2009年8月


 2009年8月19日  自民vs.民主

 月末投票の衆議院選挙では民主が勝つ。阿倍福田麻生が3代に亘ってリーダーシップを発揮できず、主として年金問題が政官への不信を拡大したため、政権政党が支持を失った。民主の政策は自民とたいした差がないのだが、金権の小沢が一歩退いて麻生より上品な鳩山がなんとなく頼もしくも見えて来て、「自民よりマシ」感が、国民にゆきわたったからだ。
 民主政権では支持基盤が大組合だから、派遣やパートの処遇改善や郵政改革は(正社員の処遇低下に反対する大組合のせいで)足踏みし、霞ヶ関の改革は多少希望が持てても自治体改革は(自治労が労働強化に反対して)進まず、外交は(関心が無いので)変わらず、財政も(どうして良いかわからないので)改革先送りで変わらず。1,2年後には中央省庁の再編と地方への一部財源の移管が行われる程度か。寄り合い民主党だが、みんな大臣になりたいから懸念された足の引っ張り合いも無く、次の参議院選挙までは鳩山政権が続くだろう。その後に消費増税があり緊縮財政に向かうあたりで大きな不祥事が無ければさらに3年ぐらい持つ、テな感じか。
 6年後GDPは大して伸びず、借金は減らず、失業率は減らず、はけ口を求めてアジア外交を始めるが、既に中国の強い影響下にあるアジア諸国は旨い汁を吸わせてくれるわけもなく、仕方なく米国から中国へごますり外交の比重を移してゆくのかもしれぬ。
 リーマンショックは新保守主義の敗北とされ「小さな政府」信奉者を吹っ飛ばしたが、かといってメガバンクや基幹産業保護のために莫大な財政出動をし続けていると、効率の悪い官僚組織をさらに増やすようなものだ。メガバンクが無責任な貸し出しを拡大したのは政府の保護政策の故だし、GMのようなメーカーは今後も厳しい生産管理と労務管理無くしては存続し得ない。
 今後資源がなく消費の規模も小さい我が国は、教育や研究開発にカネを掛けてモノやサービスの価値を高めることだ。安価な労働力で安く物を作って売りさばくようなことは誰でも出来るから、一時しのぎの商売である。情報化が世界の消費と労賃を均質化してゆくから、かの国の安い賃金もいずれは上昇する。そしてそのときこそ人の真の価値が問われる。だから長期的な視点で人の価値を最大限に高めることによってモノやサービスの価値を高めることが、個人とその集合体たる会社、ひいては国家の繁栄につながるのだ。。。。あまりにもまっとうな結論か。手っ取り早くは優秀な人や企業を世界から引き寄せ、その力が十分発揮できるような環境と仕組みを作ることである。


 2009年8月23日  人種差別をテーマにする米映画−最近のTV放映映画から。

 「クラッシュ」 2004年 アメリカ 監督ポール ハギス
 LAを舞台に、偶然関わりを持った人達の心の動きを描く。犯罪や事故を接点にして複数の物語を同時進行させていることからこの題名なのだ。LAという大都会の陰の部分を主な背景として、黒人やヒスパニックを含む様々な階層の人達のレイシズム(人種差別)に関わる心の動きを描いている。これが今もなおかほどに深刻なテーマであることに驚く。多数の黒人の閉塞的な状況とごく普通の白人達の黒人への醜い行為。結末はないが、LAの雪が等しく登場人物達に降るところで終わる。
 オバマ大統領が、自分の家へ入ろうとした黒人が、白人警官に逮捕されたことを「愚かしい」と発言して、彼のレイシスムへの敏感さをうかがい知れる出来事があったが、この問題にはむしろ過剰なほどの敏感さこそ必要だ。
オールシネマ「クラッシュ(2004)」

 「夜の大捜査線」 1967年アメリカ 監督ノーマン ジェイソン
 こちらは有名な映画。シドニーポワチエの出世作だ。ストーリーは平易というより陳腐なのだが、黒人を平手で殴って殴り返された老白人が悔し泣きするようなシーンに、レイシスムの根深さと恐ろしさを感じさせる。南部の田舎が舞台で1967年に公開された映画であるから、「クラッシュ」と違い昔話としてちょっと安心して見ていられる面もある。
 この映画の少し後の映画「イージーライダー(1969)」は私の世代がリアルタイムに体験した映画だが、北部から改造バイクで来た若者が、美しい南部の道を新しい音楽に乗って延々と走る様子は自由そのものの象徴だった。それが一発の銃声でバイクごとごろごろころがって骸と化したところで映画が終わる。南部の閉鎖的な社会がよそ者を問答無用で排除するような現実を伝えた映画だ。ハッピーエンドでないこの映画は当時ハリウッド映画の革命と云われた。レイシスムではないが自分とは異質なものを排除し、姿形が異なるだけで同じ人間として認められず力づくで排除するような感覚として似たようなものだ。当時朝日新聞の記者が南部を車で走って、(走っただけで)予想通りというか忠告通りにライフルで狙撃されたとの記事があった。イージーライダーの南部社会において、日本人がよそ者として排除されることを体得してきたのだが、当時大学生だった私の記憶に今も残っている。
 オールシネマ「夜の大捜査線(1967)」


END