2007年5月


2007年5月2日(水) 公共事業から福祉医療へ

 連休に片付けものをしていたら、古い新聞の切り抜きが出てきた。2000年3月21日付け日本経済新聞、経済教室「公共事業から福祉医療へ」と題する、一橋大学名誉教授宮沢健一氏の署名記事である。公共事業と、福祉医療サービスの経済効果とを比較して、福祉医療ではマンパワー依存の高付加価値型の活動が多いため、所得増加の効果が強く表れ、波及効果を含めた経済投資効果は福祉医療分野のほうが大きいとし、今後資源配分、投資の重心を公共事業からこの分野に移すのが望ましい、というものだ。

 2000年3月当時、小泉総理の登場(2001年4月)はまだであったが、土地価格の下落によるバブル崩壊と、少子高齢化のために社会保障費の増大による財政困難が見込まれ、公共事業費の抑制が始まった時期である。当時私の関わる上下水道事業は未だ我が世の春であったが、下水道が都市部でほぼ完成し、大規模施設の建設が無くなり更新需要のみになることが明らかであった。このことに強い危機感を抱いていた人達もいたが、電機業界は物づくりから脱却しようとせず、事業の領域を広げることができなかった。資金力も人材も豊富な大企業にとっては、意志の問題だけであったのだが。

 福祉医療の一端を見聞するために、当時飯田橋駅ビルにあった介護サービスの常設展示場へ行ったり、その後大阪でも悪名高いWTC内の贅沢な展示場にもでかけた。生活のための食器類から、階段昇降機、車いすの類、衣料品、読書の補助装置、ホームオートメーションなど、日常生活のあらゆる場面での補助具や装置が展示されていた。2000年は介護保険制度が始まった年であり、行政がこのような展示や、また個人の住宅内の手すりなどの補助制度を始めた時期でもある。

 展示を見て、介護サービスで電機メーカーがすぐにでもやれることは、情報通信、ロボットのような先端技術を個人の生活の場へ供給することだと感じた。またたとえばスプーンひとつとってもあらゆる形のものがあって、要介護者が必要な製品やサービスは、規格化することができないことを知った。規格大量生産では対応困難な市場がそこにある。介護や福祉に関わる製品やサービスの供給は、人手を多く要し、いわば高付加価値型の製品なのだ。その製品は、常に使う相手の個別の状況を十分に判断する必要があり、製品というよりサービスというべきだろう。

表.生産誘発の波及効果(日経記事より)
一次効果 追加効果 総効果
公共事業 1.87 2.19 3.80
医療法人等 1.73 2.30 3.84
社会保険事務 1.77 2.25 3.81
社会福祉 1.46 2.43 3.79

 先の新聞記事にも、従来の伝統的な生産の工程、規模の最適化とは異なり、多種のニーズに対応可能な「活動の組み合わせと経済主体間の連結の最適化」の展開であり、ハードとソフトとを統合する事業化が促される、とある。新聞を読んだ当時、この文章はあまり印象に残らなかったが、展示をみた私の実感はその通りのことだった。

 政府や地方自治体を相手にしてきた大企業が、個人相手の事業が始められるわけもなく7年を経過したが、公共関連の事業規模は縮小の一途をたどっている。今後の地方自治体のサービスのなかで、福祉医療の事業分野は拡大する一方だ。単なるカネのばらまきではなく、事業の効率化をはかり、公平性を維持し、質を高めてゆくためには、事業の管理やモノの供給、評価など課題は山積みである。これらは一地方自治体で取り組むべき問題ではなく、むしろ大企業が提供するサービスとしたほうが良いのではないか。



END