秋の山頂で宴会を!雁ケ腹摺山

(2000/11/4、山梨県大月市)


(雲海の上に悠然と・・。気づけば私も富士山を前に思わず一枚。)
Nikon FG20, AIニッコール50mmF1.8 F8、-1/3補正

秋の一日を山も無線も二の次で、とにかく山頂での宴会に興じよう、という計画がいい年こいても未だに野遊びが大好きなわれらがローカル仲間の中で進んでいた。メールや葉書を通じて結局参加となったのはJK1NLO(桑名さん)、JK1RGA(河野さん)、JL1BWG(飯田さん)、それに自分を入れて計4人。山での宴会という趣旨により、歩かないで山頂に立てる山、そこで大月の雁ケ腹摺山がかねてより目的地として挙げられていた。500円札の富士山の山としてとみに有名なこの山は個人的にはまだ登っておらず、目的地としては申し分なかった。

* * * *

朝5時半に近所に住む飯田さんをピックアップし大月を目指す。曇っているが国道20号から真木小金沢林道に入り高度を稼ぐにつれてガスに入る。もう7,8年前か、大菩薩から小金沢連嶺を縦走して黒岳から大峠に下山して、この長い林道を延々と歩いて下りたことがある。いまやすっかり舗装され当時の面影はない。じきにガスを抜け出した。集合地である大峠に着くとすでに桑名さんも河野さんも到着している。私と飯田さんがしんがりだった。驚いたことに一眼レフに望遠と三脚という同じようないでたちの人がやたらと居る。皆、富士山ショットをねらうアマチュアカメラマンの人また人。この時間ではすでに撮影終了して下山開始だという。確かにあたり一面の雲海の上にすっと浮かんでいる富士を見るとこんな自分でも、何か居住いを正さなくては、という気になる。日本人であれば富士山を見れば自動的のこのような厳粛な気持ちが湧くのだろうか?気づけば私もシャッターを押していた・・。

さて歩かなくてもすむ山と言っても山頂までは一応は歩く。先頭を歩くように指名されたが自分は歩くのが遅いのでちょっとストレスを感じてしまう。河野・桑名組に無線機やアンテナを任せ、こちらは食料調達班だったので4人分の宴会メニュー、それに山頂での万一の悪天候を考えてのテント1張りと軽シュラフ1個が肩に食い込む。これは夏山の縦走と同じ重量だろう。後続3人は和気あいあいと話しながら登ってくるがこちらはもともと歩くのが遅いのに加えてこの重荷で、言葉が出ない。黙って歩く。ペースを落としたいがええい頑張ろうと行くと何やら胸が気持ち悪くなってきた。短いペースの山だからという軽い気持ちがこの重いザックとのアンバランスを生んでいるのだろう。

山頂直下の露岩のあるピークからの富士はすばらしい。あたり一面雲海で、その中から選ばれたピーク達のみが顔を出している。三ツ峠山のアンテナ群が手にとるように分かり、その右に黒岳や釈迦ケ岳と続き、反対側には杓子山から御正体山が、そしてぐっと手前には滝子山が、それぞれ立派な山頂を現していた。

ここからすぐにススキの広がる原に出てそこが山頂の一角だった。

さっそく山頂の東端に陣取りアンテナやテントを設営。思い思いに運用を開始する。注目は桑名さんの持参したFT817で、3人がこの小さな新型ポータブル無線機の周りに群がった。みんな欲しいオモチャを見る子供の目つきそのままで小さなボタンを押し、ツマミをまわしては「おーっ」「あーっ」と歓声をあげている。VFOをぐるりとまわすとJQ1HRA・斎藤さん、JQ1TQP・田中さんコンビがすぐお隣の姥子山から出ている。自分達より年代は上だが、アクティブな野遊びの玄人、といった風格が彼らには漂っている。斎藤さんも田中さんもなかなか渋いよね、と河野さん。確かに、自分も彼ら野遊びの大先輩のように会社の往復に終始することなくいつまでも遊び心を失わずに積極的に外に出たいものだ、と改めて思ったりもする。
(宴に興じる。右からJK1NLO、
JL1BWG、JK1RGA、7M3LKF)

50MHzSSB,144MHzSSB,430MHzFM,1200MHzFM、と4人各様の運用をしているとやはりアマチュア無線も山も楽しんでいるという同好の士がこちらを見にきた。アンテナあるところに無線家あり。コールサインを名乗りあいどこかの山頂でまた会うことを楽しみにする。(下山し帰宅後にこの局長氏は「山と無線」の仲間、7L3WOR・富田氏だったと判明する。)更に運用を続けるとあっというまに正午となった。早くも河野さんも飯田さんも目標としていた25局交信は達成してしまったようだ。

いよいよ宴会タイム。日当たりがよくぽかぽかの山頂で缶ビールの泡が飛ぶ。焼肉パックにカット野菜2袋、ピーマン、えのき茸が瞬く間にフライパンの上で香ばしい匂いを放つ。油の飛び散る中に8本の箸が忙しく飛び回り、匂いにつられたオバサンパーティが、まぁ美味しそうねぇ、としげしげとこちらを眺めていく。日頃は山頂でのオバサンパワーに負けがちな我らも今日ばかりは攻守逆転という訳だ。

一体何がそんなにおかしいのだろう、おもしろいようにとりとめのない話題が皆の口から漏れては笑い合う。それにさもない焼肉だがなんて美味いのだろう・・。これこれ、これってやっぱり山の楽しさだよな。無駄話さえが楽しいというこの充実感は下界では決して味わえないことうけあいだろう。ビールのピッチも上がりパックで持ち上がった缶ビールも底をついたのを機に仕上げとばかりに銀カップうどんが4個、飛び出してきた。もう食えない、飲めないとわかっていながら何故か口は動く。が、腹が苦しくなり、私はひそかにズボンのベルトを緩めた。

うどんをたいらげるとたまらずにそのままロールマットを広げ、マグロよろしく横たわった。食べ過ぎて苦しく、これは昼寝しかない。気づけばみんな秋の日をたっぷり浴びて同じようにのびている。どうしようもない眠気と心地よさでしばらく気が遠くなった。

薄ら薄ら意識がさめるが何やら河野さんが「チャンネルが空いてないや、1200はだめだなぁ」などと大声で言っているのが聞こえる。えっガラガラの1200MHzでそんなはずはないよな、と内心思っていると桑名さんが

「河野さんそれ430じゃないですか?」
「 えっ、あれ・・・あっ、いけね、俺だめだ、まだ酔っぱらっている・・・」

と言って大笑いしている。どうやら430MHzを1200MHzと勘違いして430MHzのメインチャンネルで「CQ1200・・」とまで口走ってしまっていたようだ。こちらも笑みを浮かべ、又心地よい睡魔に負けてしまった。
(青い秋の空に白い西日が射し、木々とテントの影がのびた。)
Nikon FG20 COSINA20mmF3.8

少し寒気を覚え目がさめる。そんな事もあろうかと思って張っておいたテントの中にもぐりこむと日差しをたっぷり浴びたその中は温室のようだ。ここのところ疲れ気味なのかふーっと気持ちよく再び目を閉じる・・。

気づけばあれほど人の居た山頂ももう自分達以外には数人だけとなってしまった。青い空に白い秋の西日が映え、テントの黄色い生地が浮き上がる。山頂に木々の陰がのびた。

15:30に閉局とし撤収。なんと無線運用と宴会、そして酩酊と満腹による昼寝でこの山頂に7時間近く居たことになる。なんという気楽で楽しい時間の浪費!一面ススキの山頂が逆光で金色に光った。今日一日の我らの愚行を見ていたのか見ていなかったのか、富士山ばかりは独り悠然と雲海の中から立ち上がっていた。

* * * *

下りはじめて向かい側の黒岳・牛奥ノ雁ケ腹摺山から小金沢山に続くカヤトの混じった黒い山々がみるみる薄暗くなっていく。つい6ヶ月ほど前、ひと気のないあの稜線を大菩薩嶺から湯の沢峠を目指して歩いたのだ。笹原と黒木の疎林が交互に現れる銃走路は物寂しくも美しく、そして漆黒の黒岳を抜けて白谷ガ丸で眼前に広がったカヤトの闊達な眺めに一人声を失い見入ったっけ・・。そんな事を思い出しながら河野さんと桑名さんの揺れるザックを見ながら静かな斜面を下りていく。

30分で大峠に下りついて着替えをすますともうすっかりと暗くなってきた。

出発しようとしていると黒岳のほうから人声が聞こえてきて数人下りてきた。携帯が通じない、と言っている。どうやら彼らはここからタクシーを呼ぼうという目論見だったらしい。40,50歳代の5人組だ。弱りきっている彼らに大月駅までの同乗を勧める。いやー助かった、というリーダー格。聞けば彼らは今朝塩山からタクシーで上日川峠まで上がり小金沢連嶺を縦走してここからタクシーで下りる計画だったという。最後の最後で携帯電話という山では必ずしもオールマイティではない道具にその詰めの行動を託すという計画には疑問が残ったが、まぁこちらがそれを言うことでもないだろう。ただ、自分の日頃の計画の中に、どこかそんな初歩的な落とし穴があってはならないな、と思いながら長い林道を下りていった。

歩く山としての面白みは全く無かったけど、こんな山の楽しみ方もあっていいだろう。贅沢な一日だった・・・。

渋滞の中央道、国道20号線を避け秋山村を抜ける裏道を回って横浜に帰り着くまで3時間半。ハンドルを握りながら早くも次回の野遊びのゲレンデをどこにしようか、と考えている自分。きっと残りの3人も同じ事を考えているんだろうな・・。各局、ご苦労様でした。そしてありがとう。

遊びに旺盛な中年4人組は保土ヶ谷バイパス上で1台、また1台とそれぞれの帰路で別れ、飯田さんを送り届けた最後の1台もあと10分の運転で自宅だった。

(終わり)


コースタイム:大峠8:30-雁ケ腹摺山・アマチュア無線9:20/16:00-大峠16:30


アマチュア無線運用の記録
雁ケ腹摺山 1874m
山梨県大月市
50MHzSSB, 1200MHZFM他、運用 28局運用、最長距離:茨城県那珂郡(50MHz)
設備:FT690mkII+10Wリニア+ヘンテナ(50MHz)、C710+ホイップ(1200MHz)
旧500円札の富士山をスケッチした山として有名な山頂。成るほどススキの原の奥に立つ富士山はすばらしい眺めだ。

山頂は広く、また標高もそこそこあるので無線運用は楽しめると思う。

Copyright7M3LKF,Y.Zushi2000/11/6


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