税制

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2002年12月9日(月) 「所得税制と勤労意欲」 佐和隆光(京大経済研究所所長)ダイヤモンド社「経」12月号より
 経済システムの善し悪しを測る指標には「効率」と「公正」の二つがある。80年代には効率のみを追求すべきであるとの通念が支配的となった。効率化に よって所得格差が広がっても最貧層にも成長のおこぼれがしたたり落ちるはずだというのが「トリックル・ダウン経済学」と呼ばれ、効率化が公正を犠牲にしな いことを正当化するために欠かせぬ前提とされる。しかしながら、ポスト工業化社会では階層間の所得格差が果てしなく拡大する傾きが強い。トリックル・ダウ ンする所得は雀の涙程度である。
 「公正」の意味のひとつはフェアネスであり「ルールを守る」ことを意味する。もう一つは「平等」という意味である。「平等」には結果平等(所得分配の平 等)、と機会平等という二つの意味がある。80年代以降、結果平等を志向すれば社会の活力は低下する(効率性が損なわれる)として、市場主義者達の批判の 標的に据えられてきた。日本経済の長期低迷の原因の一つはこの国にはびこる平等主義のせいである、との言説が巾を利かせてきた。もうひとつの機会平等につ いては二世議員、オーナー企業の世襲制、地方公立高校の進学不利などを見ると、少なくとも日本では機会平等とはとても言えない。
 だとすれば結果として生じた所得分配の不平等のうち幾分かは機会不平等に起因するのだからその分を累進所得税制によりつみ取るべきである。累進所得税制 は「公正」な社会にとって必要な装置であることを認めざるを得ない。以上はハーバードのジョン・ケネス・ガルブレイス教授の説である。ところで日本のエコ ノミストの多くは80年代の英米で流行した市場原理主義者の素朴な信奉者が多く「所得税率の累進度をもっと緩和すべきである」と主張する。目下税制改革に ついての議論が盛んだが累進所得税制は社会の活力を低下させる元凶のように言われる。所得税率をできるだけ下げて、税収に占める消費税の比率を高めるべき である。言い換えれば税の直間比率を是正すべきである、と主張するエコノミストが多い。
 このような市場主義エコノミストは「勤労意欲の源泉は所得格差である」という命題を前提に据えている。そうでなく、人間は自分のやっている仕事の社会的 意義を実感できるか否か。仕事に熱中できるか否か、等々が働きがいの決め手になる。保守(市場)主義者は機会平等さえ確保されていればそれで十分であると いう。結果として生じる所得格差は個々人の能力や努力のたまものなのだから、それを累進所得税制でつみ取ることこそが「不公平」なのだという。他方、リベ ラリスト(ケインズ主義者)は機会不平等を補完させる役割を累進所得税制に担わせるべきだと言う。
 現在日本の最高限界税率(地方税を含む)は50%である。これが70%を超えていた80年代前半まで日本人の勤労意欲は貧しくなかった。「追いつき追い 越せ」の情熱をたぎらせていたそのころまでの日本人は「働きがい」を実感できたからである。日本人の勤労意欲の低下は87年から90年にかけてのバブル経 済期を経て後のことだった。目標がかなえられ達成感に酔いしれたことが日本人の勤労意欲の減衰の一因である。90年代に入って最高限界税率が大幅に下げら れたが、勤労意欲が高まった形跡は見あたらない。総じて日本人はアメリカ人や中国人と違ってお金に無頓着である。中高生や大学生には「学び甲斐」を、勤労 者にとっての「働き甲斐」をとりもどすこと、これこそが日本経済再活性化のための必要条件の一つだ。 −以上 佐和隆光「所得税制と勤労意欲」より。
 
 私は累進課税は不合理だと思う。国のサービスは税金を沢山払ったところで良くなるわけではない。だとすると「人頭税」で良いではないか。そして昔クロヨ ンとかトーゴーサンと言われた所得税の捕捉率の問題も相変わらず存在すると思うので、間接税のほうが公平だ。暴動や革命や犯罪を抗止するレベルの再分配は 必要だろう。贈与税をうんと高くすることは機会平等だ。そうするとカネは滞留せず本人あるいは誰かのために使われる。資源に限りのある不動産も再分配がで きる。
 働きがいについて。働くことの意味が分かりにくくなった。一生懸命米を作っても喜ばれない時代だ。100円ショップや安価な衣料が海外から輸入され、モ ノの価値が不明確になった。ただ額に汗して頑張ればだれかが喜び、自分も達成感が得られるような単純な世の中ではないのだ。誰かの役に立っていると信じう る仕事が果たしてどれだけあるだろうか。
 豊かな生活とはなにか。ヒトは何を求めているのか。結論として「アイ」も「カネ」も「存在の意味」も求めているんだろう。「カネのために働くに非ず」な どと言ってはいけない。カネのために働くことを「働く」と言うのだ。存在はもちろんカネのためではない。偉い学者の分かり易い話に触発されてここまで自分 で書いておきながらいささかうんざりしている私である。この学者の言を良く考えてみると、何の意味もない結論ではないか。

2002年12月10日(火) 「財政再建に有効な税制改革とは」 井堀利宏(東京大学経済研究課教授)ダイヤモンド社「経」12月号より
 90年以降国民の税負担の総額は低下している。90年度の国税の税収総額は63兆円であった。10年後の2000年度は49兆円に減少した。中でも所得 税は90年に50兆円在ったものが00年には26兆円とほぼ半減している。これは景気の低迷による減収もあるが多くが裁量的減税の結果である。消費税は 97年度に3%から5%に引き上げられたこともあって税収は増加している。2002年の国税と地方税を会わせた税負担を国民所得との対比で見ると22%で あり、90年以降で最低水準である。国際比較で見ても先進諸国では最低水準となっている。
 減税に見合う財源は公債の発行に依存された。人々の税負担を見ると減税のために発行された公債は償還のための増税が必要となり、その額はちょうど相殺さ れる。(リカードの中立命題) だからといって減税政策が無意味とは言えない。限界税率(所得と共に税負担がどれだけ増加するか)と平均税率(所得と税負 担の割合)の区別である。経済活動に悪影響を与えるのは、中長期的視点で言えば平均税率ではなく限界税率である。これは人々の労働供給や貯蓄、投資意欲に マイナスの影響を与える。しかし平均税率が高くても、限界税率が低ければ、経済活動にはあまり影響しない。
 小泉政権の是姿勢改革方針は、今後2年間で減税を先行させ、経済の活性化を図る。そのあとで税体系の抜本的な制度改正を行い、最後に財政赤字削減のため に必要最小限の増税も検討するというシナリオである。当面のマクロ経済活性化のための減税は歳出の削減によって捻出する。従って公共事業の削減、あるいは 特殊法人、たとえば道路公団の民営化等が主要な目標である。税収中立の制約の元でも課税ベースを拡大して限界税率を引き下げればマクロ経済の活性化にプラ スに働く。特に法人税の引き下げは活性化に繋がる。しかしその結果2%程度の潜在成長率が実現したとしても、それで得られる自然増収が財政赤字を削減する 効果は小さい。いずれは税負担の増加は避けられない。今の日本の租税負担率はアメリカ、ヨーロッパの人と比べると非常に低い。
 マクロの規模(対GDP比率)でみると日本の歳出規模はアメリカを少し上回っているがヨーロッパよりは遙かに低い水準である。国際比較で見てそれほど日 本の歳出は大きくない。歳出をどんどん減らすと今の税負担に見合ったレベルの財政規模まで押さえる。そうすると極端に小さな政府になる。少子高齢化社会に 社会保障の役割が極端に縮小することに、多くの国民が同意するだろうか。高額所得者は政府から受益をさほど受けていないので今よりももっと政府の歳出を減 らしてでも税負担は減った方がよいと考える。結論として限界税率を引き下げ平均税率を引き上げることは不可避である。 −以上井堀利宏教授による。

 どうやらこれが現在本流の経済学者の意見と見て良い。前々記事の佐和京大経済研究所所長が批判する「80年代の英米で流行した市場原理主義者の素朴な信奉者」というわけだ。

2002年12月16日 先行減税1兆8000億円−14日付け日経朝刊
 減税項目では、企業の研究開発・投資減税が1兆2千億円。研究費総額の10%〜12%を法人税額から差し引く。中小企業は3年間15%を適用。証券税制 では株式譲渡益、配当、株式投資信託の収益分配金にかかる税率を原則20%に統一し5年程度は一律10%に軽減する。土地関連税制は不動産売買による所有 権移転にかかる登録免許税の税率を5%から2%に下げたうえで来年度から3年間は1%に軽減する。不動産取得税の引き下げ、特別土地保有税の課税凍結な ど。相続税と贈与税では65歳以上の親から20歳以上の子に生前相続する場合、いったん払った贈与税を親の死亡時に相続税額から差し引いて精算する「一体 化方式」を創設。生前贈与の2千5百万円(住宅取得資金は3千5百万円)の非課税枠を設ける。増税項目では発泡酒とワインにかかる酒税を来年5月に10円 ずつ上げる。たぼこ税を来年7月に1本当たり1円引き上げる。所得税は配偶者特別控除を2004年1月に原則廃止するが22歳までの子への特定扶養控除は 存続する。課税最低限は現行の384万円(夫婦子供二人世帯)から325万円に下がる。赤字企業にも課税する外形標準課税は2004年度から資本金1億円 以上の企業に導入する。消費税は中小事業者の納税免除の売り上げ基準を三千万円から一千万円に引き下げる。簡易課税制度を活用できる事業者の売り上げ高基 準を2億円以下から5千万円以下に引き下げる。−以上日経朝刊より。
 
 日経では、シャウプ税制以来の改革という期待は裏切られたとしつつも、研究開発の恒久減税と証券税制の改革が部分的に進んだことの二点を評価し、今後の 税制について法人税の引き下げとベンチャー企業を支援する税制、消費税の引き上げ、社会補償費抑制を主張している。このあたりが経済界の要請と考えて良い だろう。法人税の引き下げは外形標準課税とトレードオフとしてよいのかもしれぬ。消費税の引き上げや社会補償費抑制というのは、累進課税の是正と富の再分 配の抑制、いわば富める者に有利な税制である。「がんばれば大金持ちになれる」というわけでもないから、この程度の税制改革で経済が活性化するとはとうて い思えない。税制と税の徴収について、まずは「公正さ」を目指すべきだ。
2002年9月8日(日)  広告税で雇用促進
 1日付けの本欄で500万人雇用すればよいとしたが、500万人雇用するためには年間30兆円が必要となる。国、都道府県、市町村が支出できるのは、雇 用促進による税収の増加を前提にいくら頑張っても10兆円というところか。消費税は個人所得税と法人税の減税と引き替えに、いずれ欧米並に15%程度にな ると思われるが、さらなる税収と雇用を同時に増やす案がここで述べる、「広告税」を初めとする増税案である。
 自治体に対する補助金は、国の政策を推進し地方自治体の投資を国家の政策に沿ったものに誘導することにある。一方税制にも同様の機能がある。例えば持ち 家の取得を推進するために住宅ローン支払い額の所得税からの控除が認められている。ただし個人や企業に特別な課税をすると徴収に手間がかかるという面があ るためか、納める側の申告に依存してもっぱら緩和措置が多いように思う。消費税はいわゆる贅沢品(例えばLCA評価の低いものを贅沢品と定義する)にはさ らに高い税率を設定すべきだと思う。貴金属、高級車、松坂牛など。商品毎に単価が一定以上の場合、税率が逓増するという方法が課税が容易だろう。
 車中の吊り広告、駅構内や道路脇の看板。ビルの屋上や壁面の看板やネオンサイン。アドバルーンや飛行船、宣伝カーや拡声装置を搭載した飛行機。街路や店 頭で配布されるチラシ、ビラのたぐい。テレビやラジオ放送のコマーシャル、商店の外まで聞こえる音楽や呼び込み。インターネット広告、チンドン屋やサンド イッチマンなど。氾濫する広告は情報伝達という利便性を差し引いても、景観を破壊し騒音をまき散らし全体として不快感を与えている。外国と比較してもこの ように無秩序に至る所に広告が氾濫している国は少ないのではないか。特にヨーロッパの風景と比べると、例えば我が国の幹線道路は無惨な状態である。
 さて、このような広告を忌避するひとつの提案が、「広告税」の創設である。例えば、一定サイズを超える看板は内容を問わず全てに広告税を適用するのだ。我が国の年間広告宣伝費は約6兆円である(注:広告調査ガイド  http://member.nifty.ne.jp/meikou/index.htm#TOP)。消費税以外に20%課税するとして1兆2000億円 で20万人の雇用創出となる。その多くは徴税人として雇用する。役人を増やすのではなく徴税システムは民間委託が可能だ。なお、広告税は例えば看板が掲げ られている限り継続的に徴収されることにすると、撤去や更新を促進する面もある。
 こうしてみると、忌避したいものは他にもいろいろある。例えば景観を損なっており各国で規制されているものでは(規制実体は不明確)、自動販売機、テレ ビアンテナ、電柱および電線(電話線やCATVケーブルを含む)、高架水槽など。例えば建ぺい率違反の建築物や用途地域違反については固定資産税を割り増 しする。農村地帯にある資材置き場や産廃仮置き場。都市では一定面積以下の区画。市街化区域の農地は宅地並課税というだけでは手ぬるい。用途地域や増税の 内容は市町村レベルで住民が判断すればよい。現在の用途地域の不透明な設定の方法など、問題は山積みであるが。

END