2005年
6月 4日・5日



甲武信岳という山の名前は実に響きがよい。
その名を知ったのは、まだ奥多摩湖ができあがっていない頃
奥多摩の山や沢を一人で歩いていた頃だった。

雲取山から奥秩父へ繋がる尾根筋を辿るとその最も奥に素晴らしい山がある
という印象を持っていたのを思い出す。

とにかく奥秩父の山を代表するのにふさわしい名前なのである。
しかも信濃川の源流千曲川、富士川の源流笛吹川、
そして荒川の源流入川の分水嶺でもある。

これらの川は日本海に、駿河湾にそして東京湾に注ぐ大河である。
その流れを目に浮かべるとき、この山の存在感をまた新たにする。


6月4日前日の天気予報では良くて曇りと思っていたが、
中央高速をバスで移動中に甲府を過ぎる頃から青空が見えてきて、
南アルプスの山も八ヶ岳も見えているではないか。

素晴らしい山行を予感しながら、佐久甲州街道をへて川上村に入り、
高原野菜の畑の大パノラマに圧倒されながら千曲川に沿って上流に向かう。

晴れた空に男山・天狗山などを眺めながら進み、
三国峠への林道との分岐点を過ぎて直ぐに毛木平の駐車場に着く。

ここへの道や駐車場、そして山道を取り巻く林は、
低木で日の光が射し込む程度の明るい林になっている。
そして下草は一面のベニバナイチヤクソウの花で埋め尽くされているではないか。

花一つひとつを見れば小さな花ではあるが、
これだけ群生していると迫力が有り見応えがする。




11時少し前に駐車場に到着し、ストレッチをして歩き出す。
柔らかい日の光が新緑の林を明るく照らして、
吸い込む空気が実に美味しい。

水源地までは緩い上り坂で快調に歩き千曲川水源地の標識のところで、
足の調子が悪く遅れたOさんを待ってゆっくり休息する。

一時間ほどして、Oさんもやがて追いつき再び歩き出す。
林の中の山道はここから急な登りになり、少しペースを落として進む。
やがて現れた頂上直下の少しガレた岩場をよじ登ると、
日本百名山甲武信岳と書かれた標識が建っていた。



頂上到着は16時40分頃、周囲を見渡すといつの間にか雲が覆っており、
わずかに南西の方角に国師ヶ岳と金峰山が大弛の峠を境に
雲の中に開いた額縁の中に、大きな山塊の姿をくっきりと描き出していた。



周囲の景色を愉しんだ後、
頂上から15分ほど下ると山道から小屋の屋根が少し見えてくる。
17時10分甲武信岳小屋に到着。
小屋(収容人数は150名)はすでに満員に近い状態、場所割りをして貰い、
二階の隅に一人半畳ほどの寝場所を貰う。

後で聞いた話だがこの日は160人宿泊、翌日の日曜日は180人の予約があるということだ。
ひと落ち着きしてビールを一本ゆっくりと味わっている内に、
夕食の知らせが来て名物のカレーライスを流し込む、フルーツのデザートも実に美味しい。

この日は7時過ぎには寝床に潜り込み、直ぐ寝てしまった。

山小屋の朝は早い。 何となくざわめく雰囲気で目を覚ますが、まだ3時過ぎ。
我々の出発は6時なので、しばらく寝床に居てからゆっくりと出発の準備に取りかかる。
朝食も最後に取って、小屋のあるじの徳さんに見送られて出発する。
今日のコースは木賊山を越えて戸渡尾根を下り、徳ちゃん新道を経て
西沢山荘へ下る。

徳さんから尾根道のシャクナゲが見頃だという話を聞いているので、
期待しながらまずは木賊山への登りを歩く。

今年は雪が多かったためか、山頂近くの登山道にはまだ多くの雪が凍り付いて残っている。
樹林帯を抜けると昨日越えた甲武信の円錐形の山頂が
控えめに尾根の上に乗っているのが見え、その先に三宝山がどっしりとあった。

一方昨日山頂からわずかに見えた国師ヶ岳や金峰山も朝日を受けてよく見え、
大弛峠に通じる林道も斜めの線となってはっきりと見えた。
今日も天気が良さそうだ。

30分で木賊山の頂上に着き、少し休んでさらに尾根を下る。
しばらく下ると登山道に覆い被さるようにアズマシャクナゲが咲いており、
その濃いピンクの色が美しい。















この尾根の下りはそれから徳ちゃん新道の終わる唐松の林に入るまで、
満開のシャクナゲの中を花に見とれながら歩き、
カメラを出したり入れたりと構図をしっかり決めるまもなく、シャッターを切るのに忙しかった。

シャクナゲの道を過ぎると道は唐松の林の中に入り、
新緑の葉を通して日の光が射し込んでおり、
周囲の空気までが黄緑になっている。



そして右手の木の間にその名の通りとさかの形をした鶏冠尾根が見えて、
やがて10時半頃西沢渓谷の探勝路に出た。

ここからは広い道を西沢山荘の前を通り、
バスが来ている東沢山荘の前まで軽快に歩く。

帰路は近くの山梨市(もと牧丘町)の花かげの湯で汗を流し、
昼食を取る。

ここで生ビールと山菜天ぷらざるそばを頼んだのだが、
やがて運ばれてきたのが山菜の天ぷらが大皿に山盛りのボリューム。
驚きながら食べた山菜の天ぷらは山菜の香りがさくさくした衣の中に閉じこめられていて、
実においしかった。





山旅のアルバム
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