2020年01月


2020年01月11日 カルロスゴーンの功罪

 日産幹部はゴーン氏の17年間で140億の不正を容認していた。ゴーン氏の内部告発はルノーとの統合を阻止するために、日本の官僚と日産幹部が仕組んだと考えられる。ゴーン氏は自ら優良企業に立て直した日産には裏切られた気分であるだろう。

本文
 カルロスゴーンは1,990年にミシュランのCEOに就任し、1,996年にルノーにヘッドハンティングされ副社長になった。1,999年にはルノーが日産の株式の45%を取得したことによって日産の社長に就任した。当時日産には二兆円の負債があった。ゴーン氏は日産リバイバルプランという再生計画によって、国内の主要工場の閉鎖や大規模なリストラを断行したり、多くの関連会社を切り捨てるなどによって経営改革に成功した。ゴーン氏はその後ルノーの経営危機に伴い、フランス政府の財政支援のもとでルノーのCEOにも就任した。
 ゴーン氏は17年間日産のCEOを務め業績の伸長に多大な貢献をし昨年度の日産の売り上げは12兆円となり、子会社化した三菱自動車のCEOも兼務した。
 2,018年に内部告発によって不正が明るみに出たため日産のCEOを解任され、その後ルノーでも不正が発覚して役員を辞任している。

 カルロスゴーン氏の日産での容疑は、役員報酬の過少申告が90億円。この金融商品取引法違反では二度逮捕された。
また、自身の資産管理会社の通貨取引で生じた損失18.5億円を日産に付け替えたという特別背任。さらにオマーンの販売代理店に日産から支払われた38億円の一部を私的に流用したことが特別背任に問われ二度、計四度逮捕されたが、検察が拘留を続けるために逮捕を繰り返した面がある。
 ゴーン氏は一貫して無罪を主張し、海外の検察批判もあって条件付きで保釈中であったが、年末トルコ経由で生地レバノンに密出国し、日本時間で8日夜報道会見を行い、日本の検察の人権無視、非人道的な拘留を批判した。

 日本の検察の取り調べは、罪状を否認すれば拘留が長期に及び、連日長時間にわたって尋問されること、その間の面会が制限されること、諸外国と異なり弁護士が帯同できないことなどから、人質司法と批判されている。ゴーン氏は保釈中であったが、長期にわたり家族との面会を禁止されていた。
 ゴーン氏や妻キャロル氏の検察批判は一定の支持を得ていた。しかし日本から逃げださずにこのことを主張すれば支持が広がる可能性があっただろうが、逃走して裁判を放棄したことは、有罪を認めたともみなされかねない。

 ゴーン氏が日本で裁判を受けたとして、判決は実刑としても禁錮一年程度だったのではないか。大した罪状ではないのに、社会的制裁は既に十分に大きい。彼のCEOとしての実績から、服役後自由を獲得すれば再び大企業に招聘される可能性すらあった。ゴーン氏は今回の逃走によってその可能性をも失ったかもしれぬ。

 ゴーン氏は日産のCEOとしての報酬額が年間10億円程度であったが、少ないと考えていたことはよく知られている。日本国内の大企業のプロパー社長の報酬は創業者でない限り一億円程度であるので、ゴーン氏の所得は役員報酬としては国内ではトップレベルで高額報酬への批判もあったため、ゴーン氏の意に反して報酬額は抑制されていた。欧米のグローバル企業のCEOは数十億円の報酬は当たり前であり、このことは企業文化の違いを反映しているといえる。すなわち日本のプロパーの社長は圧倒的なリーダーシップを発揮するというよりも、社長以下年功序列で這い上がってきた幹部たちの合議制によって会社が運営されているため、トップが凡庸でも会社は大過ない。このようなリーダーの報酬は平役員と大差を付ける意味がない。一方欧米の経営者はブレーンを引き連れ企業内で人事権を含めて大きな力を持ってリーダーシップを発揮してゆく。株主が経営者を評価し、業績が期待値以下なら直ちに新たな経営者を連れてくる。すでに実績ある経営者を引き抜くためには莫大な報酬を払う。
 日産の倒産を救い12兆円を売り上げる会社にしたのはゴーン氏で、日産は彼が17年間で140億円の不正をさせないためには、報酬を倍の年20億円にすればよかった。日産にとってその程度は容易であったし、欧米の大企業の経営者と比べれば特段多いとも言えない額だ。

 ゴーン氏の不正については、日産のガバナンスが問われる。不正は役員などには知られていたとのことだ。日本では何が違法かゴーン氏に知らしめ是正させることは容易だったはずだ。それをしなかったのは隠蔽できると考えられていたからで、日産の幹部はゴーン氏と同罪だが、司法取引で起訴を免れた。

 ゴーン氏の内部告発のトリガーとなったのは、ルノーによる日産統合の動きだ。株主の利益を考えれば、統合によってルノーはフォルクスワーゲンとトヨタを凌ぐナンバーワン企業となって、一般論としても開発や製造の効率が高まり優位となることは間違いない。以下は想像であるが、日産プロパーの幹部たちはルノーの傘下でクビになることを恐れ、社員は欧米流の容赦ない人事処遇を恐れ、財務省は身内の大企業がフランスの手に落ちることを恐れ、結託してゴーン氏を排除するために不正を探し出して内部告発という手段をとったのだ。こう考えるのは私だけではないだろう。

 昨夜の会見の時、キャロル夫人は「日本は残酷だ」と周囲に語った。その気持ちを分からなくもない。
 ゴーン氏が去って日産はひとまずルノーに統合されることはなくなったが、特に北米での業績の悪化が明らかになっている。再びの危機の果てに結局ルノーに身売りせざるを得なくなることが懸念される。


END