浅間・前掛山へ 

長野県小諸市・2018年10月28日

紅葉と青空のコントラストに目が眩んだ

浅間山をはじめて知ったのは小学生の頃だったと記憶する。まだ1960年代だったかもしれない、家族で軽井沢に旅行したことがあり、鬼押し出しから見た山が印象的だった。父親から浅間山とその名を聞いたと思う。私の生まれ故郷の香川県に可愛らしく高まっている讃岐富士、自分が通っていた小学校の校歌にも歌われていた富士山、それにこの浅間山、この三つが自分がごく初期に覚えた山の名前だったことは確かだった。以来何度もこの浅間の裾野を辿ることになる。学生時代の帰省(親は富山市に転勤していた)の信越線の窓から、オートバイでのツーリング、菅平方面へのスキー、など、登山を始める前からの馴染みの山だった。しかし実際の登山となると、大中小の噴火の絶えないこの山はいつも何らかの入山規 制がされていて、噴煙がのろしのように上がっているだけのなかなか縁の遠い山であった。最近の日本百名山の登山ガイドを本屋で見ると、なんと、浅間山は、黒斑山をもってそのピークとみなしている記載があったのにはさすがに呆れてしまった。入山規制は分かるが、黒斑山は、火口からもっとも離れた第一外輪山ではないか。実際10年以上前に歩いた黒斑・蛇骨縦走から眺めた浅間のピークは遠く離れており全くの別の山であったと言ってもよいだろう。そんなおり、3年ぶりに規制が緩み前掛山までは入山できると聞いた。前掛山は浅間の第二外輪山で、もちろん最高点ではないが、山頂とは指呼の間で、ここまで登れば浅間山に登ったといっても差し支えないだろう。実質、入山規制が緩くなった現状でも今登れる浅間山とは前掛山なのだ。

秋の好日、前夜に出発し横川SAで仮眠してから、浅間に向かう。天狗温泉・浅間山荘が入山箇所で、駐車料金は一日500円。すでに大きな駐車場は満杯で下の駐車場に誘導される。

8:25歩き始める。海抜は1410m。暫くはジムニーの通れそうな林道を歩く。カラマツの林が見事な紅葉で、透過して見上げる青空のコントラストが素晴らしい。フジのカメラを持ってきて良かった。ベルビアのフィルムシミュレーションが映えるであろうすばらしい空の色だ。

だらだらとした登りが続くがカラマツの紅葉を見ているとそれなりに足が進む。しばらくは深くえぐれた谷を歩くが徐々に狭まってくる。右手に見喘げる牙山が異様な高度感で威圧する。左手は第一外輪山で、草すべりだろうか、絶壁に草が風に揺れている。しばし長いのぼりをこなすと眼下の沢が近づいてくる。その沢床は赤銅色で火山の山であると改めて思う。沢を横切る箇所では硫黄の臭いが強い。10時半、ここに小諸市市営の火山館がある。海抜 1990m。いつしか600m稼いだことになる。ここまでノンストップで登ってきたので大休憩をする。火山館は真新しいログハウスで、管理人が常駐している。バイオ式トイレに美味しい水場、とこのルートのオアシスであろう。太陽光パネルに小諸市を向いた144メガの八木アンテナが立っている。ここで登山用のヘルメットを無料で貸し出してくれる、ということで、万一に備え借りてみる。管理人の話だと、10月の中でも今日がもっとも好 天ということで、今日は軽く500人の入山者を越えているという。

ここからはこれまでのルートから一転して、ミヤコザサの茂る平地を抜けるとカヤトの原をゆっくり歩くことになる。湯の平だ。黒斑山への分岐を分けると潅木が煩い登りとなった。更に進むとJバンドへの分岐を見送り、潅木を抜けると忽然と眼前に浅間山の溶岩ドームが現れた。半端ない高さだ。目をこらすと米粒のようにその頂稜を人が歩いている。あそこまで登るのだ。

ここからはひたすらの直登だった。さすがに独立峰だ。登り始めると風が猛烈に強くなり、ウィンドブレーカを羽織らざるを得ない。ついでに借りたヘルメットをかぶる。モンベルのオレンジ色のヘルメットは気恥ずかしいが、これくらい目立つほうがよいのだろう。思ったよりも歩きやすい登り坂に ペースが上がる。左手に悠然と四阿山が立っている。四阿山ってなんとなくだが湯の丸山と尾根続きかと思っていたら、とんでもない、立派な独立峰 だった。田代湖のボートが豆粒のようだ。

プロトレックの高度計もいつしか2400mを示している。ふーっとため息をつくとそこがもう頂上外輪山の一角だった。コンクリートの避難壕のあた りで皆さん休憩をしている。一本立てたいが、このままあと20分頑張って、12:10、前掛山の山頂だった。海抜2524m、火山館から1時間 20分。まぁ頑張った。

風が強くとても立っている気がしない。そそくさと記念撮影をする。外輪山は目の前で、その一番高いところが浅間山の本来の山頂だろう。すぐ近くなのだが、遠いピークなのだ。良く見ると外輪山をあるく人影が見えたのには呆れてしまった。

少し下って風の当たらない岩影で430MHzFMを開局する。いつものアルインコDJ-S57にRH770。さっさと取り出してメインで短いコールをしてサブに移るとCQ一発で2局から重なって呼ばれる。長野市に茨城県は坂東市。5分後には撤収して歩き始める。1発で呼ばれて、5分後には閉局できる、この早業は144/430に敵うものはないだろう。運用マナーも少なくとも休日の運用では、コールを名乗らない運用、変わった言い回し、など自分が開局した頃のようなこのバンド特有の不愉快さはまるで感じることが無くなった。

サンドイッチの簡単な昼食。テルモスに入れた暖かいコンビニコーヒーが美味しい。この山頂は寒いのでテルモス持参は正解だった。

下山はまさかの噴火活動も怖いので駆けるように降りる。火山館までおりてホッとする。あとは淡々と降りるのみだ。足任せに降りて、浅間山荘に戻る。駐車券を示すと日帰り温泉が200円値引きだった。お湯は沢床と同様に赤銅色で、なかなか気持ちよい湯であった。

カラマツの紅葉からカヤトの原、高原台地、荒涼とした溶岩ドーム。このルートにはそんな山の全てが上手く凝縮されていて、なかなかの好ルートだったと思う。昔日からその山麓からその噴煙たなびくピークをいつも眺めるだけであった山。そのピークをついに踏むことが出来た。何気に標高差は1100mありそれなりに疲れた行程だったが、それも心地よい、そんな秋の、会心の山行だった。

色づいたカラマツの林を行く 笹を分け進むと湯の平も近い 見上げる障壁の様な浅間第二外輪山
第二外輪山に立つとかまぼこ型シェルターの
先に、前掛山は指呼の間だ、
本当の山頂(右奥)は入山禁止。
行政はここを持って浅間の山頂としている。
山麓から振り返る浅間山(右奥)

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