2007年4月


2007年4月28日(土) 消費税

 久しぶりに税制の話である。東洋経済「経済塾」に昨年掲載された、早稲田大学野口悠紀雄教授の「消費税の社会保障目的税化はまやかし」というQ&A形式の記事から以下。

 06年度予算は一般会計歳出総額80兆円のうち、社会保障関係費は20兆円。社会保障費の歳出額を変えずに消費税の増税分をすべて社会保障費にあてるといっても、消費税以外の一般財源に余裕が生じて他の目的に使われることになる。したがって、消費税の社会保障目的税化というのは、増税に対する抵抗をなくすためのまやかしに過ぎない。

 社会保障費が増税に見合った額に増えるとすると問題ないように見える。そうではなく、増加する社会保障関係費を賄うためには様々な手段が動員されるべきであり、他の歳出の削減が重要な手段であるのに、本来削減されるべき経費が削減されない。それを認識しがたいことが問題である。

 さらに、「社会保障費は消費税で賄う」ということが目的とされれば財政当局に自動的な増税の手段を与えてしまう。消費税の税収は税率を変えなければほぼGDPと同じ率で増える。他方社会保障関係費は制度を変えなくてもGDPより高い率で増える。従って「消費税で社会保障」という関連づけをしてしまえば、消費税の税率を自動的に引き上げてゆかざるを得ない。こうして財政当局は社会保障関係費の財源を自動的に手に入れることになる。消費税の目的税化は大きな危険を孕んでいる。

 揮発油税収入は今後も順調に増加し、その伸び率はGDPの伸び率より高い。他方道路整備はほぼ完成の域に達しているので、必要な伸び率はGDPの伸び率より低くてしかるべきであるが、特定財源があると無駄な支出がなされることになる。特定財源や目的税は、税収増に伴って自動的に支出が増えることが問題である。揮発油税の一般財源化が先送りされたのは、小泉構造改革が見かけだけのものであったことの証拠である。(以上東洋経済2006.7.29付け記事から抜粋)

 こんなことは偉い経済学者が言うべき難しい話ではないのだが、偉くない人が言うには当たり前すぎて気恥ずかしいのかも知れない。議員も役人も、そのパワーの源は予算であるから、歳出の削減に熱心な人は少ない。参議院選挙が終われば、消費税率アップの話が出てくる。現在約10億円の消費税収入だが、将来消費税率を欧米並みの15%まで引き上げれば30億円となる。これを全額目的税化すれば社会保障費は30億円となり、めでたしめでたし、というわけだ。 


2007年4月28日(土) 医療問題
 医療市場というのは病院、製薬業界、医療検査、医療保険、医療機器メーカー、介護サービスなど、多岐にわたる。

 日本の医療市場は、他の事業同様FTAにより市場開放を求められ、既にアメリカ等の医療コンサルタントや医療保険会社の進出が始まっている。病院経営では、日本は世界に遅れを取っており、たとえばアメリカでは、マルチ・ホスピタルチェーンと呼ばれる民間病院経営会社が医療と経営の分離で飛躍を遂げてきた。業界最大手のコロンビア/HCAなどでは、有能な医療財務アナリストと医療マーケティングの専門家を多くそろえ、彼らは@徹底した費用分析調査A広域地域における医療ニーズに合致した医療サービスの供給システムの構築B投資額に見合った収益見通し、などについて詳細なレポートを提出している。日本の病院経営者の殆どは医師でしめられているが、ようやく日本でも医療経営コンサルタントたちが首都圏で開業し始めている。

 アメリカでは大手損害保険会社や健康維持組織(HMO)が、一定の金額で保健や医療を包括的に提供する管理医療(マネージドケア)事業を普及させており、患者と医療機関の間に入って医療の内容や質、コストを管理し、疾病毎に決められた治療ガイドラインに沿って、衣料機関で無駄な治療や検査、薬の投与が行われていないかをチェックしている。今後管理医療の考え方が推し進められていけば衣料機関を健保組合がランク付けすることになり、その結果病院間での競争が促進されることになる。

 医療機器は世界市場の15%、約2兆円が日本の市場規模であり、アメリカに次ぐ。日本が世界市場で優位を占めるのは画像診断装置と内視鏡ぐらいであり、国際市場で劣勢である。日本の医療機器メーカーの戦場はもっぱら国内市場でしかない。また、医療機器の標準化の遅れが指摘されている。今後高額医療機器に対する規制が強まり、競争が激しくなるとコストダウン圧力が高まる。

 医療の標準化については電子カルテの開発が厚生省によって勧められており、病名とコード化、薬剤と医療機器、材料のコード化が進行中である。これらは世界基準に合わせ、医療データ交換の国際規約や医療画像の通信規約に対応した規約に準じている。医薬品情報は記述用語は開発済みである。しかし標準化差具という点ではアメリカ、EUに大きく遅れをとっている。

 医薬品は新薬競争時代に突入しており、「新薬承認の国際基準」のガイドライン参加各国は、国際基準への適合かが義務づけられている。そのためひとつの新薬開発に300〜400億円の膨大な資金がかかり、世界ランキング20位以下の資金力のない医薬品メーカーがこの開発費を賄うことは不可能である。このため、売上高が1位か2位を確保できる製品を持つ医薬品メーカーのみが生き残り、他は消滅を余儀なくされる。日本の医薬品メーカーはトップ10圏外で、武田が14位、三共が19位にランクされているのみであり、日本は新薬開発において欧米に依存している事実がある。

 2001年に発行された「病院沈没」(宝島社文庫)による。データはちょっと古いが、初心者の医療ビジネス入門書としては事足りるだろう。日本のこと以上に、FTAによる経済侵略にさらされる発展途上国では、医療サービスのほぼすべてがすでに米欧のマーケットになっているだろうということを懸念する。一方、代理母の話題に象徴されるように、医療サービスもグローバルな時代となる予感がある。モロッコへ性転換手術を受けに行くような、法規制を逃れるためにリスクを取らざるを得ないという時代があったが、これからは保健会社に勧められて、「外科手術は安くてレベルの高いインドへゆく」というのも有りか。


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