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2001年11月号

『ボディ・ポリティック』ポール・ジョンストン

『腐海』ジェームズ・ポーリック

『復讐の女艦長(上・下)』デイヴィッド・ウェーバー

『竜の挑戦(上・下)』アン・マキャフリイ


『ボディ・ポリティック』ポール・ジョンストン

(2001年7月15日発行/森下賢一訳/徳間文庫/629円)

 七月に徳間文庫からオリジナルで出版されたポール・ジョンストンのデビュー作『ボディ・ポリティック』は、何十もの都市国家に分裂した二十一世紀初頭の英国を背景にして、スコットランドのエディンバラに住む元公安局刑事クイントが猟奇殺人の犯人を追う近未来ハードボイルド。あまり期待せずに読んだら(失礼)これが思わぬ拾い物。良く練られた設定とリズミカルに展開する物語に引き込まれ、一気に読み通すことができた。

 ボディ・ポリティックとは、組織体としての国家を表す慣用句。本書では、一般市民を体に、市議会を心臓と脳に、予備隊員を目と耳にたとえる管理主義的政策のことである。この都市国家ではセックスですら管理され、レクリエーション局の管轄のもと、週に一回割り当てられたパートナーと行わなければならないのだ。そんな管理社会で五年ぶりの殺人事件が起きる。ひもで絞殺されたのち内臓を切り取るという殺害方法は、五年前のシリアル・キラー、通称「耳鼻咽喉科」として知られる容疑者の手口に酷似していた。彼の仕業と断定した当局は、当時の担当であったクイントを捜査に呼び戻す。しかし、彼には「耳鼻咽喉科」の犯行ではないという確信があった。それでは、一体真犯人は誰なのか。クイントは独自に捜査を続け、ついに公安局に隠された驚くべき秘密に辿り着く……。

 元公安でありながら事ある毎に管理社会に反抗し、ブルースをこよなく愛するクイントのキャラクターがまず何より魅力的だ。軽く行動しているように見えながら、恋人をシリアル・キラーに惨殺され自らも罪を犯した暗い過去を背負うクイントの人間くささは、腐敗しきった管理社会と対照的に際立っている。常々、ミステリの面白さは、追う側と追われる側との心理の一致にあると思っているので、結末で繰り広げられる犯人とクイントの論議にも興味深いものがあった。読み進むうちに「思慮深い国家(ボディ・ポリティック)」が「狡猾な死体(ボディ・ポリティック)」へと変貌していくところに、本書の真骨頂がある。クイントを主役に据えた第二作も是非とも読んでみたい。

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『腐海』ジェームズ・ポーリック

(2001年6月30日発行/古賀弥生訳/徳間書店/2000円)

 同じく徳間からハードカバーで刊行されたジェームズ・ポーリック『腐海』は、海で異常発生した微生物の恐怖を描くバイオ・サスペンス。バンクーバー沖で、海に触れた人々が体中から出血し死んでしまう事件が起きる。海洋学者ガーナーは、医師のエリーや音響学者で元妻のキャロルらと共に事件を調査し、突然変異した微生物が原因であることを突き止める。微生物が地上に上陸したら間違いなく大惨事となる。微生物を絶滅することはできるのか……。シンプルな筋立てであるが、現役の海洋学者が書いた小説だけあって、豊富な知識と的確な論理に裏付けられた極めてリアルな物語となっている。パニック小説としては一級品だろう。

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『復讐の女艦長(上・下)』デイヴィッド・ウェーバー

(2001年7月31日発行/矢口悟訳/ハヤカワ文庫SF/上下各680円)

 デイヴィッド・ウェーバー『復讐の女艦長(上・下)』は《オナー・ハリントン》シリーズ第四作目。前作の激戦の中で見事な活躍を見せたオナーであったが、敵前逃亡し軍事裁判にかけられたヤング宙佐の恨みを買ってしまう。銃殺刑を免れたヤングは、オナーに対する復讐を開始した……。まさかと思っていたが、結局、宿敵ヤングに対してオナーが復讐を遂げたところで本書は終わってしまう。いくら恋人を殺されたからといって内輪もめの決着だけに上下六百頁とは少々長すぎるのでは。次回はいつも通り宇宙戦闘で活躍するオナーを見せてほしいものだ。

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『竜の挑戦(上・下)』アン・マキャフリイ

(2001年8月31日発行/小尾芙佐訳/ハヤカワ文庫SF/上下各740円)

 アン・マキャフリイ『竜の挑戦(上・下)』は《パーンの竜騎士》八作目。本書では、前作の後半で登場した人工知性アイヴァスが重要な役割を果たしている。アイヴァスは失われた科学技術を次々と甦らせ、パーンの住民に伝えていくのだ。ついには、彼らは協力してパーンを繰り返し襲う糸胞を撃退するため、赤ノ星に竜と竜騎士を派遣することとなる……。お馴染みの登場人物がプラスチックの製造やプログラムに夢中になったりするのを見ていると、何だかパーン・シリーズじゃないみたいな気がしてくるけれど、まあ、それも作者の狙いのうち。伝統派と革新派の対立などのドラマを織り込みながら、物語は佳境へと進む。アイヴァスの導入は、マンネリ化し易いシリーズのカンフル剤として見事に機能していると言えるだろう。

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