山岳移動用20W小型軽量50MHzリニアアンプ、パワ−モジュ−ル編

初心者でも出来た簡単自作


50メガで使える出力20W程度のリニアアンプを作ってみました。山岳移動に使えるように小型・軽量化を心がけたのですがサイズ100mm x 70mm x 30mm(放熱板・突起物除く)、重量220gと一応目標は達成できたと思いますので紹介したいと思います。電子回路・高周波回路の理解・知識が一切ない私が参考書や文献を見ながら見よう見まねで作ったものです。

1・きっかけ:

ピコ6と山岳移動用50メガ軽量リニアアンプ
奥左:20Wリニア(220g, 7x10x3cm, max4A消費)
奥右:10Wリニア(150g, 5x8x3cm, max1.9A消費)
手前:5Wリニア(99g, 5x6.5x2cm, max1.3A消費)

今回製作のリニアアンプは写真奥左の20W機

このアンプを作るきっかけになったのは山岳移動時にメインに使用している無線機をハイパワーで運用出来たら、と思った事です。ミズホのMX6S(PICO6)や東京ハイパワーのHT750、あるいはヤエスの FT690mkIIやFT690、などで山頂から多少ハイパワーな運用がしたい、重いのは嫌だ、そんな望みをかなえてくれるものはないか、というものでした。更に直接的なきっかけは1996年のハムフェア「山と無線」コーナーでJS1MLQ・川田さんが作られた小型・軽量50MHz用リニアアンプを目にした事です。あんな風に作れたらいいなぁ、そう思ったのです。

少し参考図書などを読んでみるとリニアアンプには真空管方式を別とすれば通常のトランジスタを用いた方式(ディスクリートアンプ)とパワーモジュールと呼ばれるハイブリッド高周波増幅モジュールを用いたものの2種類がある事が分りました。ディスクリート方式は難しそうですがパワーモジュール方式なら簡単そうで私でもなんとかいけそうです。それにパワーモジュール方式は実は一度キットで製作にトライしたことがあるので(スワンテック社のキット)やり方が多少分ります。まずはこれでやってみよう、と考えました。

ちなみに川田さんのリニアアンプで小型・軽量化に大きく貢献しているのはSSB運用に特化する事でアンプの発熱を抑え放熱板を小型化又は省略する、ということでした。このアイデアを拝借すれば小型・軽量化が実現できそうです。ただしディスクリート方式の川田さんのリニアアンプと違ってパワーモジュールは発熱が大きいので放熱板をまるごと無くすのは難しそうで、小さな放熱板でもつけることは必至でしょう。

尚本リニアアンプ製作にあたってはCQ出版社刊の「パワーモジュール活用のすべて」を参考にしました。

2・素子の選定:

パワーモジュールは各周波数に応じたものがあります。144MHzや430MHzでは出力や増幅方式の違い(AB級、C級)等によって何種類もメーカーから出ていますが、 50MHz用パワーモジュールは1種類しかありません。三菱のM57735です。AB級増幅用ですのでSSBで使用できます。これを使います。

パワ−モジュ−ルは簡単に言うと魔法の箱で4、5本ある端子に指定された信号・電圧を加えてやると自動的に増幅された信号が出るというものです。ディスクリート方式ではいくつかのステップに分れているステージをパワ−モジュールでは一つにまとめパッケージ化したものといえるようです。各端子に入れてやる信号をパワーモジュールの定格値内で入力すればまず動作するようで、製作の簡便さ、再現性の高さにつながります。

M57735は秋葉原で1個5000円程度します。高価なICなので製作は緊張します・・。ちなみにM57735はヤエスのFT690mkII用10W純正リニアアンプ(FL6020)にも用いられています。M57735の定格では出力最大値は約22W程度とのことです。 FL6020はそれを余裕の範囲内で10W出力に抑えて使っているようです。

3・構成:

構成は以下の通りとなっています。全体に大きく4個のブロックから成立っています。

1)アッテネータ部:
アンプをオーバードライブさせぬように親機からの入力信号を適切な値に減衰させてM57735の1番ピンに入力します。又これは親機とアンプ素子間のSWR改善にも役立ちます。π型に抵抗を組み、その値の組み合せによって減衰値が決ります。 M57735の最大入力許容値は約400mWですので親機の出力に応じてアッテネータの定数を決めます。ここは400mW入力させて最大出力をもくろみたいところですが、オーバードライブは素子の破損を招くほか変調音の劣化にもつながるので 200から300mWあたりになるようにするほうが良いようとのことです。

2)電源供給部、増幅部:
M57735の2、3、4番ピンに指定された電圧を供給します。3番ピンに8V,2番、4番ピンに12から13.8Vです。3番ピンの8Vは三端子レギュレータ 7808で安定化させます。沢山着いているコンデンサ、それに2、3、4番の各ピンに通しているフェライトビーズ(FB101)はM57735の発振防止用です。DC成分から高周波成分の除去をします。又電源を万一逆接してしまった時の防止用にグランドとの間にダイオードを付けています。もちろん電源線(+)にヒューズが必要です。これら指定された電圧を各ピンに供給する事でM57735は1番ピンに入力された信号を増幅してくれます。

3)ローパスフィルタ部:
パワーモジュールで増幅された信号は高調波を含んでいるのでこれをコイルとコンデンサから成るローパスフィルタで除去します。フィルタにはT型とπ型がありますが文献によるとπ型の方が前段に与える影響が少なくFBなようですが、私はT型フィルタを使ってみました。とりあえず参考書にのっている回路をそのまま作ろう、と考えたからです。フィルタのコイルとコンデンサの値は周波数やT型かπ型かによって、又使うコイルによっていくつかの決った値があります。50MHz用の定数を用います。T形フィルタでは可変コンデンサ(トリマ)を用いますが20Wクラスの出力ですと耐電力の大きなトリマが必要です。直径 4、5mm程度の小型トリマでは不充分でパワーが出せない、とのことです。コイルはトロイダルコアT50-10に直径0.8mmのエナメル線を15回巻きます。

4)アンプON/OFF切替え部:
リレーによりアンプのON/OFF(アンプONかスルー)を切替えます。12V用2回路のリレーを用います。気になる損失についてですが50MHzあたりですと高価な高周波リレーを用いなくとも通常のリレーで大丈夫なようです。(私は手持ちがあったのでオムロンのG5Y2という高周波リレーを使いました。)リレーの電源部にグランドとの間に入れてあるダイオードはリレー動作時の逆起電力を防止する目的、とのことで、リレーを用いる時は定番的に使うようです。リレーのON/OFF方法はFMだとキャリアを取出してつかえるのですがSSBだと難しいです。

最も回路が簡単で済むように私は無線機のハンドマイクを自作してみました。2回路の押しボタンとコンデンサマイクですぐに出来ます。2回路の一方のスイッチはPTTに、もう一方のスイッチはリレーと12V電源部に結線されているのでPTTを押すと自動的にリレーに12Vが供給されてリレーONとなります。又既存のマイクの中にマイクロスイッチを仕込みPTTと連動でONに出来るような配線をすることも可能だと思います。

又、送信時に同軸ケーブルにDCが乗るような無線機ではそれを取出してリレーの ON/OFFに使えそうです。

4・製作:

始めに箱ありき。ケースを決めてから基盤のサイズを決定します。タカチのYM100(100mm x 70mm x 30mm)になら何とか収まりそうです。横幅の70mmがM57735の横幅に丁度良くフィットするのです。

基板は比較的シンプルな回路なのでエッチングをしてみました。ただしパターンは感光基板にきちんとデザインするのではなく安いベーク基板に油性ペンで書きました。エッチングは廃液の処理、プロセスに時間がかかる等いろいろ面倒なのですが練習の意味もありあえてこの方法としてみました。勿論生基板に必要なランドをエポキシで貼っていく、という方式でも可能で、むしろグランドが広く取れ動作が安定する、ということからはこちらのほうが良いのではないかと思います。

パワーモジュールは放熱板に直接とりつけます。2.6mmドリルで穴を開け3mmでタップを切り、モジュールの裏面にシリコングリスを塗って取付けます。又モジュールの背面板はグランドを兼ねているので基板のグランドに玉子ラグなどでしっかりアースします。さして複雑な回路ではないので余り時間がかからずに組みあがると思います。

5・調整:

調整はリレーを組込む前に行います。接続は親機+モジュール・基板+終端型パワー計、となります。はんだ不良や配線ミスがないことを確認し12V電源につなげます。三端子の二次側はきちんと8Vになっているはずです。確認したら親機から信号を入れます。CWが出せれば調節がしやすいです。パワー計の針が振れているはずです。あとはT型トリマを出力最大になるようにゆっくり回します。金属ドライバではなくセラミックの高周波ドライバ等を使います。(FCZから出ているアクリル棒を使ったものが安くてFB)

私の作ったアンプでは入力400mW、電源電圧13.8Vで出力23Wまで出ました。一応今までの使用では変調音が悪い旨のレポートはありませんでしたが、これではややオーバードライブの感があるので入力値を気持ち少なめにするべきと思います。

出力が出ればあとはリレーを配線しケースに収めます。パワーON、送信ONを示すLEDもつけてみました。

6・上手く動かない時:

1)パワーが出ない: 各端子の電圧は所定通りきちんときているかテスターで調べます。又入力ピン(1番ピン)にきちんと親機からの出力がはいっているか、RFプローブがあれば一発でわかります。すべてOKであればローパスフィルタはどうでしょう。定数はあっているか、トリマは大型のものを使っているか。又リレーの配線は正しいか。

2)変調音が悪い: オーバードライブになっていないか、必要あればアッテネータの定数変更をします。又親機からの入力を入れないうちからパワー計が振れてしまうのはモジュールの発振です。コンデンサはきちんとついているか、フェライトビーズはどうか。必要なら追加していきます。


7・実使用:

パワーモジュールのアンプの良さの一つは回路が簡単ということであり、これは私のような自作初心者にはとてもありがたいことだと思います。その割に20Wという高出力が得られるのも魅力です。が反面パワーモジュールの特性上、発熱が多く大食いで効率の悪いアンプでもあります。私の場合13.8V、4A(=56W)をかけて出力23Wですから効率は約40%となります。

この約4Aという電流値、山岳移動に限って言えば運用時間にもよりますがそこそこ楽しもうと思うと2.3Ah程度の鉛電池では余りにもきつそうで、一ランク上の電池が必要になります。電池重量の増加が心配です。

又私は重量増加を最小にしたく放熱板はケースの半分くらいのサイズの小さなものとしましたが、実際の使用時にはかなり発熱が気になります。もう1ランク上の放熱板にすべきだったか、と思います。

変調音はさすがにパッケージ化されているICですので直線性は良いようです。親機の音質をうまく増幅してくれるようです。

8・定格:

このアンプの定格値は以下の通りとなりました。(実機測定)
サイズ、100mm x 70mm x 30mm(放熱板・突起物除く)
重量、220g
アイドリング時消費電流、280mA
最大出力時消費電流、4A
最大出力、23W(入力400mW、電圧13.8V時)


9・部品リスト、回路図:

IC、トランジスタ、ダイオード 抵抗 コンデンサ その他
M57735、1個
三端子レギュレータ7808、1個
10E1(10D1)、2個
R1、R2、R3
定数は下表を参照のこと。
0.01μF(103)、5個
0.001μF(102)、3個
10μF電解、3個
50pFトリマ(大型)、1個
リレー12V、2回路用、1個
トロイダルコアT50-10、2個
フェライトビーズFB101、3個
0.8mm径エナメル線、線材、
ヒューズ、ケース、BNCコネクタ
減衰量 R1,R2 R3
1/2 300Ω 18Ω
1/3 180Ω 30Ω
1/4 150Ω 36Ω
1/10 100Ω 68Ω

最後に当リニアアンプの回路図を記します。又入力系のπ型アッテネータの定数は親機の出力とパワーモジュール1番ピンに入れる信号の出力により決定します。左に定数表を記します。

私は欲をだし最大出力を狙うべく400mW入力としましたがこれはややオーバ−ドライブ気味のようです。200から300mA程度の入力にすべくアッテネータを組むのが良さそうです。

パワーモジュールの2,3,4番ピンはフェライトビーズFB101の中に通します。又コイル(L1とL2)の定数はトロイダルコアT50-10に直径0.8mmのエナメル線を15ターン巻きます。
コネクタは小さくて軽いのですべてBNCに統一しています。

Copyright:7M3LKF,Y.Zushi,1998/11/5