4.物理的解析の壁
第2ステップは現象を物理的に解析する。PM分析の最も重要な解析ステップである。しかしこの物理的解析がPM分析を理解し難い要因にもなっている。筆者も当初はこの物理的解析に戸惑いなかなか壁が破れなかった。しかしいろいろな解析事例を基に「物理的解析事例集」を作ってからこの物理的解析が理解できるようになった。
最近は物理的解析を「不具合現象の起きるメカニズムを原理原則で明らかにする事」と言い換えて説明している。
例えば、−事例1−「鉛筆の芯が折れた」現象のメカニズムは、物理的には応力破壊である。
即ち、 鉛筆の芯の曲げ強度<芯に加わった力 (芯の強度以上の外力が加わった)となる。
これは鉛筆の芯の強度が低いのか、大きな外力を加えたのか、いずれかである。しかしどちらの要因かは次ぎのステップ(成立する条件)で分解する。
また、−事例2−機械加工で旋削加工の寸法がバラツク現象は、物理的には寸法、距離の変化である。
即ち、 加工物の回転中心とバイトの刃先までの距離が変化するとなる
これも加工物の回転中心が変化するのか、バイトの刃先が変化するのか何れかであるが、どちらの要因かは次ぎのステップ(成立する条件)で分解する。
以上の事例から次ぎの解析手順を整理した。
手順−1
「現象が物理的(又は化学的)に見てどの物理的化学的条件なのか明らかにする」
[寸法、距離、位置][体積][重量][力、圧力][時間][速度][回転][硬さ][温度][湿度][流量][粘度][配合][成分][反応][照度][音][磁力][摩擦抵抗][電流][電圧][電気抵抗]−−−etc
手順−2
「加工や作動の原理原則から現象に関わる必要条件を明らかにする」
−事例1−では鉛筆の芯の強度と鉛筆を持つ手の力が必要条件となる。
−事例2−では加工物の回転中心とバイトの刃先が必要条件である。
手順−3
「現象が正常な状態に対して手順1の物理的条件が手順2の必要条件でどのようにズレ、変化、バラツキを起こしているかを明らかにする」
−事例1−では鉛筆の芯の曲げ強度と芯に加わった力の差が逆に変化した(不等式が >が<に変化)
−事例2−では加工物の回転中心とバイトの刃先の距離がバラツイた。
以上が物理的解析の考え方である。
事例
現象 | 必要条件 | 物理的条件 | 変化、ズレ |
ライターの火が一発着火しない | ・空気(酸素) ・液化ガス(燃料) ・火花(着火温度) |
同時(時間タイミング) | しない |
懐中電灯が点灯しない | ・電池 ・スイッチ回路 ・フィラメント |
電流(発熱する電流) | 流れない |
旋盤加工で外形寸法がばらつく | ・加工物回転中心 ・刃先先端 |
距離(寸法) | 変化する |
ボール盤加工でドリルが折れる | ・ドリル(強度) ・材料(切削抵抗) |
力(応力) | 差が逆になる 強度<切削力 |
アーク溶接のビードが脱線する | ・加工物の被溶接線 ・ワイヤー先端移動軌跡 |
相対位置(寸法) | ズレ |
振動フイダーで搬送が止まる | ・搬送(振幅加速度) ・搬送レールの抵抗 |
力(応力) | 差が逆になる 搬送力<抵抗力 |