武道の二つの道〈心学の道〉〈心法の道 〉について

 

日本の武道は日本武道史の示す通り、武士が政権を持つ700年の間に日本文化に大きな影響を与えた。

尚武の気風に満ちた時代、特に室町から戦国にかけての時代には、武術を深く求める者は、今日では考えられないほどの修練を積み、心の問題にも深く踏み込んで探求し、神道、仏教、儒教、老荘の教えと行法からその道を得て、一流を開くこととなった。

戦国の代が治まり徳川家康より始まった江戸時代には、平和が続いたその後期、封建制度の確立により、武士道が強く唱えられるようになると実戦としての武術そのものの修練とは別に、武士の生き方、教養としての、武術が重んぜられるようになる。

武術は武士道を錬るための手段としての教科目となり、技術よりも忠誠の精神を貴ぶ教えも現れる。

このため武術について唱えられる心の道の世界は二つの領域にまたがることになる。

一つは時代の社会倫理を強く武道教育の理念とした道。

一つは万人に与えられた宇宙真理のもとで、武道により命の力の使い方を探求、発揮する道。

 

この二つの道を学者(注1)は「心学の道」「心法の道」と説かれている。

 

○「心学の道」「倫理の道」 

時代が要請する社会的倫理を教育する手段として武道に外から求められた道。

江戸時代後期における武士道、昭和の忠君愛国心の養成等 儒教的表の精神論ともいえる。

この心は時代により人々に強い印象を与えたため、武道の心とはこの道であると思っている人が多い。

 

 ○「心法の道」。

神道、密教、禅、老荘の哲学の行法が武術の目を開かした道であり、万有一元、 心身一如の実践東洋哲学と武術が同化した道である。

東洋的世界観、生命観からでる人間の命の力の使い方に根ざす法であるから、日本の武術そのものの中にある道といっても良い。

この道は、時代には関係なく命の力の在り方と使い方を教示し、今日でも日本人の宇宙観、 生命観を支えている、心の底を流れる道でもある。

特に注意すべき点は、この心法の道を尊ぶ日本の伝統的訓練法は、今日一般に行われている、西欧的スポーツ、体育、競技武道とは訓練の方法が異なり、小宇宙たる人間と大宇宙の心と力とのつながりを基に、常に人間の心の奥底を見つめた、いわば「武術にして禊ぎ」「動く瞑想法」「動く禅」としての東洋的訓練法であるということである。

いわゆる「不動心」「剣禅一如」という様な状態は、この訓練法の結果から生じるものである。 

従ってこの道は、武道のみならず、人生のあらゆる局面において活用される道でもある。

 

○ 合気道はこの「心法の道」を、現代的に実践する武道であるということができる。 

 

     注1(今村嘉雄:東京教育大学名誉教授・ 著書・史料柳生神陰流 上下巻:新人物往来社、 日本武道体系:同朋社、 十九世紀に於ける日本体育の研究:第一書房、 武道歌撰集上下巻:第一書房、他多数)

 

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