700C サイクリング車 - Rhein号


先のデュッセルドルフ-ケルンのMTBによるツーリングが自分になかなか良い達成感を与えてくれた事に加え、週末毎に運動を兼ねて近場を15-20km程度走行する、といったことを続けているうちに、もう少し快適に走れそして近場のショートツーリングにも対応できる自転車が欲しくなってきました。そもそも欧州への転勤が決まったときから今迄で楽しんでいたお手軽なハイキングが期待できそうにないかの地では、代わりにサイクリングをやろうかと漠然と決めていたこともあります。そんなサイクリングの参考にと離日に際して買った本、「素晴らしきサイクルツーリングの世界」(白鳥和也著、平凡社新書)はまだ殆ど知らぬサイクリング・自転車への夢を自分の中で膨らませてくれました。今の自転車は1993年に買ったGIANTのクロモリ鋼フレームのMTB入門車種ともいうべきもので、さすがに塗装も褪せ、そもそも一時期ベランダで放置していたこともありかなり外見は錆びも出てくたびれています。オーバーホールに出したので、街乗りと山歩きの際のアプローチ用といったような用途には全く問題は無いものの、もう一台、新しいものが欲しくなってきたのです。

(愛車・Rhein号 デュッセルドルフ・ライン川にて)

サイクリング(ツーリング)に使う車種として、いったいどんな自転車がいいのでしょう。当初は如何にも軽快そうなクロスバイクに惹かれど車種まで決定しかけていましたが、旅の自転車としてWEBサイトにてランドナーやスポルティフといった車種を知ります。何のことはない自分が小中学生の頃ごく当たり前に街で見かけた”サイクリング車”というべきものです。「素晴らしきサイクルツーリングの世界」にて著者が薦めるのはランドナー。また、自転車を趣味とする友人M氏からも「長時間乗るツーリングに使うのであればドロップハンドルを備えた車種にすべき。また素材は振動吸収性と耐久性からクロモリ鋼以外は考えられない」との事、具体的に彼が挙げてきたのはやはりランドナー。ツーリングするのであればクロスバイクは考え直したほうが良いと強くアドバイスをくれました。

もともとMTBブームに乗るかのようにスポーツサイクルにエントリーした自分にとってはランドナーやスポルティフの持つそのクラシックで余りに当たり前の姿、また泥除けが正直実用車のように思え興味を引きませんでした。そもそもドロップハンドルも余りに本格的で気後れしてしまいます。が、改めてサイクリングを視野に入れサイクルツーリングを扱った数多のWEBサイトを見るにつけ、いつしかその姿が実に普遍的で無駄がなく、旅心を誘うかのように思えてたのは不思議です。ランドナーやスポルティフは戦後のフランスで発祥しそれをルーツに1970年代以降の日本で独自の発展を遂げ日本のメーカーのスポーツサイクルの主力車種になっていたものの、1990年代のMTBブームを境にその爆発的な人気に席巻されほぼ市場から消滅した車種との由。まさにその頃ブームに乗るかのようにMTBを買った自分はこれらの消滅に一役買ったのかもしれません。そんな自分がサイクリングとともに昔ながらのクラシックなサイクリング車へ興味を持ったのもおかしな話です。

ところでこれらはフランスのサイクリング車が原型とはいえもっぱら日本国内での独自発展車種でもあり、今自分の住むドイツでは入手困難であろうと考えられました。ドイツの自転車屋の店頭で見るスポーツサイクルの主流はやはりMTB、それにロードバイク。更に多いのはトレッキングバイクと称するジャンルで、これはクロスバイクをベースにタイヤを太目のものにして前後キャリアと泥除けをつけハンドルもややアップライト気味のフラットバーをつけたものといえます。実際のこの車種に乗るドイツ人は多いですが、一方、たまに街で古いものを見かける以外はやはりクラシカルなシェイプの自転車が新車として売られている事はやはりありませんでした。

そこでフレームを求め、パーツを選んで組んで貰おうと決定します。セミ・オーダーです。キーワードは、クロモリ鋼フレーム・ドロップハンドル・古きサイクリング車のイメージ。現代のパーツを使い、あくまでもサイクリング車の風味があれば満足です。早速自分の住む町デュッセルドルフの自転車屋を何軒か回り、ドイツで入手できるクロモリフレームについてあたり始めます。ところがアルミやカーボンのフレームが主流の今、なかなかクロモリ鋼が見つからず、とある店でようやく見つけたのがアメリカのSurlyのフレーム。これであれば発注・取り寄せが可能との由。調べてみるとSurlyは日本でも知名度の高いブランドのようです。全体には細身とはいえ日本の工房が作るランドナーとは比べようもなくやや重そうで大雑把なフレームです。が他に選択肢もなさそうですし、やや重そう=頑丈=無骨で好ましい、と解釈して発注。短足・胴長の自分の体に合いそうなサイズではトップチューブが僅かに数センチ傾いたセミ・ホリゾンタルフレームになりそうです。クラシックなサイクリング車のフレームはもっぱらトップチューブが地面と平行なホリゾンタルフレームですが、新たに作る今となってはあまりそこまでその文法にこだわっても意味がないように感じました。タイヤサイズはMTBの26インチではなく一回り大きな700Cを考えていました。大径タイヤであればライン川に沿ってまっすぐ続くドイツのサイクリング道をそこそこの速度で巡航できるだろう、と考えたのです。選んだフレームは700C用の物でした。

フレーム発注・組み立てを請け負ってくれたショップは市の中心部やや南側のJahnstrasseにある Jung&Volke という店です。後日たまたま会社の同僚のドイツ人に自転車好きがいて彼と話していたらこの店はなかなか親身でデュッセルドル一の店だ、との事でした。自分の担当をしてくれたマイスターは ワグナー氏といい、英語が非常に堪能なのでドイツ語の出来ない自分には大助かりでした。(余談ですが何軒も廻ったデュッセルドルフの自転車店ですがどの店のマイスターも英語が堪能でコミュニケーションには不自由がありませんでした。ドイツでは主に中高年を相手にすると英語での意思疎通に問題を感じることが度々ありますが自転車店に関して言えばその限りはないようです。)

こうして出来上がった自分にとっては初のセミ・オーダーのサイクリング車です。この自転車の故郷ともなるデュッセルドルを流れる、大好きなライン川にちなみ「Rhein」(ライン)号と名づけています。


仕様
フレーム Surly : Cross Check (クロスチェック) 500mm クロモリ鋼。好きな濃緑色のフレーム。シリアル番号M6040653
サドル Brooks : B-17 Special ハニーブラウン サドルはやはり皮のブルックス。
ハンドル 日東 : ランドナーハンドルB136、サイズ400mm ツーリング車にはランドナーバー。さすがにドイツでは手に入らず日本への出張一時帰国を利用して購入。
ブレーキ Shimano : BR550カンチブレーキ 将来の日本での輪行を考慮してタイヤ取り外しの容易なカンチ。
ブレーキレバー ダイヤコンペ: 204QC ブレーキワイヤー後ろ出し・クイックリリースつき。これも日本で購入。
ペダル 三ヶ島 : シルバンツーリング 同様に日本で購入
ステム OXYGEN : Vorbau (アヘッド) ステム長 8cm 本当はクラシックなクイルステムが希望なるもこのフレームはアヘッド専用。短めのものでショップお任せ。
シフター Shimano : SL-R400  クラシカルなイメージのサイクリング車にはWレバー。シマノの8速用のレバーが手に入りました。
クランク Shimano : DEORE 44-32-22、クランク170mm 広いギアレンジ、何よりもローのギア比は1以下を実現すべくワグナー氏と相談。MTBのコンポに。
カセット Shimano DEORE 11-28 8速 これでローのギア比は22:28と1以下の0.78を実現、ハイは44:11となりギア比4。
ディレイラー Shimano : フロントXT、リアDEORE フロントは当初DEOREで組みましたがフレームと干渉しグレードの高いXTへ。リアはDEORE
リム Rigida : Zac2000 コストパフォーマンス重視でショップに一任
ハブ Shimano : DEORE ハブもDEORE
タイヤ Schwarbe : マラソン (700x28C) ツーリング主体という用途から耐久性に定評のあるシュワルベ・マラソン。サイド面リフレクター塗装。
泥除け SKS : プラスチック製42mm幅 ドイツでは流石に本所のアルミ亀甲泥除けというわけにはいかず。
上記の状態で納車。重量12.1Kg (発注 2006年11月、納車 2007年1月)
追加アイテム
バーテープ 白綿テープ、シュラックニス仕上げ Webサイトで見たシュラックニス仕上げによるバーテープの色合いに惹かれました。
リア反射板 小判型反射板(泥除け装着用) 日本への出張時に港区・芝の自転車屋にて購入。重量22g。
ヘッドライト 砲弾ライト ドイツのホームセンターでごく当たり前に売られているもの
ダイナモ Busch & Miller : DYMOTEC6 効率のよさで定評のB&M社のダイナモ。日本と違いさすがに地元ドイツで買うと安いです。
ブラケット Busch & Miller : Zinkens-Bracket 同じくB&M社のブラケット。Fフォークのカンチ台座を利用して装着するもの。
他に・・・ サイクルメーター、フロントバックアタッチメント(リクセンカウル・クリックフィクス)、スタンド、ボトルケージ

(フレーム入手に1ヶ月以上) (Rhein号生みの親。Jung&Volke
は信頼できるショップ。)
(仮組み段階。ステムなどの
サイズを調整するため)
(砲弾ライトは
お気に入り)
(小判形の
リフレクタ)

乗車感

疲れない自転車という実感です。従来持っていたMTBは乗車姿勢を色々調整してみたもののこれでのサイクリング・ポタリングは30分が限度。それ以上乗っているともともと持っている腰痛とだましだましの乗車になります。ところがRhein号だと何時間乗っていても腰痛が出ません。やはり乗車姿勢を色々変えることの出来るドロップハンドルのおかげでしょう。ドロップバーのフラット部を握るとママチャリに近いアップライト姿勢、ブレーキ台座を握るとやや腰のかがんだ姿勢、更にバーの先端や下部を握るとより深い姿勢。また同じフラット部を握るにせよ順手・逆手によっても腰の角度が変わり、無意識に握り方を変えながら乗るせいか、上体に負担がかからないようです。フラットバーのクロスバイクを選んでいたらきっとこうはならなかったでしょう。自分にドロップバーを強く勧めてくれた友人・M氏に感謝です。

フレームはクロモリということでその衝撃吸収性に期待していましたが、同じくクロモリのフレームの1993年製のGIANTのMTBよりは全体に乗り心地が硬いように感じます。特に石畳の多いヨーロッパの市街地では顕著に感じます。ただこれがフレームからなのか、タイヤから来るのかは自分にはわかりません。MTBのタイヤは26HE1.95の街乗り用スリックタイヤでタイヤ幅も5cm程度あり空気も沢山入るせいか衝撃吸収に優れ石畳の町並みでもそこそこ快適です。一方Rhein号は700x28C、その幅3cm。このあたりが影響しているのかも知れません。乗ってみてわかったことは自分が求める乗車感は巡航性や軽快さもそうですが、むしろやや走破性や悪路での快適性にウェイトを置いたものである、と言うことでした。これはMTB以外の自転車に乗って初めてわかった事です。これを視野に入れいずれRhein号にも32C、ないし35Cを履かせてみてもいいかもしれません。幸い?に今のタイヤは700x28Cとはいえ必ずしも軽くなく、これよりも太目のタイヤでも同等ないしより軽いものがあります。

駆動系パーツについてはロードバイクのような重いギアは自分には踏めないだろうと考え、とにかく広いギアレンジがあること、特に低速側のギア比が1:1を切る事を目指しました。クラシックなシルエットのサイクリング車という点以外に一番実現したかった点です。ハイのギア比4はこれで長く走っていると疲れてしまうほどで自分にはやはり充分すぎます。ローのギア比0.78は、こんなギア比は平野の続くドイツ北西部ではまず不要ですが、長い登りが仮にあったとしても大丈夫と思います。激坂の待つ地元・横浜に帰ったときには活躍してくれると思います。(念のため更なる脚力低下も懸念して11-32の8段カセット(SHIMANO,Alivioも入手。) ただしDEOREのクランクはやはりMTB向けと言うこともあり肉厚なデザインでまるでバッタの足のようです。ツーリング車にはあまりフィットしたデザインではないように感じています。いずれ細身のクランクに変えることが出来れば、と思っています。

サドルは皮製で、その前評判どおり?なかなか自分の尻には硬く、フィットしてきません。皮の登山靴同様、いずれ馴染めばもう手放せなくなると考え使っています。ニスで固めたバーテープはカチカチで耐久性・耐水性は高いものの、やはり硬い。ですがどっちにしろ素手では乗らないのでクッション性のあるグローブでしのげます。色合いの良さから他に変える予定はありません。ホームセンターで入手したシュラックニスを四回重ね塗りして今の色あいとなりました。

砲弾ライトとダイナモはドイツの自転車を見慣れているせいかとても装着したかったアイテムです。ドイツの自転車の夜間での前後のライトの点灯率はほぼ100%に近く、規則を大切にするドイツ人らしさを感じます。またこれは自動車からも視認性が高く双方にとって大切だと思います。無灯火自転車の横行する日本が信じられませんが、もっともドイツの夜は街灯も少なく暗く、また冬などは日照時間が短いせいもあるのかもしれません。砲弾ライトについているのは黄色いクリプトン球ですが、いずれより白く明るいハロゲンに変えようと思っています。砲弾ライトの取り付けには頭を悩ませましたが、結局ダイナモとは反対側のFフォークのカンチ台座にホームセンターで購入したL字型サポート金具を利用。非常に間単に装着しました。重量 - ダイナモ 180g、ダイナモ支柱80g、砲弾ライト75g、ライト支柱のL字金具35g。

泥除けはドロップハンドルと並び機能面・外観面からのともにサイクリング車をイメージづける重要なパーツに思えます。MTB・クロスバイクに興味のあった頃にはその外見がダサく思えたのですが、今ではこれがついていないとピンとこないくらいですから現金なものです。実際急な雨や水溜りなどで帰り水を苦にせずに乗れると言うのはツーリング車としては重要なことだと思います。いずれは「憧れの」亀甲模様に型取りされたアルミ製のガードを付けてみたいものです。

ステムは今の乗車姿勢がフィットしているのであまりいじりたくないですが、クラシックでスマートなクイルステムに比べやはりアヘッドのステムは大きくて好きになれません。日本にてクイルステムがつくように1-1/8インチコラムから1インチネジきりコラムに改造してくれるショップがあると知り、いつか帰国の際には改造しようと考えています。

フロントバックサポータ(リクセンカウル)は便利なのですが付け方が甘いのか段々と下方にずれてしまいます。いずれはフロントキャリアに変更しても良いかと思います。

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何よりも自分にフィットして遠乗りしても疲れない、と言うことが一番です。それが何よりもこの自転車に求めていたことです。ギアのセッティングなどにも自分の望んでいた事が反映されました。自転車の外見も基本的にはイメージ通りに「ごく当たり前の昔ながらのサイクリング車」となったように思えます。大満足です。

自分の乗り方の変化や求めるものの変化に伴い今後も色々手が加わっていくかもしれませんが、「次は何処に行こうか」とその気にさせてくれるRhein号である事がとても嬉しいことです。最後にツーリング車の何たるものかを教えてくれた友人・M氏と、素人注文に根気よく付き合っていただいたショップのワグナー氏にこの場を借りてお礼を言いたいと思います。


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