活動の目標値設定について


 

 工場の体質改善活動(TPM活動、同期生産活動、設備管理活動、現場管理活動、品質向上活動など)でそれぞれ活動計画段階で結果系の目標値が設定され、その目標達成に向けて活動が展開される。しかしそれらの目標値がどんな根拠で設定されたのか極めてあいまいな事例や世間相場に比較してレベルの低い目標値を見かける。
 そこで筆者なりに目標値設定について以下に考察した。

1.上位方針から降りた一律目標設定の問題
 方針管理をまがりなりに導入している企業が多い。方針には当然中期、単年度に目標値が設定される。これらが各職場に展開されて来る。ここで大きな問題は、上位の目標値が末端の職場に一律展開されてしまう事例である。
 例えば、TPM活動で「設備総合効率」は全工場平均目標値85%以上と設定されると、どの職場も85%を目標値として設定してしまう誤りである。それぞれの職場の設備プロセスによって目標値が異なるはずである。現状の「設備総合効率」が65%(例:機械加工プロセス)を目標85%の職場と、現状80%(例:組立プロセス)を目標85%では向上代が異なる。当然現状80%では目標は95%とすべきである。これらの結果として工場平均値が85%になるように目標が設定されるべきである。
 もう一つの問題は上位方針の目標値が世間相場や競争企業の値に対して凌駕する目標になっているかである。

2.あるべき姿から設定した目標値の問題
 個々の職場の目標設定では、その職場の製造プロセスの「あるべき姿」(目指す姿)を描いて(シュミレーション)して、その中で各指標(設備効率、人の効率、最適ロットサイズ、在庫量、段取時間−−などなど)の目標値が設定される。活動の目標設定方法としては優れた方法である。
 この方法の問題は「あるべき姿」のシュミレーション段階でどこまで競争企業を凌駕する姿を描けるかで、各指標に落された目標値のレベルが決まってしまう。
 例えば、同期生産の活動で「あるべき姿の生産方式」をシュミレーションした結果、段取時間の目標値が15分と試算された。しかし別の視点から見ると、世間の同様な設備のチャンピョン事例は既に5分以下である。これは「あるべき姿」のレベルが一段低い事を現している。

3.他社、世間相場から設定した(ベンチマーキング)目標値の問題
 
同業他社や業界の世間相場から目標値を個別に設定する場合もある。いわゆるベンチマーキングを目標にする設定である。しかしここにも落とし穴がある。仕入れた同業他社や業界の世間相場の情報には時間のズレがあるからである、目標を達成した頃には同業他社や業界の世間相場の値はさらに上に行っているからである。
 こんな事例がある。10年以上前の機械加工プロセスでは「設備総合効率」の世間相場値が85%以上であった。しかし現在は既に90%〜95%がチャンピョン相場値となっている。(注意:加工材料がアルミ、鋳鉄の場合)

4.段階目標値とゼロ目標値の違い
 目標値に向けて半年後、1年後〜3年後と段階的に目標ラインが引かれる場合と、最初からゼロ目標を設定する絶対的目標がある。この絶対ゼロ目標設定は「労働災害件数」や「品質重大クレーム」などである。
 昨年は「労働災害件数」が10件だったので今年はその半減で目標値5件にしたと言う事例がある。これは5件の災害があっても良いことになる。このように絶対にあってはいけない管理項目は常にゼロ目標である。

5.目標必達の課題
 どんなに優れた方法で高い目標値を設定しても、目標が達成出来なければ絵に描いた餅になってしまう。また達成可能な目標設定では世の中の企業競争から脱落してしまう。言うまでも無く高い目標を絶対必達しなければならない。
 そこで目標必達の課題は、
@優れた方策、ツールを使うこと
 目標達成の様々な方策やツールが存在する。これらの中で目的に最も合った方策、ツールを研究して使うことが重要である。
 在庫削減やリードタイム短縮の方策は?工程不良をゼロにする方策は?納入不良をゼロにする方策は?段取短縮の方策は?と様々である。
 例えば、問題の解析手法一つ取っても・なぜなぜ解析・特性要因図解析・系統図解析・FTA・PM分析などいろいろな解析手法がある、品質不良の解析では特性要因図解析で対策し不良率半減まで解決してもゼロにはならないが、PM分析で解析して対策すると不良ゼロになった事例は数限りなくある。即ちプロフェショナルは道具にこだわる。

A活動系の管理項目に目標値を設定すること
 結果系の高い目標を達成するには、当然その活動系(方策系)にも高い目標を設定して、活動系の目標を達成しなければ結果系目標が達成できない仕組み(結果−方策ツリー)を設定する。

BPDCAのサイクルを短い周期で回すこと
 良い方策でよい活動目標値を設定したら、これらの活動のPDCAサイクルを短い周期で回すことが重要である。1年後の目標達成項目を半年に一度の振り返りでは手遅れとなる。月一度のPDCAでも遅い。周単位で進捗を管理する必要がある。

C上位者が率先陣頭指揮をとり、全員のやる気を引出すこと
 目標達成には何よりも上位者(トップ)の熱意が全員に伝わることが最も必要な条件である。その為に率先垂範で陣頭指揮を取る姿勢が無いと全員のやる気が一つに纏まらない。目標のみ降ろして、ただ「やれやれ」と言っているだけでは部下はついてこない。
 野球やサッカーの例でも同じである。リーグ優勝という目標に向けて、優れた監督のもとに優れた選手が育ち、優れた戦略(方針)と戦術(方策ツール)で全員が一丸となったチームが優勝している。

D絶対諦めないこと
 最後に絶対諦めないこと。粘り強く、しつこく取組むことである。

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