管理者教育(『外食業「王道」の経営』渥美俊一:柴田書店から)
【幹部に共通する欠陥】
@問題意識がない
…会社が何を目ざして努力を続けているのか、現在の重点政策課題は何かという軌道を理解し、その軌道からそれつつある事象を問題点として発見することができない。すなわち、経営政策について認識がないために問題点がわからない(観察力欠如)し、当然に解決策は間違った方向に行ってしまう。
A計数知識がない
…ビジネスは計数に基づくことはだれでも知っている。ビジネスで普通使う経営計数は、経営効率と呼ばれる算術である。足し算と引き算とかけ算と割り算ができれば誰でもできる。それなのに、数字問題から逃げたがる。だから分析(原因の推定)も制御の力もつくはずがない。
B報酬観念がない
…報酬とは、どのような仕事をいかにしとげたか、の対価であるのに、職場にただいるだけで貰えるものと思っている。
C基本的な技術と技能がない
…現場から学ぶ作業を軽視し、熟練どころか完全に実行できる作業は数えるほどしかない。だから、部下に対して、作業の段取りや計画の作成を指導することができない。
D動機主義
…ビジネスは成果でのみ評価されるものなのに、「熱心」あるいは「まじめ」といったような抽象的ななことばで判断がなされる。
E管理職意識
…肩書きをいわば論功賞的な意味合いでしか見ていない。
Fサラリーマン根性
…毎日同じ作業を繰り返すだけ。
まとめ…これとまったく逆の人間像が、管理者のあるべき姿である。
【幹部の弱点】
@表現の不正確さ
…「だいたい」、「一応」、「と思います」、といつた確信のない表現と「早く」、「ちゃんと」、「心を込めて」、「どんどん」、「だいぶ」などのような道徳的傾 向語が頻発されている。
A体系の欠如
…仕組み作りを創造し、絶えず改善と改革を積み重ねないかぎり、新しい創造は出てこないのに、トータルとしてまとまった仕組みは考えたこともなく、その場かぎりの思いつきをひねり出すことに熱心でありすぎる。
B現場作業の軽視
…ただあくせくと仕事をこなすだけで、現場作業の仕組みを変える着眼点がない。
C管理能力不足の管理者が大きな権限を握ってしまっている。
【大事な二つの言葉】
管理(マネジメント)…部下に作業をさせる
@稼働計画・作業割当
A部下の考課と教育
B労働法規上の労働条件を部下のために確保する。
制御(コントロール))…経営効率数値について、目標と計画とを一致させられる
@進行中の数字を確認して
A命令の変更と教育の追加とによって
B作業内容を変更し
C計画通りの目標数値を達成する
【管理能力の六要素】
@素質
…向き・不向き
A教養
…未知の分野に挑戦できる基礎的な理解力のこと(一生をかけて、この教養蓄積と取り組む)
B知識
…学校で学んだ知識は、ビジネス社会で技術上の知識を習得するための、準備知識でしかない。技術知識は、生涯をかけて学び続けていかなければならないものである。
C経験
…体験が能力に結びついたとき、経験となる。そのためには、完全に、現在の職務(命令で要求されている仕事の種類)と作業とを習得する。習得するとは、み ずから完全にルールどおりに実行でき、さらにただちに採用される改善策が出せるようになる、という意味で、記憶したとか、ひととおりできるようになったということではない。さらにどんどん配置転換を受けて、他種類の職務と作業を習得することである。
Dリーダーシップ
…他者から敬服される状態。このリーダーシップがないかぎり、専門家(スペシャリスト)には任命されない。二十代で教養や知識や経験が傑出するはずもない。ハードワークをやってのけられることが、第一歩である。
E意欲
…合理的で科学的な思考を身につけるために生涯をかけること。
【技術と教育と自己育成の段階(生涯学習・生涯能力開発)】
二十歳代(作業習得時代)
教育課題(すべての現場作業を完全にマスターできたか)
@現場作業をすべて習得する
A基本理論を体で理解する
こなし方
@自分で完全にどの作業もできる
A採用される提案ができる
B実務と論理と数字が一致する
三十歳代(技術習得時代)
教育課程(部下を使いこなして目標を実現する)
@経営効率数値を制御(コントロール)できる…部門予算の利益を確保する。
A管理(マネジメント)ができる
B長として作業モデルができる
即ち ○規範となる技能がある ○経営効率数値を維持できる
こなし方
@経営効率数値を変化させられる
A部下を使いこなせる
(注)
数字は作業(作業種類とその順序と作業自体のやり方)を変えることによってのみ、変化する。なぜなら、数値は作業の結果だからである。作業をあるべき形に変更するには、変更案を起案したり決定すべき人物が、もともと作業を完全に理解し習得していなければならないのである。
四十歳代(技術で社会へ貢献する時代)
教育課程(数値責任を果たすために、システムをつくれる、あるいは修正できる)
@経営管理(アドミニストレーション)ができる
こなし方
@システムが直せる、つくれる
A数値責任を負う
B五年後のありかた(改善策と改革案の作成)に基づいて、現在を行動できる
Cトータルな総合効果を予測し、重大な意志決定ができる
(注)
@卓越…部下を上回る技術があること
A一番…例え範囲は狭くも、社内ばかりでなく社外においても抜きんでていること
B熟練…長期にわたって蓄積されていること
C挑戦…新しい分野に対して果敢に取り組んでいること
D開拓…経営考課数値を変化させられるこ