念願の大西洋へのサイクルツーリング − ルーアンからディエップへ 

 (2009年9月19日、フランス、オート・ノルマンディ地域圏)


自宅のあるパリから走りつないでいるサイクリングの軌跡を大西洋までつないでみたい、そんな思いはフランスでサイクリングを始めたときから持っていた。パリからルアン(Rouen)まではほぼもう少しでつながることが見えてきたので、一足先にフライングではあるがルアンと大西洋をつないでしまおうと考える。大西洋のどこにつなぐかはいくつか選択肢があるが、鉄道が通り交通の便が良いと言うことでディエップ(Dieppe)を目指すことにした。

先月のオルレアンへのサイクリングでご一緒させていただいた同じくパリ在住のIさんと待ち合わせて車でルアンへ向かう。ノルマンディ高速と名づけられたA13号線でルアンまでは1時間強。ルアンを観光できたことがあると言うIさんは街の中も詳しい。駅前にラッキーなことに駐車スペースの空きがあった。2台の自転車を下ろして走り出す。

ここからディエップまでは地図では約70km程度だろうか。このあたり、ノルマンディは基本的には海抜100m程度の台地が広がる地形なのだが川が入ってくると100mを一気に下らなくてはいけない。そして再び登る。そんなことで川を横断するコースを選ぶと何度もアップダウンをこなさなくてはならない。うまい具合にディエップまでは、何箇所か小さな谷を横断するだけであとは最後に谷に下りるとディップまではそれに沿って北上すれば良いルートがあるのを地図上に見つけることが出来た。D151という地方道がそれである。そのルートを目指すことにするが、いかんせん出発点のルアンがすでにセーヌ川の作った谷にある街なのでまずは台地まで登ることになる。これがなかなかきつい登りで、一気に100m以上を稼いでいく。前後ともロー・ローを選びゆっくりこいでいく。足が強いIさんはぐんぐん先へ進まれるが自分は無理が出来ない。ようやく登りついてほっと一息。あとはノルマンディらしい風景の広がる台地の上をゆっくりと進むコースとなった。

ルアンはそれなりに大きな町なので郊外にも住宅地が続く。それが果てるともう広大な畑地で我々は地図を見ながら慎重に進むべき田舎道へ侵入していく。D151の分岐を無事見つけて一安心。交通量が少ない枝道・裏道は車に追い抜かれる心配もなく走ることが出来るので風景を楽しみながら走ることが出来る。自分のようなスローペースサイクリングにはもってこいだ。

小さな集落をいくつかこえていくと緩い下り坂となり左右に緑の風景が流れ飛んでいく。これは気持ちが良い。下りきると小さな村。Fontaine-le-Bourgeという村だ。フランス国旗を掲げた愛らしいつくりの小さなMairie(役場)を通り過ぎるとこんどは左手に折れてゆるく登り始めた。谷へ降りて村をパスして再び登っていく。この風景の展開、小さな旅をしている、という実感がわいてくる。

登りきった台地。このあたりでIさんの自転車と自分のを交換して少し走ることにする。Iさんはビアンキのクロスバイクなのだが、乗ってみると操作性の軽さに驚いた。とても軽くそしてクイック。走行系はMTBのコンポのようでギア比も充分でサイクリング向きだろう。クロスバイクが今とても人気がある、その理由がわかったように思える。

地図に目を落とすがそろそろ谷に向けて降りていくことになろう。緩く台地を下ると小さな村があり、そこで小さな流れを渡る。地図上にはVarrenne川とある。

あとは川沿いなのでアップダウンもないだろう。ゆっくりとのんびり気分で進んでいく。緑豊かなこのルートは実に素晴らしかった。小さなせせらぎの左右に台地の縁がありその意味では窮屈な地形なのだが、谷自体が広く、ゆったりとしているので閉塞感はない。ゆるやかな畑地は牧草地帯になっているようで牛がのんびりと群れている。時折ブレーキを握り、写真を撮らざるを得ない、そんな風景が点在している。止まって撮って、また止まって撮って。先行するIさんが見えなくなり慌ててペダルを踏んでいく。

やがて住居が増えてきて街が近づいてきた雰囲気がただよってきた。ルアンからの幹線道を左手から迎えるともうディエップは近かった。

(ディエップへ向けて静かな小川に沿った谷を進んだ。
その風景の素晴らしさに、何度ブレーキを握ったことだろう。)
(古い村をいくつ通過した事だろう) (ついに大西洋・・フランスの端まで走ってきた。)

ディエップはイギリスへ渡るフェリーの発着場でもあり、ルアーブル以北のオート・ノルマンディ地域圏の中ではもっとも大きな町だろう。海がすぐそばのせいか風がめっぽう強くて難儀する。ここまで走った足の疲れも手伝ってか最後の一足が辛かった。町の中心部を抜けて港に出る。ヨットハーバーのその先に岸壁があった。目の前に大西洋が大きい。やった・・・ついに大西洋まで来た。

海岸沿いはレストラン通り。ディエップは海鮮が名物で、牡蠣やムール貝などどれも美味しそうだ。とある店に入り、Iさんと無事今日のサイクリングを終えたことを祝いワインで乾杯。ムール貝のバターソースはなかなか美味しかった。

ディエップからルアンまではフランス国鉄(SNCF)で戻る。ディーゼル機関車の牽引する長大な客車列車で、最後尾の車両のデッキに自転車を載せて車中の人となった。念願の大西洋までとうとう走ることが出来た。海まで走るということはなんとなく一仕事を達成したような満足感がある。ルアンまで40分、ワインの酔いとサイクリングの心地よい疲れで二人とも寝入ってしまった。

(走行距離75km)


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