製品原価低減の進め方

 製品原価の低減は、製造業の生き残りを掛けた活動である。市場に受け入れられる魅力ある製品の開発はもとより、競争メーカーより一円でも安い売価でないと売れない。さらに例え安い売価を設定しても利益が出なければ赤字となってしまう。製造業にとっては日々戦争状態である。
 原価の大半は製品設計段階と製造工法の設定と生産数量でほぼ決定されてしまうが、製造工場での原価低減の役割も大きい。すなわち設計された製品をいかに良い品質で安く作るかが工場の使命である。そこで筆者の経験から工場の製造原価をいかに低減するか、以下解説する。

原価低減活動を実施する条件
@製造原価を構成する「原価費目」が製品ごとに月次で分かる経理システムに成っている事。
A更に、素材工程、加工工程、組立工程別に下記の表のようにプロセス毎の原価費目が把握されている事。
原価低減の取り組み区分
以上の条件を整備してから次の区分に分けて取り組む。
@設計仕様を変えるVA取り組み。
A購入部品、直接材料の購買原価低減取り組み。
B製造加工費の原価低減取り組み。
 となる。具体的には「原価低減の視点及び方策事例と原価費目マトリックス表」(ここをクリック)を参照してください。
原価低減のアイテム分類
@直接原価低減アイテム(アイテムが採用されると即日原価低減が出来るアイテム)
  ・設計仕様VAアイテム・品質基準VAアイテム・廉価材料変更アイテム・購買関連アイテム 等々
A間接原価低減アイテム(アイテムの要因系活動を実施して成果が出ないと原価低減出来ないアイテム)
  ・直接労働生産性向上の関連アイテム・設備総合効率向上アイテム・間接材料変動経費低減アイテム
  ・工場管理費(固定経費、間接労務費他)アイテム・在庫、物流コスト低減アイテム 等々

 以下、製造工場に於ける製造加工費の原価低減の進め方について詳細を記す。
製造加工費の取り組みには、
@変動費の原価低減取り組み
A固定費の原価低減取り組み
 に区分される。従来は生産性向上活動(直接労務費)が中心であったが、これでは原価低減の限界がある。製造原価費目全般にわたった取り組みが必要である。
 すなわち、直接材料費、変動経費(間接材料費、動力エネルギー費、修繕費、物流費)、更に工場管理費となっている固定経費、準間接労務費、工場建家管理費を改善する活動が必要である。
又、設備金型償却費についても安価な設備金型にする改善や、LCA(ローコストオートメーション)改善、さらに低負荷設備の廃棄などが必要である。
 これらの改善方策には大方策として、工場の集約、生産拠点の低労務費国へ移動などが行われている。中方策としては、生産方式の改革(同期生産)による管理費(準間接労務費、固定経費、工場内物流費)の改善や、TPM活動であらゆるロス改善によって生産性の大幅な改善と材料歩留まり改善、間接材料費、修繕費の改善が行われる。また内製外製の分担最適化改善なども方策の一つである。
 小方策では、生産ラインの集約化、ライン改善として工程統合改善、低付加価値作業改善、レイアウト改善、作業タクト短縮、サイクルタイム短縮、LCA改善、段取り短縮、不良手直し改善、省エネルギー改善などをライン単位、工程単位で改善する。
 これらを「製造原価総点検活動」として実施する。以下活動の手順と活動内容を記す。

製造原価総点検活動

活動ステップ 活動内容
1.原価低減チーム
  発足と活動計画
・原価低減プロジェクトチームの編成には設計開発部署、生産技術部署、生産管理部署、品質保証部署、製造部署、購買部署それぞれのメンバーで構成する。
・原価低減活動マスタープランを作成するる。(対象製品、概略目標、活動期間)
2.現状の実際製造
  原価と生産ライン
  実態把握
・対象製品の実際原価を費目別に詳細(プロセス別、工程別)に調査把握する。
・製造ラインの設備総合効率とロス構造(故障、段取り、チョコ停、不良、手直し),生産タクト、能率、生産方式、生産管理ポイント数、仕掛かり在庫、生産リードタイムなど調査する。
3.目標製造原価の
  設定と要因系目標
  値の設定
・売価−利益=原価の考えと、客先からの原価低減要求から原価低減率の目標設定する。目標原価から粗利益(営業l利益+販売管理費+開発費)を差し引いた値が、製造原価の目標値となる。
・目標製造原価から実際製造原価を引いた値が原価低減目標額となる。これらを各原価構成費目に目標額を割り付けする(目標割付試算)。
・原価費目別に生産要因系の目標値を設定する。
設備総合効率目標値、能率目標値、ネック工程タクト・サイクルタイム、材料歩留まり、不良率目標値、在庫・生産リードタイム目標値など。
4.原価低減視点別
  アイテム出し
・対象製品と類似製品、他社製品を現物比較展示する。
・直接的原価低減アイテムを「原価低減の視点及び方策事例と原価費目マトリックス表」を参考にして洗い出す。
・間接的原価低減アイテムを下記の「製造原価低減アイテム洗い出し表」を参考に製造プロセス別、工程別に洗い出す。
・各アイテムの想定原価低減額を累計して目標値の2倍のアイテムを出す(実施歩留まり50%)、特に設計仕様アイテムと品質面のアイテムは実行歩留まりが悪いことを前提とする。
5.アイテムの実施
  計画作成と実施
・アイテム実施計画を立案、ここでは直接的アイテム(仕様VA、品質基準、部品共用化、廉価材料化、購入部品など)と間接的要因系活動アイテム(直労生産性アップ、設備総合効率アップ、タクト短縮、歩留まり向上、生産方式改善、在庫削減、間接業務効率化、新工法開発、内製化など)と分けて活動計画を作成する。
・これらを短期、中期、長期に分けて活動を展開する。
6.原価低減成果
  確認と歯止め
・実施アイテムの確認と、定期的な実際原価費目別把握を行い。原価低減の目標達成度を確認する。
・特に要因系の成果は歯止めがしっかりしていないと後戻りするため、常に活動を緩めない方策を展開する。

製造原価低減アイテム洗い出し表

製造プロセス 工程・管理ポイント 製造原価費目 改 善 アイテム事例 予測効果金額
直接材料費 購入部品費 設備償却費 直接労務費 準間労務費 間接材料費 変動経費 固定経費
直接材料購入
部品購入
運搬・納入 ・価格精査・購入先、納入条件見直し
・輸送効率(納入回数、共同輸送)・納入生産SNP統一
・容器荷姿梱包最適化
円/台
在庫 ・固定ロケーション・在庫基準明確化
素材加工工程 ブランク加工 ・材料取り歩留改善
フォーミング加工 ・工程統合
・故障チョコ停障低減・金型故障削減
・金型命数延長改善・全数目視検査廃止改善
・昼休み直間無人運転化
・段取短縮・ SPMアップ
在庫 ・生産ロットサイズ縮小
・固定ロケーション・在庫基準明確化
加工工程 1工程 ・Uの字二の字ライン化
・工程直結化・インライン化
・工程統合
・供給出荷の無人搬送車化・LCA改善
・故障チョコ停障低減・昼休み直間無人運転化
・段取短縮・ サイクルタイム短縮
・工程不良手直し改善
・バリ取り廃止改善
・品質基準見直し・目視手動検査の自動検査化
・消耗工具集中購買・在庫基準化・種類削減
・工具命数延長・廉価工具・クイックチェンジ交換
2工程
3工程
在庫 ・生産ロットサイズ縮小
・固定ロケーション・在庫基準明確化
組立工程 1工程 ・Uの字二の字ライン化・工程直結化・インライン化
・供給出荷の無人搬送車化・LCA改善
・作業者集約・少量生産ライン集約化・作業タクト短縮
・低付加価値作業改善(動作経済4原則)
・ラインバランス率向上
・取り置き「からくり改善」
・故障チョコ停障低減・昼休み直間無人運転化
2工程
出荷 在庫 ・固定ロケーション・在庫基準明確化
運搬 ・輸送効率(納入回数、共同輸送)
・梱包荷姿・充填率(SNP、容器)、輸送契約
共通 生産システム ・素材−加工−組立の一貫工順化
・内外工順見直し、内製一貫化
確定情報生産・・リードタイム短縮、・生産指示簡潔化
・停滞ポイントの削減

・工程間運搬方法、荷姿、SNPの改善
・非量産ラインの統合・低負荷設備の廃棄
・電力費契約改善・低労務費化(パート化、他)

 

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