2009年06月


2009年06月28日  「顧客はサービスを買っている」 諏訪良武著 2009.1.16発行 ダイヤモンド社
 以下の青文字はキーセンテンス。

 監修者序文
 サービス業は日本のGDPの7割を産み出しているにもかかわらず、生産性向上のための定義づけや分類、イノベーションを産み出す基盤となる研究が遅れている。そこで、近年サービスに科学的アプローチを適用し、体系化し、科学的、工学的な評価分析を行う「サービスサイエンス」が注目されるようになってきた。その推進の目的は、サービスを科学的に捕らえることだけでなく、実際のビジネスで効率よく、付加価値の高いサービスを適切にお客様に提供してゆくことにある。

 はじめに
 著者は、オムロンの製品やシステムのメンテナンスを行うオムロンフィールドエンジニアリングの改革を担当した。この会社ではきわめて緊急度の高い保守サービスが要求され、2000人が全国150カ所の拠点から保守サービスを提供している。基本に忠実に企業改革に取り組むことにし、現場の問題を徹底的に掘り起こしてみた。また、お客様のニーズや問題点を詳細にヒアリングした。次に「現場の見える化」と「サービスの見える化」に取り組んだ。これらの取り組みは予想以上に価値ある成果をもたらした。本書は、この企業改革を通じて経験したことに基づき、サービスを分析的に論じている。

1.いまや企業は全てサービス業である
 
[現状}
 
サービス業が成功するためには、お客様に満足して頂くことが必要である。そのためには、その前提となる従業員満足(ES)を高めなければならない。
 レベルの低いサービスが世の中に氾濫している。また、サービスがおまけとして扱われている業界もあり、サービス業は成熟した事業になっていない。サービスには値頃感がない。理由として、コストの内訳が分かり難いことがあげられる。
 日本の企業文化はプロダクトアウト発想で運営されており、いい商品(サービス)を作れば売れると考えている企業が多く、いい商品(サービス)作りが何よりも優先されている。しかしサービスはハードウェア製品と比較するとお客様の期待される内容が様々なため、いいサービスだと思ったことが余計なお世話になってしまうことも少なくない。サービスはお客様が何を期待されているかを理解することから始まる。産業界におけるサービスの位置づけが高まっている。
 パソコンのようなマーケットでメジャーな商品は、激烈な競争の結果殆どのメーカーのパソコンがコモディティ化(ありふれ化)している。これに対して、パソコンのアフターサービスはメーカー間で大きな差がある。これが販売の大きな差別化ポイントになっている。これからはサービスに力を入れているメーカーが勝利を収める可能性が高いと言える。また、サービスは毎年売上が期待できる「ストックビジネス」になりやすい。「フロービジネス」だけではリスクが高いので、賢明な経営者はストックビジネスを意識している。また、アフターサービスのお客様満足が高井と新しい商談を受注する際の大きなインセンティブになる。
 製造業のサービス化に含まれる要素として、以下があげられる。
 @製品販売だけで収益を得るのではなく、アフターサービスのように継続的に利便性を提供し収益を得るビジネスモデルを重視
 A製品だけではなく、お客様の課題を解決するソリューションを提供することで他社と差別化する。
 B製品そのものを売るのではなくコインランドリーやレンタカーのように必要なときにだけサービスを利用してもらうビジネスモデルを採用。

[サービスサイエンスの成り立ち]
 2002年末に「サービスサイエンス」という言葉がIBMと米国の大学で議論されはじめ、IBMが「サービスサイエンス、マネジメント・アンド・エンジニアリング」(SSME)という新たな分野を構想し、研究と普及に乗り出した。
 
2.分類するとサービスの特性が見えてくる
  約450種のサービス業は、基本メニュー21個で分類することができ、これを整理すると「モノ提供サービス」と「情報提供サービス」と、「快適提供サービス」に分類できる。サービス業はこれらの複合サービスになっている。製品の素材や部品を提供するメーカーも快適提供サービスや情報提供サービスを使って事業を強化してきている。

 「快適提供サービス」は、「安心」と「楽」と「自己実現」に分類することができる。製造業はモノ提供の比重が高いサービス業だと解釈すると他のサービス業と同じ土俵で議論できることもわかった。レストランや配送業、レンタル業、ホテル業もモノ提供サービスの仲間に入れてみた。こうなると全ての産業はサービス業であると言うことができる。
 
 サービスそのものを分類するためには、分類軸が必要である。以下のような分類軸を考えるとおもしろい考察につながり、サービスの特性を知るための有効な方法である。

 @「手順型と気づき型」
 A「ロースキル型とハイスキル型」
 B「個人型サービス」と「組織型サービス」
 C「お客様受け身型サービス」と「お客様参加型サービス」
 D「当たり前サービス」と「期待度大サービス」
 E「リピートサービス」と「その都度サービス」
 F「パブリックサービス」と「会員制サービス」
 G「自分でできるサービス」と「自分でできないサービス」
 H「実務サービス」と「感動サービス」
 I「実務サービス」と「自己実現サービス」

 サービスの土台は標準サービスであり、一律サービスである。これは大半のお客様が期待されている共通の要求に確実に応えるサービスである。これをしっかりと運営するためにはマニュアルとトレーニングが必要である。ただし標準サービスや一律サービスには「余計なお世話」が多くなりやすいことに注意しなければならない。

 マニュアルサービスも作り方を工夫すれば個別的な要求に応えるサービスでもその品質を高めることが可能である。その上で、1人ひとりの顧客の要求に応えるワン・トゥー・ワンサービスが提供できる。現場を任されているサービススタッフがワン・トゥー・ワンサービスを創意工夫して提供することをクリエーティブサービスと呼んでいる。簡単なサービスでも私だけのためのサービスであることにお客様は感動するのである。標準サービスと比較すると、感動するサービスやホスピタリティを感じる度合いが大きい。

 3.分解するとサービスの要素がみえてくる

 ビジネスを分解するとモノとサービスとブランドに分けられる。一流企業間でモノ部分で差を付けることは困難な時代になっている。サービスにはまだまだ工夫の余地がありここが大きな差別化要素になっている。また、契約してつき合ってみないと価値がわからないサービスの比重が高くなるとブランドの重要性が高くなる。「この会社のサービスはすごい」という評価が定着するとひとり勝ち状態を実現できる可能性が高まる。

 サービスをサービス提供プロセスに分解してみる。各プロセスで工夫すべきポイントを議論してゆくとやるべきことが具体化できる。つまりサービスプロセスを詳細プロセスに分解して競合企業と比較すれば、やるべきことがわかる。

 次に、分解したプロセスを「見える化」する。マネージャーから「見える化」するだけでなくお客様から「見える化」する。このことによって筆者の保守サービス会社は大きな成果を出すことができた。

 サービスの分解はプロセスの分解だけではない。サービスはサービスメニューの中心となるコアサービスと、お客様への情報提供のような附帯サービス、さらに突発的な要求に応える臨機応変サービスに分解できる。一般にコアサービスで大きな差がつくことはない。臨機応変サービスを提供するには社員に自立的な判断力と本当の実力が備わっていることが要求される。またその実力を発揮するチャンスがまれなため、附帯サービスで創造的な工夫をしなければならない。

 サービス品質は、「正確性」「迅速性」「柔軟性(千差万別の客の要求に応える)」「共感性(客が何を望んでいるかを把握する)」「安心感「」「好印象」の6つの評価軸で管理してゆくべきである。正確性や迅速性は成果品質に大きな影響を与えるサービス品質であり、好印象や安心感はプロセス品質に大きな影響を与えるサービス品質である。ハイレベルなサービスを実現したいのなら、共感性と柔軟性が重要である。なぜなら顧客満足はお客様の事前期待に対してサービスの評価が大きく上回ったかどうかで決まる。つまりお客様の事前期待を把握するために必要なのが共感性であり、その期待に柔軟に応えることができる事ができれば、お客様はそのサービスにホスピタリティを感じる。

 製造業は秒単位であるのに、サービスは時間や日単位でマネジメントされている。これではサービスの効率は向上しない。

 4. モデル化するとサービスの骨格が見えてくる

 製造業では部品や材料は仕入れ時に厳選するが、サービスの材料は客の課題である。製造業とサービス業は全く性格の違うプロセスから成り立っているが、殆どの会社は製造業文化によってサービス業をマネージメントしている。
 製造業で製品設計情報を作成していないという会社はないが、サービス業の多くは実はサービス設計の専門組織を持っていない。片手間にやっていたり現場に丸投げにしている。
 サービス業の利益を獲得するモデルについて。まず、従業員が実力を発揮できる環境を整える。すると従業員ロイヤルティが醸成され、業務改善が継続的に実施される。するとサービス品質や生産性が向上しお客様はサービスに高い価値を感じるようになる。そして、それがCSの工場につながり、カスタマーロイヤリティが醸成され、リピート発注が増えて売り上げの増加につながる。その結果収益が向上する。このループがうまく回ってゆくとっこきゃくまんぞくはどんどん向上し、利益も増えてゆく。
 サービスは見えないために議論するのが難しい。サービスのモデル化はこの難しさをかなり軽減してくれる。自社のサービスをモデル化するとサービスの骨格を明確にして間違った結論を出すリスクを極小化できる。

5.サービスの論理をマスターすれば勝てる
 サービスそのものは目に見えないため、サービスの提供プロセスを見えるように工夫することが大切である。
 サービスは生産と消費が同時に行われる。在もできないし出荷検査で欠陥を取り除いたり、高価な装置を導入してサービスの品質を劇的に高めることもできない。また生産と消費が同時であるということは、お客様が必要とされる時に必要な場所でサービスを提供しなければならないことにつながっている。サービスは企業の総合力が問われ、高いサービス品質を維持することは大変難しいが、一方一度トップに上り詰めると、後発企業がが追いつくのは容易でない。
 サービスはお客様との共同作業で作り上げてゆく者が多い。サービスの原点はお客様を喜ばせること、そして楽しませることである。

6.サービスと顧客満足の鍵を握る事前期待
サービスでお客様に喜んでいただくためにはお客様の事前期待に応えなければならない。しかし多人数のお客様にワントゥーワンで応えてゆくのではあまりに効率が悪い。従ってこのような場合はお客様を分類してサービスの対象になる顧客セグメントを絞り込む。つまり、お客様の以前期待で分類する。そしてこの顧客セグメント毎に顧客満足を高めるための具体策を検討して実施してゆくべきである。

7.事前期待のマネジメント
 企業のサービス提供者は社員だけでなく派遣会社、関係会社の社員、代理店の社員など多くの人が関係する。社員や派遣社員がしっかりと高品質のサービスを提供するためには、企業のビジネスインフラが整備され働きやすい環境が作られていることが大切である。そして高い社員満足の社員のサポートサービスを受けてパートナー企業のパートナー満足が高まるとパートナー企業の社員はお客様に高品質なサービスを提供するようになる。そして、高いサービスを何年も続けるとブランド力が高まり、サービス会社は永続的に繁栄できる環境が整う。

(以下略。豊富な事例は割愛した)


 私はしっかり読みたいと思った本は抜き書きする。メモをそのまま掲載した。

 昔からお世話になっているM社長が会社の若い人に勧めた本である。その若い人もぜひみんなに読ませたいと考えたのだが、私も全く同感。

 我が社の仕事は技術コンサルティグであるからサービス業であるのに、これまで社員の技術力を向上させるという一点の他にはなにも考えてこなかった。我々よりずっと規模が大きく経験豊富な同業他社も似たようなものだ。客とは何か、サービスとは何かということを殆ど考えたことがないということに気づかされた本というわけだ。


END