡手段だったが、ともかく私はアマチュア無線家となった。開局の目的から当初はメインとなるはずだった430FMでもなく、又、全世界といつでも話の出来るバンドでもなく、山岳移動の人と週末のみに(!)話が出来るバンドが私のメインバンドとなった。

さてハンダゴテとは二十年間全く無縁の生活をしていたから、同軸ケ−ブルの加工でコテを握った時は緊張した。案の定、付けたはずのMコネがケーブルからすっぽり抜けてしまった。近所のハムショップで半田づけのコツを教えてもらう。

無線も開局するとじきにローカル局が出来る。自作の好きなローカルがいて、その人のシャックを見せてもらうと定電圧電源から各種アダプタなど自作品で囲まれていた。これはすごい、自分にも何か出来ないか、二十年ぶりの興味が沸き上がってくる。開局リグのピコ6の取説には12vから9vへのDCアダプタの自作の方法が記してあったのでおそるおそるチャレンジ。果たして9vの出力が無事現れた。成功だ。では、とばかり電子工作入門書の類をいくつか購入する。以下手の届きそうな物の作成に立て続けにのぞんだ。

−CWトーン発生器(出典:JARLニュース)−ピコ6用外部CWセミブレイクインユニット
−2石マイクアンプ内蔵スタンドマイク(出典、ともに つくるハム実用アクセサリー、高山繁一著、CQ出版社)
−ビデオダビング用コピ−ガ−ドキャンセラ−(秋月電商のキット)−50Wダミーロード(出典 エレクトロニクス制作アイデア集ハムアクセサリー編、中山 昇著、CQ出版社)
−ピコ6内蔵用乾電池電圧降下監視ユニット、およびピコ6内蔵用の12vDC−9vDCコンバータ(出典 CQ誌95年1月号、吉田清和氏寄稿記事)
−外部スピ−カ用ト−ンプロセッサ(出典 AYO’Sハム機器の作成 丹羽一夫著 CQ出版社)

いづれも一発で動作することは少なかったが最終的には上手く動いた。部品の付け間違え、ハンダミスに注意することが肝要のようだった。抵抗のカラ−コ−ドの見方もなんとなく分かり、気づくと各種工具から基盤エッチング用の塩化第二鉄溶液まで買い込んでいた。

2・衝撃の川田さんの軽量リニア:

山岳移動でにぎわうバンドを最大限に楽しむ方法は自分も山岳移動局になることだった。単なる連絡手段だったはずの無線が山歩きの重要な目的にの一つになるのには時間がかからなかった。必然的に軽くて効率の良いアンテナが必要となる。これには自作しかない。と、同時に、もう少しパワ−が出れば、と考える。しかしリニアアンプは重そうで持ち歩きに不向きな印象をもっていた。そのころ自作の一環で通信販売の6m10wリニアアンプキットにチャレンジした。高周波関連の工作は初めてで、キットとはいえ完成に至るまで大変だった。ハンダ付け不良、それに伴う部品の損傷などで、ようやく完成にこぎつけた時は嬉しいというよりもほっとした。ただこのリニアも結構重く、山に持って行くには不向きに思えた。(キットはスワンインターナショナル社から購入。50メガ用ブースターアンプ)

96年のハムフェア、「山と無線」ブ−スの出典品はどれも素晴らしかった。とりわけ川田さんが作られた6m用超軽量10wリニアはそのサイズ、重さともに衝撃的だった。SSB運用に特化した放熱板のないスマ−トなリニア。こんな事が出来るのか、とアイデアと技術に感嘆した。完成品が1万円で販売されていたのでよほど買おうかと迷ったが、なんとか類似品を作れないかと思い、購入は思いとどまった。あてはキットで作ったリニアを軽量化する、というアイデアだった。

3・M57735リニア:
改めて自分が作ったキットをみる。重さの大半の原因は立派な放熱板だ。私もSSB運用に特化、ということでここにメスを入れたい。使われているICは三菱のM57735,50メガ用パワ−モジュ−ルだ。「パワ−モジュ−ル活用のすべて」(CQ出版社)を入手。これはパワーモジュールを使う際の約束事、周辺回路の例、他のデバイスの使い方などが詳しく書かれておりビギナ−の自分には素晴らしい参考書となった。これを読む限り、キットで作ったリニアアンプからいくつかの回路が簡素化出来そうだった。パワーコントロール回路は不用。送・受切り替えはハンドマイクのPTTに2回路の押しボタンを使うことで強制スタンバイ方式が可能で、これによりトランジスタによる制御回路は不用になるだろう。又リレ−も2回路の物を使えば省スペースになりそうだ。こう考えると興奮してくる。

ケースや必要な部品をそろえる。基盤も起こし直す。ケースはタカチのYM100を使用、これは川田さんが軽量リニアで使われていた物だ。この小さな箱にリニアアンプの心臓が入るのだ。緊張する。小型軽量化が最重要だがパワーモジュールは結構発熱するので、結局小さな放熱板を付けることにした。気合いが入りあっと言う間に組み上げた。

HT750から2wを入力。アッテネータで0.4wに落とされたパワーは出力側T型フィルタのトリマを回すことによりスルスルと23wまで増幅された。嬉しくてすぐにケースの裏蓋に自分のコールサインと作成年月日を大きく書いた。実使用。逗子市の二子山(207m)移動の際宮城県石巻市の移動局を呼んでみる。ダイポールとの組み合わせ。ロケのいい山とは思えなかったがグランドウェーブで53のレポートを貰った。山で使う20wは強力だった。ICの発熱はやはり気になるが1、2時間の運用なら問題はなさそうだ。ザックに入れても全くストレスのない大きさ、重さで早速移動山行の伴侶となった。

(自作リニア:サイズ、100x70x30mm放熱板除く、重量200g強、出力23w、M57735使用、参考資料 パワーモジュール活用のすべて CQ出版社)

4.トロイダルコア活用百科:

M57735リニアは簡単に出来てかつ高出力だがいかんせん効率が悪く大食いだった。ピコ6での実験例はまだないが12v、2.3Ahのシール電池でHT750と併用した場合1時間半でHT750が息切れを起こした(ただ後日自宅でローカルにモニタして貰いながら可変電圧電源を用いて実験した時点では10v近くまで駆動電圧を下げても変調は悪くならなかったので、M57735はある程度電圧許容範囲の広いICなのかもしれない。)もう少し省エネルギーなリニアはないか。やはりRFトランジスタを使わなければ。川田さんの軽量リニアも,ピコ6純正リニアも、FL6010も、すべてRFトランジスタを使っている。配達されたばかりの「山と無線27号」では7L1UGC鈴木さんが川田さんのリニア製作記を書かれている。何か作らなくては・・。

ここでローカルから新たに本が一冊紹介された。「トロイダルコア活用百科」(山村英穂著、CQ出版社)だ。図表と数式で埋まったこの本は自分にはかなり難解であったが、アンプ、フィルタ−測定器など、広範囲でかつ深い内容は自分の分かる範囲内でも、かなり密度の濃い本に思えた。

さて読むだけでなく実際に作らなければ。RFトランジスタ2SC1306を使った50メガでも使える出力5wの広帯域リニアアンプの回路図が載っているのだ。

部品集め、組み上げ、そして試運転。電源を入れただけで出力パワー計が触れてしまった。自己発振だ。電源回路に適当にコンデンサを追加しこれを解消。今度は1w入力しても1w出力しかない。更に調べるとリグとリニアの間のSWRが無限大。コイルを巻き間違えたか、色々やっているうちにトランジスタからこげ臭い臭いが立ち上ってきてパワーがおちてしまった。トランジスタが飛んだのだ。気を取り直して又やってみる。気分一新、板から起こし直す。結果はどうやっても変わらなかった。どこかが悪いのだが・・。そのうち解明しようと放置したままいつか時間が経ってしまった。

5・RFトランジスタリニア:

その頃私はパソコンを新調しインターネットにアクセス出来るようになった。早速行ったのがJR1NNL,後藤さんのホームページだった。川田さんのリニアの記事が目当てだった。又手持ちの「AYO’Sハム機器の製作」にも50メガ用のトランジスタによるリニアの記事を発見した。両記事を通勤時間を利用して熟読する。これだけ詳しければ上手くいきそうだ。トロイダルコアの広帯域アンプは後回しにして、こちらから作るとしよう。どちらも詳しく書かれていたが、結局基盤のパターン図まで載っている「ハム機器の製作」の記事の方をまずは作ることにした。折角作るのなら前回の自作リニアよりも小さなサイズのケースに組み上げたい、そう目標を掲げた。

部品は入手困難に思えた東光のモノコイルM25Tも秋葉原のT−ZONEパーツショップで入手出来た。問題はRFトランジスタ。両例とも2SC2098を使っていたが生産中止でこの石は入手出来ず、結局川田さんの記事の薦めもあり2SC1945を使う事にした。

さてこれらを4x6cm程度の基盤に組もうというのだからかなり無理がある。パターンは自分で書き直す。コンデンサやトリマなども耐圧の大きなものを使うよう記事には書かれていたが小型化の為小さな物にする。定格値さえ同じならいいだろう。送受切り替えはここでも強制スタンバイだ。ピンセットで部品をはさみランドにハンダづけしていく。

基盤完成後の調整は川田さんの記事、それに「レッツハミング97年1月号」が詳しい。入力SWRも上手く落ち成功の予感。FT690mk2から2.5wを入力。出力系トリマをまわすと5wまでパワーが出た。自己発振もなくうまく行ったようだ。でももっとパワーは出るはず。15w近くまで出るはずだ。が、トリマを回してもこれ以上の変化はない。インピーダンス変換が上手くいっていないだけなのだ。そう思い出力系のトリマの値を変えてみる。出力系のコイルの巻き数を変えてみる。しかし5w以上は出ない。トランジスタが指定と違うせいだろうか、又もや壁にぶちあたった。

6・本命、ついに完成:

困った時はローカル頼み。相談をする。コンデンサやトリマはきちんと指定通り耐圧の大きなものを使っているか、と聞かれる。私は小型化の為50v耐圧のコンデンサ又トリマも小さなものを使っていたが、どうもそこが問題では、との事。高周波電力が通過する部分は耐圧が重要とのことなのだ。今の基盤では大型の部品はのりそうもない。コネクタも含めた部品配置の練り直しだ。終段部のローパスフィルタは今までのT型ではなくπ型にしなくては基盤に収まらないだろう。

早速500v耐圧のマイカコンデンサと奮発して大型のエアトリマを購入。又ケースは千石電商で組み立て式のものを発見、これなら工作が楽そうだ。箱サイズも80x50x35mmと狙い通りの大きさだ。

一度組んだ基盤から部品を外していくのは情けないが仕方が無い。上手くいきますように! 2.5wを入力、トリマを回す。パワーは出ない。更に回す。コイルもまわす。14w! 出た! やった−っ、ついに完成! 思わず両手を突き上げた。自作の12wダミーロードが熱くなっている。本当にパワーが出ているのだ。ついに本命完成!

(左上から時計周りに、PICO6, FT690mkII,
M57735アンプ, 2SC1945アンプ)

バイアス回路をつなぎアイドリング電流を150mA程度に調整。これでAB級。ケースに収めて完成だ。ローカルにモニタしてもらうと変調も問題ないようでほっとする。上出来だ。何よりも小さい。我ながら惚れ惚れする。重さの方は・・200グラム弱だろうか、これはエアトリマの重量が結構きいているように思う。

出力は12v電圧でFT690mk2の2.5w入力で14w、HT750の2w入力で10w、ピコ6の1wでは8w。肝心の消費電流はピークで約2A、これはM57735リニアの約半分だ。省エネルギーも実現化出来たのだ ただし欲張って箱を小さくしすぎたせいかローカルラグチュ−に使ってみると結構発熱が気になる。トランジスタの熱だれが不安ではある。まぁフィールドで使う分では条件も違うだろう。又ローパスフィルタもスペースの制約上1段挿入となってしまったので高調波の不安もある。後はこれからフィールドテストでモニタしてやろう。

高周波系の自作では部品の耐圧に注意し、又何よりも調整を気長にやる事、調整の段階で決してサジを投げてはいけない(製作4割調整6割?)、そんな事が重要なようだった。

(自作リニア、サイズ80x50x35mm、重量200グラム以下、2SC1945使用、参考資料:「AYO’Sハム機器の製作」、JS1MLQ川田氏によるマニュアル、「レッツハミング97年1月号」)

さて、ここまで作った時点での感想。50メガ山岳移動用のリニアとして二題製作してみたが、大食いという欠点はあるが、初心者として最初に作るのであればやはりパワーモジュールを使ったものがより入門向きだと感じた。何よりも回路が簡単で部品点数が少なく、従って再現性が高い。それでいて20wの出力はかたい。一方RFトランジスタのディスクリートアンプは回路も複雑になり調整にもコツが必要そうだ。又コイルやRFチョーク等は自分で巻かなくてはならず自作としての困難度はより高いのでは、と思った。

山岳移動の伴侶という意味では、大食いだがパワーの出せるパワーモジュールリニアはロケの良くない低山移動時に、より軽く省エネなRFトランジスタリニアは泊りの縦走など荷物を軽くしたい時に、と使い分けようかと考えている。

7・さて次ぎは・・ :

会社での仕事中ですら色々頭を悩ませたリニアがようやく完成してしまうとなにやら手持ち無沙汰になってしまった。ぽっかりと穴が開いてしまった気分。

全くの自作初心者ではあるが自作の楽しさは何となく分かってきたように思う。リニアアンプとはいえ自作の機器で波を出せるとは! この気分は自作をしたもののみが味わえるのだろう。二十年前「モラ」と「初ラ」を見て少しだけ足を踏み入れた世界。そして今こうして自分が味わっっているものを作る喜び、完成した時の嬉しさが、二十年前に感じたそれと全く同じであった事は自分にとって新鮮な喜びであった。

さて次ぎは何を作ろうか・・、QRPのトランシーバが作れれば最高なのだがまだまだ知識も技術も足りない。トランジスタのアンプの作り方については何となくコツが少しだけ分かったように思うのでもう少しチャレンジしてみよう、と思う。つぎなる目標は・・実はもう白羽の矢は立っているのだ。軽量50wリニアの製作。インターネットで川田さんのもうひとつの記事、50wリニアのマニュアルをダウンロードしているのだ。しばらくは記事を熟読しそして部品集めに着手しよう。あれやこれやと考える、この時期は胸がわくわくする。そう、それは丁度山行計画を立てるために地図を眺めて色々想像する気分と全く同じなのだ。この気分の高揚を「少年の気持ち」と言うのであれば全くいつまでも少年でいたい。ハンダゴテを握れば、地図を眺めれば気分はいつでも二十年前の少年時代なのだ。

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自分自身、ここ数ヶ月はこんなことばかりやっていたので肝心の山にいく時間がとれなくなってきて反省することしきり。「山岳移動局」でありたいのだが最近はもっぱら「山岳移動を追っかける局」に定着した感がある。又週末は決して自分の為だけにあるのではないので、家族を顧みず好きな事ばかりやれる訳もない。少年でいる、というのは実はとても大変な事なのだった・・。 

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追記: 山のみならず無線に於いても経験豊富な皆様がつどう本誌でこのような自作顛末記を記すのは気がひけましたが、全く不器用で工学知識のない私でもいくつかこんなもの(そんな大それたものでもないですが・・)が作れたというのは全く驚きで、文章に記録しておこうと思いました。最後に私に自作のきっかけを与えてくれた7M1XPR 又リニア完成に向け色々助言を頂いたJR1APP、いつも自作品のモニタや自作談義に花を咲かせて頂くJK1NLO,JK1RGA,7K3EUTといったローカル各局、そして10wリニアの素晴らしい記事を書いて頂いたJS1MLQ川田さん、各参考書の著者の方へ感謝したいと思います。

(終り)


(本記事は同人誌”山岳移動通信 山と無線” 28 号 - 1997/5/10 への投稿記事です。)

Copyright : 7M3LKF,1997/10/15


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