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ハヤカワ文庫SFの歴史 History of Hayakawa Bunko SF


Ⅰ期(七〇年八月~七五年七月)1番~167番まで

 まずは誕生から五年間。スペ・オペ中心の時代である。記念すべき第一回配本は、ハミルトン『さすらいのスターウルフ』ハワード『征服王コナン』ヴォークト『宇宙嵐のかなた』バロウズ『月の地底王国』ファーマー『緑の星のオデッセイ』の一挙五点。第二回配本がメリット『蜃気楼の戦士』ラインスター『青い世界の怪物』。背表紙の「ハヤカワ文庫SF」というタイトルはここまで白地に黒で印刷されており、オールド・ファンには懐かしい黒字に白抜きデザインは8番からとなる(図参照)。以降月に二~三点をコンスタントに刊行。創刊時のラインナップを見ればわかる通り、古くはバロウズから六七年のスターウルフまで、原著刊行年には随分幅があるが、内容としては宇宙冒険ものにヒロイック・ファンタジイを混ぜた王道娯楽路線、まさにSFの「原点回帰」と言える。



 注目すべきはハワードの《コナン》シリーズの刊行であろう。武部本一郎の素晴らしい表紙・挿絵の後押しもあり、《コナン》はハミルトン《スターウルフ》シリーズとともに初期のハヤカワSF文庫を代表する人気シリーズとなった。《コナン》がなければ、栗本薫の《グイン・サーガ》も書かれることはなかったはずだ。野阿梓も「この翻訳が後世に与えた影響は図り知れません」と《コナン》刊行を高く評価している(〈SFM〉〇〇年十一月号)。ちなみに《コナン》の訳者の一人である団精二は荒俣宏のペンネームであり(もう一人は鏡明)、Ⅰ期では、ホジスン『異次元を覗く家』、メリット『黄金郷の蛇母神』など幻想文学系で印象に残る訳業を残している。
 訳者で見れば、この時期に圧倒的な存在感を示しているのは何と言っても、《スターウルフ》《星間パトロール》《キャプテン・フューチャー》とハミルトンのシリーズ三種と、ジョーンズ《ジェイムスン教授》、ロブスン《ドック・サヴェジ》、チャンドラー《銀河辺境》などの人気シリーズを立て続けに訳した野田昌宏である。スペース・オペラの翻訳など全くなかった六三年~六五年に、アメリカのSFファンと直接やり取りして資料を揃え、入念なリサーチのもと『SF英雄群像』を〈SFM〉に連載し、スペース・オペラのバイタリティ溢れる面白さ、理屈抜きの楽しさを日本の読者に伝えてきた野田にしてみれば、ハヤカワSF文庫というスペ・オペが翻訳できる場を与えられ、まさに水を得た魚、堰を切ったような凄まじい勢いで名のみ高かったシリーズの翻訳を次々と刊行していった。その冊数たるや、五年間で二十七冊、ほぼ二月に一度は本文庫から野田昌宏の訳書が刊行されていたことになる。シリーズ外では、前述のラインスター、スペース・オペラ名作選と銘打ったユニークなアンソロジーが二冊(『太陽系無宿』『お祖母ちゃんと宇宙海賊』)、再刊ではあるが、ハインラインのジュヴナイル『銀河市民』などの訳業がある。野田昌宏こそ、この時期のSF文庫を質量ともに支えた人物だと言っても過言ではないだろう。
 他の主要なシリーズものとしては、まずバロウズの《地底世界》シリーズ全七冊、《太古世界》シリーズ全三冊が挙げられる。《地底世界(=ペルシダー)》シリーズは、HSFSからの再刊五冊に二冊の新訳を加えてようやく完結したもの。《太古世界》は、原著では一冊で刊行されていたものを雑誌掲載時の形で三冊に分冊したものである。《ターザン》シリーズが《ターザン・ブックス》として特別な形式で刊行されていたことも忘れてはなるまい。黄色の背表紙に赤地に白抜きで「ハヤカワSF文庫特別版」と記された配色が印象的なこのシリーズには、前もって通巻ナンバー101~125が与えられ、七一年八月『類猿人ターザン』の刊行を皮切りに、全二十五冊の刊行が始まった。年に数冊のペースで八二年まで刊行されたが、残念ながら二十一冊で途絶。残り四冊(112番、114番、120番、123番)は現在に至るまで未刊である(ちなみに114番には25番『地底世界のターザン』が入る予定であった)。従って、本文庫には四つの欠番がある。知っていても誰も得をしないと思うが、通巻1000番であれば、それは九百九十六冊目ということなのだ。
 また、通巻ナンバー32、七一年七月に刊行された『大宇宙を継ぐ者』は、後に本文庫の五分の一を占める一大勢力となった《宇宙英雄ローダン》シリーズの記念すべき第一巻。当初は訳者も松谷健二ただ一人、数カ月に一回の登場であったが、徐々に人気も上がり、この時期の終わりには年六冊刊にまで到達している。
 ローダンとともに後に本文庫の一画を占めることになる《宇宙大作戦》シリーズは、Ⅰ期にはシリーズ三作目『地球上陸命令』と長編『二重人間スポック!』と二点の刊行にとどまった。三作目から刊行されたのは最初の二作がHSFSより刊行されており、その後を継ぐ形での刊行となったためである。
 ムーア《ノースウェスト・スミス》は、ラヴクラフトをして「本当の雰囲気と緊張がある」と言わしめた傑作「シャンブロウ」を含む短編連作シリーズであるが、特筆すべきは、ムーアのもう一つのシリーズ《処女戦士ジレル》ともども、表紙・挿絵を松本零士が描いていることである。漫画家とのコラボレーションは、創元推理文庫にはなかった本文庫独自の特色であり、中には首をひねるような組み合わせもないではなかったが、松本零士と《ノースウェスト・スミス》、藤子不二雄と《ジェイムスン教授》、石森章太郎と《デューン》★、この三つに関しては、個人的には文句なしの出来。三氏の円熟した技法を駆使したイラストと小説とがあいまって素晴らしい相乗効果をもたらしていると思う。
 他には、アンダースン&ディクスン《ホーカ》、ファーマー《階層宇宙》、ノートン《太陽の女王号》、ムアコック《火星の戦士》、カーター《レムリアン・サーガ》、セイバーヘーゲン《バーサーカー》、ローマー《混戦次元》などがこの時期刊行された主なシリーズものである。
 「ハヤカワJA文庫」が誕生するまで国内作品を刊行していたのも、この時期の本文庫の特色となる。国内作品は再刊、オリジナル合わせて十八冊。再刊は、小松左京『エスパイ』筒井康隆『馬の首風雲録』平井和正『狼男だよ』豊田有恒『退魔戦記』眉村卓『燃える傾斜』など計十冊。うち六冊が立風書房ネオSFシリーズからの再刊である。オリジナルは、豊田有恒《ヤマトタケル》シリーズ二冊、平井和正《ウルフガイ》五冊《死霊狩り》一冊の計八冊。JAが誕生してからもしばらくは本文庫からも国内作品が刊行されていたが、それも七四年六月の『超革命的中学生集団』が最後となった。中では、少年犬神明を主人公とした平井和正《ウルフガイ》正編二冊(『狼の紋章』『狼の怨歌』)が若者を中心に大人気を博し、多くのウルフガイ・ファンを生んだ。
 本文庫に続いて早川書房は、七二年一月に「ハヤカワNV文庫」七三年三月に「ハヤカワJA文庫」を刊行してきたが、七四年三月末より三種の文庫をすべて「ハヤカワ文庫」という呼称に統一、「ハヤカワSF文庫」は138番『人狼地獄篇』より「ハヤカワ文庫SF」と新たな呼称で呼ばれることになる。この一九七四年というのは様々な意味で、早川書房のSF出版のターニング・ポイントとなった年である。〈SFM〉七四年五月号で森優が編集長を降板し、早川書房を退社、同年十一月にはHSFSがハリスン『殺意の惑星』を最後に刊行を停止した。七五年は本文庫のみが早川書房のSF出版を支えていたわけである。HSFS亡き後、もはや本文庫が安穏とスペ・オペだけを出していればいい状況ではなくなった。発刊後五年が経ち、創刊当初の熱気も薄れてくる。当時の社会状況は、バラ色の未来に浮かれた激動期からオイル・ショックを経た沈静期に入っていた。かくして、本文庫内の新たな展開として「青背」が登場する。それは本文庫のスペ・オペ時代の終わりを告げる声でもあった。
(文中の★印は星雲賞受賞作を示す)
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