FAST研究会の立ち上げに際して
東京大学高齢社会総合研究機構 鎌田 実


交通事故をなくそうということへ反対する人は誰もいないが、事故はなくなるはずがないと思っている人も多い。事故が当事者(被害者・加害者)にもたらすダメージは極めて大きく、さらに第三者も遭遇して事故渋滞などの被害を受けることになる。車両安全対策としては、これまで主として衝突安全技術の進化がはかられてきて、50km/hくらいまでの衝突速度では乗員の命が守られるようになってきた。一方、歩行者や自転車との事故では、接触による転倒だけでも死亡事故になることもあり、衝突を回避することが重要で、予防安全の考え方を進める必要がある。
小職は、農工大の永井教授とともに、自動車技術会に「将来の交通・安全委員会」を立ち上げ幅広い立場からの安全の議論の実施、ドライブレコーダによるヒヤリハット場面のデータベース化(現在、約45000件)、日本学術会議で交通安全の議論を行って「提言」として対外発表(次の期にも議論は継続し、それは「記録」として発表予定)、などを実施してきた。環境ではゼロエミッションという言葉がよくつかわれるので、安全でも、事故ゼロ、ゼロクラッシュといった言葉が一般に広まるようにしたい。
国の目標としては、第9次の交通安全基本計画で、平成27年までに24時間死亡者数を3000人以下とすることになっており、平成22年が4863人なので、1800人強を削減することになる。一方で、近年の減少傾向は下げ止まりの感があり、今年は震災の影響で一時的に下げ幅が広がることが予想されるが、5年間の目標としては極めてハードルが高いものである。



国土交通省の交通政策審議会の技術安全WGで今後の車両安全対策についての議論を行い、小職がその舵取り役を仰せつかった。事務局の担当にお願いして、車両対策だけの限定的な議論ではなく、道路局や警察庁の担当官にもオブザーバ参加いただき、事故の状況・時代背景・技術の状況などを幅広い観点から討議を行ってきた。その報告書は国土交通省のホームページに示されているとおりであるが、車両安全対策による事故削減目標については、5年後のものがたてられず、10年後に死者数1000人減ということのみとなった。平成11年の運輸技術審議会で目標を立てた時には、衝突安全技術の普及のタイミングであったが、今回は、衝突安全技術は行きわたっており、一方で予防安全技術については普及率が極めて低いというのが現実である。
上記、事故ゼロに向けた活動の流れと、国交省WGの目標達成を強い意識と行動によって実現すべく、FAST研究会を立ち上げた。
日本の高い技術力による予防安全技術が普及し、世界標準となり、世界の事故低減に役に立つというところを目指したい。これまでに、この考えに賛同した複数のメーカ安全担当者らと合同で4回の議論を行ってきている。(個別の社とは数えきれないくらいの回数の議論あり)まずは、車両安全対策による10年後死者数1000人減の内訳とそれに至る現実的なロードマップを作りたい。国、業界団体、メーカそれぞれで検討が進められているが、新技術の社会導入の速度を加速しないと目標が達成できないので、それをアシストする役割を担っていきたい。新技術の導入には、過信・不信・不作動・誤作動の議論がつきものであるが、過度に慎重にならず、運転者や社会の受容性を検討しながら、役に立つ技術の効用を目標達成に結び付けていきたい。


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