金型保全の展開
1.金型計画保全体制の必要性
プレス(圧造)、鍛造、樹脂成型等の設備では、設備計画保全と同様に金型の計画保全体制を造ることが極めて重要である。
現実にこれらの設備総合効率の阻害ロスを見ると、設備本体の故障より金型の故障ロスの占める割合のほうが大きい。金型が故障(破損型故障と品質不良型故障がある)すると、一定の生産量に至らずに金型を降ろす為、ロス時間は不要な段取ロスと成ってしまう。また金型は製品品質に直結している為、金型故障イコール不良の発生と成ってしまう。
金型も設備と同様に故障を起こさない予防保全として計画的に点検整備を行う保全体制にする必要がある。
2.金型保全体制造りへの活動手順
プレス金型、鍛造金型、樹脂成型金型ではそれぞれ型の性格が異なり、また劣化モードも異なる。ここでは共通した金型の保全体制造りの活動手順と活動内容を以下に記す。
ステップ | 活動名称 | 活 動 内 容 | 管理項目 |
1ステップ | 金型総点検 | ・金型保全の活動板を設置する(事例、ここをクリック−−まだ未入力) ・金型保全活動マスタープランを作成し金型保全管理項目と目標値を設定する。 ・全金型の過去の故障履歴を洗い出し、現象、原因、処置の層別を行う ・金型のA,B,Cランク付けを行う。さらにAランク金型からモデル金型を設定する。 ・金型故障の定義を明確にする(M/C内修理故障、M/C外修理故障) ・「総点検チェックシート」(事例、ここをクリック−−まだ未入力)を作成し、これに基づいてモデル金型を分解し不具合の総点検を実施する。合わせて予備品、型図面の総点検を実施する。 ・予備品(消耗部品)リスト作成、発注方式を設定する。 ・逐次対象金型の総点検を拡大する。 |
・金型故障件数 ・金型故障による 設備停止時間 ・MTBF,MTTR ・故障復元工数 ・計画保全件数 ・計画保全工数 ・総点検実施金型 台数、実施率 |
2ステップ | 不具合の復元 故障の再発 防止を実施 |
・「金型故障なぜなぜ解析シート」(事例、ここをクリック−−まだ未入力)を作成する。 ・モデル金型の故障は全件「故障解析」を実施する。逐次Aランク金型から拡大する ・慢性故障の要因解析は「PM分析」を行う。(事例、ここをクリック−−まだ未入力) ・故障原因の再発防止項目を整理する。 ・弱点部位の改良保全計画を立て実施する。 ・類似金型へ水平展開を実施する。 |
・故障解析実施率 ・故障原因判明率 ・再発防止実施率 ・水平展開実施率 |
3ステップ | 点検整備基準 の作成と実施 保全情報管理 整備 |
・1〜2ステップ活動項目を整理して、「総点検チェックシート」をベースに「金型点検整備基準書」(事例、ここをクリック−−まだ未入力)を作成する(点検部位、判断基準、処置方法、点検周期) ・年間、月間金型保全カレンダーに落とし込む。 ・保全記録、故障現象、原因、処置、保全工数、発生費用、点検整備計画(計画保全カレンダー)などのパソコンシステムを作成する。 ・型に付随する搬送装置の点検整備項目も基準化する |
・「基準書」作成率 |
4ステップ | 劣化部品の寿 命延長改善 段取り改善項 目の改善 |
・消耗劣化部位、部品の命数延長改善を実施する。 (摩耗型消耗の命数延長と破損型命数延長の改善に分ける) (設備条件、金型材質、形状、表面処理、他) ・再生補修の導入(金属溶射など) ・段取り改善、サイクル短縮改善の型改善項目を全型に水平展開実施 |
・命数延長改善 実施件数、効果 金額 ・再生補修実施 件数、効果金額 |
5ステップ | 劣化予知診断 金型MP情報 発行 |
・金型劣化の診断技術の研究と診断装置の導入。(設備診断技術を応用する) (変位診断、圧電診断、冷却流量温度診断、サーモグラフィー診断など) ・改善項目を金型MP情報に整理し型設計基準化する。 |
・金型MP情報 発行件数 |
3.プレス金型の特徴
ブランキング型、ドロー型、ピアス型、トリム型によりそれぞれ故障モードが異なる。またブランキングプレス、トランスファープレスとタンデムプレスによっても故障モードが異なる。特にトランスファープレスでは搬送の不具合によって型の損傷が発生する。
ブランキング型およびトリム型ではせん断刃部の摩耗による製品バリや刃部の破損、スクラップ詰りによる型の破損などが発生する。
ドロー型では絞り型面の摩耗による製品形状不良、または型面のカジリ、クラックなどが発生する。ピアス型ではピアスパンチの摩耗による製品バリ発生、パンチ破損などである。
また共通して型の構成部品の劣化として、スライド部の摩耗カジリ、スプリングの破損、締付けボルトの緩み、上下型ガイドポストの摩耗、カジリなどが放置されていると上記の故障要因になる。
以上プレス金型の故障要因に関わる条件を整理すると、
@設備の基本条件(最適spm、上型ハイト設定、ダイクッション、上型スライドのガタ平行度、搬送グリップ、他)
A型の基本条件(型の寸法形状、材質熱処理、表面処理、スクラップ処理、他)
B加工液の条件(絞り油の性状、汚染度、掛け方、量、他)
C製品の条件(板厚、材質、強度、他)
となる。
4.鍛造金型の特徴
鍛造には冷間鍛造、熱間鍛造の違いと、縦型プレス鍛造機と横型のヘッダー鍛造機の違いによりそれぞれ金型の構成が異なる。何れにしても金型に非常に大きな負荷が加わる工法のため、故障モードの大半は破損型である。故に金型保全で重要なポイントは型に加わる負荷を少なくする事と、負荷に耐える型構造する事の両面が必要となる。
1.負荷を少なくする方策は
@型表面の摩擦係数を増加させないために面粗度を荒くさせない定期的な清掃と磨きを行なう事。加工油の性状と汚染度の維持管理、製品のボンデ処理性能の維持などが重要である。
A型の絞り形状をストレス解析等で負荷を分散させる型形状に改善する事。
2.負荷に耐える型構造にする方策は
@型構造の強度アップ策として、外型と内型の締め代アップ、肉厚増加、型の材質、熱処理、表面処理などの改善。
5.樹脂成型金型の特徴
樹脂成型金型は品質劣化型故障と可動部(ゲートスライド、突き出しスライド)のカジリ、破損型の故障モードに分れる。
特に品質劣化型故障は温調経路の詰り、固定型と可動型合わせ面の摩耗変形、ゲート部の樹脂詰り、ホットランナーのヒーター断線、ゲートスライドの摩耗などによる、バリ、ヒケ、ショートショット、ウエルド、糸ひきなどの様々な品質不具合となる。
これらの故障を予防する保全として、金型の定期的な分解整備(摩耗劣化部の復元、潤滑塗布、温調経路のフラッシングなど)
および、品質モードと型に関わる項目の相関マトリックスから改良保全を実施することが重要である。
さらに段取改善による型の改善項目や成型サイクルの短縮で冷却型開き時間を短縮するために凝固解析と型表面温度のサーモグラフィーによる調査などによる冷却経路の改善も重要な改良保全の一つである。
6.ダイキャスト金型の特徴
ダイキャスト金型は樹脂成型金型に近いが、アルミの射出温度が高い事から、型の表面剥離摩耗とアルミバリが可動部へ侵入するためのカジリ、摩耗劣化などがある。
定期的な点検整備と品質不具合と型の関係項目は樹脂成型金型の保全と基本的には同じである。
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