山と無線の今回の特集は「山で使う移動用アンテナ」とのことなので、私も特筆すべき設備ではないが自分が実際に使っているアンテナについて考えてみた。私の山での無線運用は50MHz中心なのでいきおい話題も50MHz用のアンテナとなってしまうのだが・・。
1・憧れの多素子ビームアンテナ:
週末の50MHzは多くの山岳移動局であふれ楽しい。山頂からの移動局の多くはダイポールなどのこじんまりとした装備でやっているようだが、ご存知JS1MLQ川田さん・JR1NNL後藤さん達のようにおよそ山岳移動とは思えないほどの強力な設備で山頂から波を出している方々もいる。時々自宅からワッチしていると川田さん・後藤さん達が2000m前後の関東の山から3エリアなどと交信をしているのが聞える。もちろんこちらでは相手局は聞えもしない。聞けば自作軽量5エレF9FTに50Wとのことで、それら以外にも頑丈なポールなども必要そうだ。すごいなぁ!いくら軽量化に工夫を施しているであろうとはいえそれらの設備を担いで登る、という事は私などは考えただけで参ってしまう。5エレに50Wあればさぞや楽しめるだろうなぁ・・、大きなビームアンテナはハムの憧れだ。山頂で絶える事無い猛パイル。自分も気力・体力を磨いて一度はトライしてみたい装備ではある・・、がせいぜい自分には夢想止まりのように思えてしまうのが残念だ。
2・現実は2エレどまりかな?:
(自作した軽量2エレ。 ポールとアンテナで 約1.1Kg、もう少し軽け れば・・。丹沢・蛭ケ岳 山頂にて) |
さて多素子のビームは無理にしても、2エレあたりなら私にも製作・持運びが出来そうだった。ハムフェアの「山と無線」ブースですっかりお馴染の後藤さんの軽量2エレ。アルミパイプの中に仕組んだ水糸を引張ればワンタッチで組みあがってしまう、というアイデアと工作技術はとうてい真似出来そうになかったが、それに近いものは作れそうだった。「アンテナクラフトマニュアル」(電波新聞社刊)が良い参考書となった。位相コイルを用いたHB9CVの事例が載っている。製作にあたっては中空の位相コイルをどうつくるかがキ−に思えた。ザックにパッキングする際にコイルをつぶしてしまいそうだった。
丁度その頃、ローカルのJK1RGA・河野さんがこのアンテナを作ったというので早速見せてもらった。ロッドアンテナ4本を用いワンタッチで組上げられるように工夫している。ブームは水道用の塩ビ管。気になる位相コイルはフィルムの空ケースにコイルを巻き付けその上からビニルテープを巻き付けてあった。成程!なにも中空にこだわる必要はない。アイデア拝借だ。エレメント用に6mmのアルミパイプ、ブームはコの字型のアルミチャネル、ブームの絶縁部には6mmのアルミパイプがきっちりはまるプラスチックパイプ。いずれもホームセンターで訳無く入手できた。給電方式は平衡給電なので何らかのバランが必要だ。簡単なバランはトロイダルコアを用いたFCZ研究所のキットだろうがここはスリムに給電できるように2.5Dの同軸線でシュペルトップバランを作った。アミ線は実際に被せていく際に結構縮むので少し長めに用意する。
軽量化に心がけたつもりだったが出来上ったアンテナは結構重い。ポールは丁度その頃購入した3.8m長のケーブルフィッシャーを使う。アンテナ重量約700g、ケーブルフィッシャー約400g。しばらくこのコンビで移動してみた。サイドの切れが良くさすがビームアンテナ。ただしフロントとバックの差はさほど感じられなかった。丹沢・檜洞丸(1600m)から地上波で兵庫県城崎郡。さすが2エレと唸ったが後日ダイポールでも同様の距離の交信が出来てしまった。2エレHB9CVの利得は6dBとのことだが残念ながらそれを強く体感した事はない。むしろ最近は組立てがやや手間なのとやや重たいのが災いしてか出番が減ってきている。
(バランの先端。 プラ板に固定し ボンドで固める) |
尚シュペルトップバランの先端は給電部の線(特に芯線部)が割と折れやすい。補強の為にプラ板などの上に給電部を固定しその上からボンドで固めてしまうと良いと思う。接着力の強さと乾燥後も柔軟さを保っているということで私は無色の合成ゴム系ボンドをこの手の工作には使用している。
3・基本はやはりダイポール??
さてそんな訳で重量と、組立ての厄介さが災いしてか折角の2エレすら出番が少ないのが現実である。つくずく面倒くさがり屋な自分が情けない。嘆いても仕方ないので基本中の基本とも言うべきダイポールの出番だ。
ダイポールなど自作できるはずだが、ものぐさ向きにミズホから移動用のダイポールセットが販売されている。私が初めて移動に使ったのもこれだった。ロッドアンテナをプラスチックのモールド部に着けするすると伸ばしておしまい。しばらくはポールを用いないで、山頂の適当な枝にくくりつけて運用していた。地上高は楽に手の届く範囲なのでせいぜい1.5m前後だが、関東平野と交信するにはそこそこ楽しめ、2エレHB9CVを作るまではずっとミズホのポケットダイポールで済ませていた。
(軽くて簡単。 基本はやはり ダイポールか? 山梨県・乾徳山 山頂にて) |
「山と無線」24号で7L1UGC鈴木さんが電線を左右に裂き1/2波長(つまり3m)の長さにして作る簡単なダイポールを紹介されていた。丁度自作意欲に目覚めていた頃だったので早速トライしてみた。ただやはりバランはあったほうが良いだろう、とFCZのバランをフィルムケースに組込みそこからビニル線を左右に伸ばしたものを作ってみた。巻いてしまえば手のひらにのる。使うときは適当に枝に絡ませる。ものぐさにもってこいのアンテナだった。ただ基部と左右のエレメント分、計3個所に枝が必要で、そこまで都合よく枝が山頂で見つかるかは運まかせ。重量的には軽いので常時携帯して、あくまでも非常用とするほうが良いかもしれない。
さて前述の2エレを山頂運用で使いあぐねていたその頃、ローカルのJK1NLO・桑名さんが50メガ特記でWACAを完成された。桑名さんは山岳移動にもアクティブで山頂から得たJCCも多くを占めていた。移動に用いるアンテナはダイポールが主流のようだった。神奈川県から遠く山形県あたりまでダイポールで訳ないという。えぇ、そんなにダイポールでいくのだろうか? 聞けば桑名さんはミズホのダイポールを地上高5mとかそれ以上に上げて使っているとの事。山頂に茂る樹林の上にアンテナをヒョイと出す感じらしい。飛びの良さ、耳の良さはそのへんにありそうだった。私は今までせいぜい上げても1.5m、もっと上げてみるか。
試しに私の持っている最も長いポール、3.8mのケーブルフィッシャにミズホのダイポールという設備で神奈川県北部の醍醐丸(867m)から秋田県の移動迎撃に出てみた。まず無理だろう、半ば諦めていたが何とQSBを伴いながらグランドウェーブで入感している。男鹿市、大曲市、横手市、本庄市・・。10wでも交信が出来てビックリ。5mまでいかないものの少なくとも1/2波長以上上げると随分違うようだった。相手局の設備に救われているのであろうが、改めてアンテナの地表面からの大切さを感じた。
前述のようにケーブルフィッシャが結構重くて嫌なので新調した5mの軽い渓流釣竿(先端部をはずしたので4.5m位)で使えるダイポールを作ってみた。ミズホのダイポールは重いので渓流竿でフルに上げると竿がしなって使えない。細いアルミパイプとシュペルトップバランの組み合せ。基部となる左右エレメントの絶縁部にはプラスティックパイプ。ここに小さな穴を開け釣竿の先端に差込んでおしまい。以来このアンテナが私の移動の中心となっている。
たかがダイポールではあるが軽いしサイドの切れも良く、山の上から私如きレベルの移動に使うのにはもってこいに思える。また、桑名さんの例のように多少のコツがあれば飛びも・耳も良くなるようだった。なによりも組立て・撤収が簡単で苦にならないのが良い。ただしこれにも弱点がある。風に弱いのだ。トップヘビーなこのアンテナでは風が強いと釣竿はしなるしアンテナはあらぬ方向を向いてしまうし・・。そんな時はせいぜい非常用ワイヤーダイポールでしのぐか、でもそんな時は風の音がマイクに入って交信どころでないかもしれない。
4・そうだ、ヘンテナだ!
(50MHzのヘンテナは 全長3m、少し長いの が厄介だ。山梨県・ 高川山山頂にて) |
さて私がやはりダイポールしかないか、と思っていた頃、一方でJK1RGA・河野さんは軽量3エレ、ダイアモンドループ、など意欲的に山頂移動用のアンテナの製作に着手されており交信成果も良いようだった。うむむ・・私も何か利得があって組立ての簡単で、軽く、釣竿でも使えるアンテナが欲しい、そんな気になった。そうだ、ヘンテナだ! アンテナ製作の手引に必ず顔を出すヘンテナ。これなら釣竿でイケる。ループ系アンテナでゲインもあるはずだった。6mハンドブック(CQ出版社)など、幾つかの本に製作記事が出ている。
両端にターミナルを付けた6mmのアルミパイプと両端に圧着端子処理をした0.8mmのステンレスワイヤー。上部エレメントは例によって釣竿の先端に差込む。下部エレメントは河野さんから教わった園芸パイプ用の金属クロスジョイント(タキロン製、家庭用園芸資材・クロスクリップ)を付ける。これは片方をエレメントにネジ止めし、もう片方をパチンと釣竿にハメるだけ。全くものぐさ向きだ。給電部は当初手持のシュペルトップバランを用いるつもりだったがいちいちセットするのも面倒なので、専用の給電部を作ってしまった。ケースにFCZバランを内蔵し、ミノ虫クリップ線をそのまま出す。ケースの裏側には目玉クリップをねじ止めしそのまま釣竿にはさむ。給電部のワンタッチ装着だ。これでもワイヤとエレメントの接続などが面倒くさいがそれを面倒に思っては仕方ない・・。文献によるとヘンテナの利得は約3dB、ダイポールとは違うはずだ。また前後には水平偏波が、左右には垂直偏波が出るらしく両者の混在する50メガでは有利かもしれない。さて実際の使用ではこれ又残念ながら3dBの利得を体感した事は殆どない。むしろ、コイツはダイポールよりも利得もある、だ
から耳も飛びも良いはずだ!という安心感を与えてくる。まぁお守り的な感じだ。
私の場合むしろ利得の差よりも、横幅が小さいことのありがたみの方を多く感じた。樹木が生茂り横幅3mのダイポールが上がらない事もままある。こんな時ヘンテナの横幅1mが効いてくる。又、受風面積が小さいのか、重心が低いせいか、風にも強い。強風吹きすさぶ谷川山系・平標山からヘンテナに5wで出たときは釣竿ヘンテナは風にもめげず倒壊する事もなく数時間猛パイルに耐えてくれた。このアンテナの仕舞い寸法は1mのエレメントを2分割するようにしたので50cm。ほどよいプラスチックの円柱形のパイプがあったのでその中に4本のエレメントを入れ収納出来る。
尚、それほど多くのアンテナを今まで作った訳ではないが私の場合アンテナの調整には米国のMFJ社の有名なMFJ259が重宝している。CQ紙等でも紹介されている259はデジタルカウンタ付きのデイップメータと考えれば良く、259のコネクタに作ったアンテナをつなげば一発で周波数直読で共振点がわかるというスグレ物。ダイポールなどはこいつを見ながら希望の周波数でオチるようにカットしていけばよく面倒くさがり屋の私でもアンテナが作製・調整出来る。短縮率の大きなHF帯のホイップ系などの調整はこれなしでSWRメータだけでは難しいと思う。他にも周波数カウンタ、オプションのコイルをつけてデイップメータ、SG(安定度が低いので簡易的だが)代わりにも使え、重宝している。私は円高の時期に米国で購入したので安上がりだったが、今は個人輸入にせよ日本の代理店で買うにしろ少々高くつくのが惜しい。
(給電部はプラスチック箱の中にバランを 仕込んだ。箱に目玉クリップをネジ止めし、 ポールへの装着はパチンとはさむだけだ。 |
(クロスマウントは園芸用のパイプ のジョイントを利用。ポールにパチン とはめるだけ。) |
(MFJ259はアンテナの 製作・調整、各種自作 に大活躍。) |
4・しかして現実の運用は?
そんな訳で私の実戦アンテナ設備としては立ち木に固定するポール代わりの渓流釣竿に軽量ロータリーダイポールとヘンテナ、それに非常用ワイヤーダイポールを状況に応じて使い分ける、情けない話、まことにベーシックなものとなってしまった。ポールの固定にはプラスティックの荷造り紐、同軸線には1.5D2V。結局一人でのお気楽山頂移動というところだとこの辺に落着いてしまうのだろうか? 貴重な山と無線の誌面を借りてこんなありきたりのアンテナの事しか書けないのが申し訳ない話だ。
又、森林限界を超えた立木のない山頂では山頂標識ぐらいしか釣竿を固定する場所がみあたらず、こういった時にはこの設備では苦労する。かといって記念写真の標的となる山頂標識にはポールをくくりつけづらい。実際昨年の南アルプス仙丈ケ岳では仕方なく非常用ワイヤーダイポールをハイマツの上に横たわらせての運用となってしまったが、交信成果は3000m級山岳としては悲惨で、やはりVHFのダイポールでは地面からの高さがある程度必要では、と実感した。こういう山での移動、皆さんはどうされているのでしょう?(もっとも私はそんな高い山は年に1、2度も行かないので実害は少ないが・・)
他にもデルタループ(シングル)など幾つか試してみたいアンテナもあるのだが果たして今以上に簡単に組みあがるものか・・いまだチャレンジ出来ずにいる。残念ながら2エレも含む他素子ビーム系は独りでの移動運用を考えるといまだに尻込み気味だ。もっとも私は自宅でも2エレ以上のアンテナは使ったことがないので一旦多素子ビームアンテナの切れ味・ゲインなどを体感してみれば一発でとりことなり、労を惜しまず山頂でもトライしてみるかもしれない・・。
理想の山頂移動用のアンテナを夢想してみる。ザックから一式取り出して一振りでシャキッとアンテナが組みあがり無論ポールも伸びる。小さいがゲインは5エレ並み。グランドウェーブで3、4エリアも夢じゃない。収納もボタン一押しでシュルッと縮みザックの横に収納されてしまう。重量は2、3百グラム程度で持つ事が苦にならない・・・。将来アマチュア無線の精神らしい個人的無線技術の追求の果てに、誰かそんなアンテナを発明してくれないだろうか・・?
しかして現実はおよそ理想とはかけ離れたアルミの棒っ切れやワイヤー類をザックに入れせっせと山頂に向かう。山頂で嬉々としながら棒っ切れを組み立て、山の上なのにやおら釣竿を取り出し無線機を取り出す。周りの登山者からこの人何者??と言わんばかりの視線を浴びながらもマイク片手にCQCQ・・。何局か重なって呼ばれると嬉しいながらももうドキドキして握った鉛筆が震えるのだ・・。一喜一憂の独り舞台。あれ、こんな風景どこかに、間近に、見覚えがなかったっけ?そうそう、私を含めた読者の皆さん?!
(本文は山岳移動同人誌「山と無線」30号に投稿したものを転載しました。)
Copyright : 7M3LKF, 1998/6/7
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