切削工具保全活動の展開


 TPM活動及び設備管理活動を展開する中で、機械加工プロセスでは「切削工具保全」の活動が重要な柱となる。
ここでは筆者が長年進めてきた「切削工具保全」の活動を整理して以下に掲載致します。

1.切削工具保全の狙いと活動の方策

 切削工具保全の狙いは以下のようになる、
@工具原単位(製品の加工一個当りの切削工具費用)の低減
A製造ラインの設備総合効率阻害ロスである工具交換時間ロスの低減
B切削工具の要因(工具破損、切れ味低下等)による加工不良の低減
Cマシンサイクルタイム(速度ロス)の改善として 切削時間の短縮

以上の狙いに対して、これらの改善方策は以下のようになる。
@工具破損、チッピング改善
A工具命数(寿命)の延長改善
B工具交換時間の短縮(クイックチェンジ化)改善
C工具交換時(チップインデックス)一発良品化改善
D安価(廉価)工具への置換化
E工具再研削工数、工具在庫管理費の低減
F工法改善(切削加工レス化、切削取しろ極少化、加工方法の改善)
(以上の狙いと方策の関係図表はここをクリック−Microsoft PowerPointが開きます)

2.工具命数を決定する条件

 工具命数を決定する条件を整理する前に、工具の命数は何を限界として決められているか整理する。
@品質限界命数
 工具の刃先の摩耗によって、切削面の面粗度が要求品質を超える限界。又、切削抵抗の増加により寸法精度が要求品質を維持出来なく限界である。(仕上加工工程)
A破損、チッピング限界命数
 品質限界内であっても、一定の刃先の摩耗によって切削抵抗が大きくなり、刃先の折損やチッピングが発生する限界である。(荒加工工程)
B最適ライフサイクル限界命数
 刃先の再研削工具(ドリル、ブローチ等)は@、Aの限界内でも最適な刃先摩耗再研削量により、工具のライフサイクル費用を最少にする命数限界である。
 以上の工具命数の限界を決定する条件は次のようになる。
@設備の基本条件
 ・チップ、ツールホルダーのクランプ剛性 ・ツールスライドの摩耗 ・主軸精度 ・回転振れ精度など
A切削条件
 ・切削速度 ・送り/回転当り ・切込量 ・切削液の性状と掛け方 ・切屑の出方 
B工具の条件
 ・工具材質(耐摩耗、耐じん性) ・表面処理 ・刃先形状(再研削) など
C被削材質条件
 ・被切削性(硬さ、成分) ・前工程条件(加工面性状、取しろ)
(以上の関係の図表はここをクリック−microsoft powerpointが開きます)

3.切削工具保全活動展開ステップ
 
以上の工具保全の活動方策を次の展開ステップで実施する。

 

ステップ    活動名             活 動 内  容
1ステップ 活動計画作成

現状把握
・工具保全活動責任者、メンバーを組織する。(工具保全分科会)
・中期(3年)活動マスタープランと目標値を設定する。
 (目標値*工具原単位、工具改善金額、工具交換時間、工具関連加工不良等)
・年度活動詳細計画と年度目標値を設定する。
・工具保全活動板の設置する。
・製品別工具原単位(工具購入出庫金額、工具再研削費、)、工具命数、工具交換時間の実態など現状把握する。
2ステップ 工具改善アイテム
総点検
・現状把握結果から工具改善アイテムの総点検を実施、
 (アイテム分類*工具破損チッピング多発工具、短命数工具、工具原単位高価工具、工具関連加工不良多発工具、切屑処理困難工具など)
・アイテムごとの改善計画(担当、日程)設定する。
3ステップ 代表アイテムの
モデル改善実施
工具命数延長
改善
工具交換時間
短縮の改善など
・改善アイテムから命数延長改善、工具交換時間短縮などの「代表モデル改善テーマ」を設定し、チームで取組む。
・命数延長改善の手順は下記のステップ参照
・各改善結果を事例としてまとめ、「工具改善マニュアル」とする。
4ステップ アイテムの改善
実施拡大
工法改善アイテム
の実施
・「工具改善マニュアル」に基づき、アイテムの改善を拡大する。
・工法改善アイテムに取組む。
 (加工回数の極少化、加工速度アップ化、無切削化、取代極少化など)
・昼休み無人運転化への工具命数延長、切屑処理、自動工具交換化などの改善取組み。
5ステップ 工具管理改善
再研削改善
工具MP情報整理
・工具管理方法、再研削方法の改善を実施する。
・工具MP情報を整理発行する。

 

4.切削工具命数延長の活動ステップ

 工具破損、チッピング及び工具の命数延長の改善は次のステップで実施する。

ステップ 活動名 活 動 内  容
1ステップ 現状把握 ・活動メンバー、活動計画を設定する。
・過去の工具破損、工具命数の実態整理
・工具命数設定の条件調査、命数と加工品質の関連調査
・切削条件の確認調査
・工具原単位、工具交換時間調査
2ステップ 設備基本条件
工具保持条件
の総点検
・工具交換方法(クランプ締付け方法、寸法確認方法)の調査
(工具取付け面の当り、締付けトルク)
・切屑の出方、切削液の掛かり方の調査
・設備基本条件の調査
(主軸振れ、ツールスライドのガタ、加工物の振れ、加工物のクランプなど)
・以上の調査結果不具合部の復元実施
3ステップ 要因解析と
調査、復元
・工具破損、チッピングの要因解析実施(PM分析)
・要因の調査と不具合の復元対策の実施
・刃先の切削振動と工具(又は加工物)の固有振動周波数の測定実施
・切削時の「有効電力値」を測定
4ステップ 切削条件の
最適化
工具材質の改善
・切削振動、有効電力値から最適切削条件(切削速度、送り、切込)を設定し直す。
・工具材質(コーテイング含む)の変更とトライアル実施
・再研削基準の設定
5ステップ 寿命判定の状態
監視化
交換基準化
・命数の最適値の設定
・有効電力値による状態監視命数設定方法化(ガンドリルなど)
・工具原単位効果、工具交換ロス時間の効果を確認
・工具MP情報に整理発行

筆者の[TPM活動]総合目次に行く