2004年 9月

2004年9月25日(土)  「イギリス発、日本人が知らない日本」 緑ゆうこ 岩波アクティブ新書
 イギリス人が描いたかっての日本(人)のイメージ。「おもしろい優れものを作る人たち−だけど男は貧相で醜い−女は小さくて可愛いらしいが、男にサービスするだけの生活−不可解なしきたりや作法−しかし日本は清潔な文明国である。」
 戦後はビルマでの英国人捕虜に対する日本軍の残虐な行為のため日本は「異常な国」となり、現在の英国人にとっては雅子様の人格を否定する「女性蔑視」やイルカを虐殺する「動物虐待」の国なのである。普通の英国人に知られる日本はかってはフジヤマとゲイシャであり、現在はそれにアキハバラとシンカンセンが加わったが、それ以上ではない。


 作者は英国人の日本(人)像が、今なおかっての断片的な情報に基づく偏見だらけだと言いつつ、いつのまにか「発言しない日本」と言い、外からの目と称して日本の制度や習慣への海外の批判を紹介し、「自分の基準で判断するな」という。つまり英国人の誤解もひどいが日本人はそのことをほとんど知らず、相手を知らないと言う点では似たようなものだ、という。筆者はむしろ、海外の日本人感や日本批判の多くの部分に共感し、(愛国心ゆえに)この本で伝えたかったらしい。

 日本の刑事事件の99%が検察が勝訴するのは文明国では起こり得ない、日本の刑務所は動物園以下で人権無視、省庁記者クラブが排他的で官僚や政治家と癒着しており報道の自由を放棄している、など。
 しかり。国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ (憲法前文)。いろんなレベルでやるべきことをやってない。

 日本の政治家の報道"Offensive statements[失言] of a racist[人種差別], sexist[性差別] or chauvinistic character[同属的排他性] are almost routine[日常茶飯事] among Japanese politicians."
 Yasunori Nakasone(元総理大臣 中曽根康弘)"African and Hispanic Americans had been lowering America's intelligence level because of their low literacy rate[識字率] (he claimed 25%), and praised Japan's "racial homogeneity[単一民族性]" and working ethics[勤労意欲], claiming that American workers were lazy. [アメリカの労働者は怠け者だと主張している]"
 Shintaro Ishihara(東京都知事 石原慎太郎) "It is sinful for a woman to continue to live after she loses her reproductive capacity[生殖能力]."
 Seiichi Oota(自民党、福岡3区、元総務庁長官行革担当大臣 太田誠一)"Gang rape shows that the people who do it are still virile[精力がある]. I think that might make them close to normal."

 私もちょっと調べてみた。英語の日本紹介サイトJAPAN−GUIDEのforum(掲示板)のsocietyではGrowing sex-industry in Japan (reaction236)についで Is racism really an issue in japan? (reaction206)が二位。 Is Japan Sexist? は五位である(9/25現在)。海外から日本人がどのように見られているか、ということについて作者の意見は正しい、というよりも「日本が人種差別と女性蔑視の国である」ということは、英国のみならず海外の人々の多数意見であるようだ。

 このテーマでWEB検索中に見つけたサイト。WordIQ−”Ethnic issues in Japan”ブリタニカの「日本の少数民族問題」に関する解説である。拾い読みしてみるとなぜこれほど詳細なのか不思議、そしてなんとなく日本のracismを肯定しているように読める。ご参考まで。

2004年9月23日(木) 霞ヶ浦のアサザで地域社会を再生する−NPO法人アサザ基金代表理事飯島博(朝日新聞9.18記事より)
 アサザは万葉集にも詠まれた在来種の水草。群落が増えればヨシやガマなどの植生が岸辺によみがえり水質も浄化に向かう。このNPOの「100年後にトキが住める霞ヶ浦に」との合い言葉に、様々な霞ヶ浦再生事業に参加した住民は9年間で計9万人を超えた。流域の小学校では茨城、栃木、千葉の3県43市町村170の小学校で出前授業を続け、毎年1万人に語りかけてきた。
 役所も動かす。護岸を土で覆って植生を復元する事業を国土交通省が00,01年度11ヶ所34億円で実施した。文部科学省所管の小学校の観察池に国交省が1ヶ所20万円の資金を出したのも基金のアイデアだった。里山の林業者や霞ヶ浦の漁業者も巻き込みこの事業は03年施工の自然再生推進法のモデルと言われた。ばらばらな行政や企業、住民をつなぎ、地域社会を再生する。霞ヶ浦を日本の改革の先端地にした。
 NPO主催の飯島。「行政が国民に求めているのは合意形成というあきらめです。押し返すには夢の力が必要です。霞ヶ浦に小さな可能性をみつけ、ものすごく大きな夢を描き、多くの人と共有する。これはなかなかつぶせない。従来型の反対運動よりも大きな圧力になります。」

 浅瀬や湿原が大きな水質浄化能力を有することがようやく常識になりつつあるが、浅瀬の再生方法も国交省方式はやっぱり大規模土木工事であるという。このNPOは良いアイデアを実現し住民の支持を得て、行政を少し動かしつつあるようだ。
 8月末の暑いさなか、ある都市公園を散策したが、小さな噴水池と池に続くゆるい階段状の川が作られ、日差しの強い午後だったが子供が遊んでいた。私も友人と共に靴を脱ぎズボンの裾をまくって流れに入った。土も植物も全くない、磨かれた石とコンクリートの水路。水路から隔てられた芝と花壇。芝には除草剤がまかれているにちがいないし、水路の循環水は藻が繁殖しないように塩素が入っている。子供の笑い声と照りつける太陽となさけない都市公園への思いとが一緒くたになって次第に頭がくらくらしてきた。

2004年9月20日(日)  中村あゆみ
 「翼のおれたエンジェル」の中村あゆみだ。彼女=この曲はデビュー2年目の85年春のリリースだから私の世代の人ではない。だが、この曲が結構出来の良い曲で、あゆみはただのアイドルなのだがロッカーとしてプロモーションされたことが新鮮だったからヒットした。
 今日テレビに現在のあゆみが出演していた。まだ40歳になっていないのにほとんど若いときの面影がないのは、顔はいじってないといっていたから化粧のせいだ。目の周りを濃いめに化粧して眉をきれいに作ってしまったら、ゲジゲジ眉毛で一重タレ目の中村あゆみで無くなってしまう。
 目や眉は顔の印象を作ったり表情を伝えるもっとも大切な部分だ。それを化粧でいじると個性が希薄になる。印象を変えるために効果的だから入念にいじるのだろうが、外国人をみるようにみんな同じ顔に見えて、印象が薄い顔になる。
 
 今日のテーマは化粧だ。男の目で見て女性の手足は小振りで形がよいとセクシーだと思うが、長い爪はけっしてそうではない。マニキュアは比較的短い爪を形良く磨いて薄い色を塗る程度ならアクセントになり手全体を美しく見せる。ペディキュアは最近は爪の先の方だけ塗る女性が多くなったが、爪全体を塗る場合はよほど形の良い足でないとどんな色でも毒々しい印象になる。ピアスはどうか。男はたぶんイヤリングは良いがピアスは嫌いである。
 舞妓さんの白粉(おしろい)は、舞妓が白粉を塗るのではなく白粉を塗るから舞妓であるのだ。若い頃、女子大生の友人が、「大人なんだから外出するときは化粧をしたほうがよい」、と年長の女性に言われて憤慨していたことを思い出す。化粧しないと大人の女性でないという通念もある(あった)。

2004年9月4日(土)  「日本美術傑作の見方・感じ方」 PHP新書
 日本美術は、ローマやイタリアルネサンスの美術などと比較しても優れておりまた先んじていたという。著者の田中秀道は元東大教授、現東北大学大学院教授で西洋美術史の第一人者。日本美術にも斬新な論考を発表しているとのこと。「新しい歴史教科書を作る会」会長である。西洋の美術を専門としてきた学者が国粋的な政治運動のリーダーであることは興味深い。未だに西洋に弱い日本人というのは正しいが、誤った優越感の方がはるかに問題だ。日本の歴史の本質を知りきちんと批判することこそ日本人のアイデンティティーを大切にすることにつながる。
 [補足]「新しい歴史教科書」の日中戦争のところを読んでもらいたい。現在の日中関係を理解するためには何の足しにもならない。こんな教科書が使われてはいかんと思う。
「新しい歴史教科書」の内容 
http://www.tsukurukai.com/05_rekisi_text/rekisitext_index.html#
「批判」 http://www1.jca.apc.org/aml/200106/22352.html


 本題。著者は美術品の評価基準は特定の民族的、宗教的な感情に依拠しない古今東西に普遍の「人間性」「精神性」をどこまで深く表現しているか、ということに尽きると言う。そして日本の美術を西洋以上だとする。日本の美術品について、ほんの少しの有名なものだけしか知らない私であるが、中国や西洋の著名な彫刻や絵画と比べても、品格があったり人間性や感情を深く表現していたり、写実性があったり斬新さがあると感じることが多かった。日本の美術を知る多くの人がそう感じているとも思っていた。だから著者の主張には大いに共感する。美術書は数多いが美術品としての価値を明言しているものはほとんど見たことがない。著者が世界的にも一級品だという美術品を以下に紹介する。ぜひゆっくりこれらの実物を見てみたいものである。

 ◎はパルテノン神殿に残る彫像、ミケランジェロ、ダヴィンチ、レンブラント、フェルメール、ルーベンスらの最高傑作に相当するとしているもの。また著者が作家を推定しているものを☆で示す。

アルカイスム(古拙主義)600〜710
[止利仏師(鞍作止利=くらつくりのとり)]
 ☆法隆寺の五重塔をはじめとする建築  日本独自の伽藍配置でパルテノンに匹敵すると言う。
  「釈迦如来像=飛鳥大仏」(飛鳥寺)  後補の跡が著しい。
  「釈迦三尊像」(法隆寺金堂)
  「救世観音像=夢殿観音」(法隆寺夢殿)
[山口大口費=やまぐちのおおくちのあたい]
 ☆「四天王像」(法隆寺金堂)
◎☆「百済観音像」(法隆寺大宝蔵院)
[アノニマス=作者不詳]
  「弥勒菩薩半跏思惟像」(広隆寺) 新羅から聖徳太子追善のために贈られたもの。
  「弥勒菩薩半跏思惟像」(中宮寺) 日本で作られた。
  「玉虫厨子、捨身飼虎図」(法隆寺) 日本最古の絵画作品、最古の油絵
◎ 「法隆寺金堂壁画」  昭和24年に焼失。フレスコ画。作者は4名。釈迦浄土図は世界最高クラス。

クラシシスム(古典主義)710〜780
[当麻寺の仏師=氏名不詳の個人]
  「四天王像」(当麻寺)
  「五重塔初層塑像(釈迦涅槃)」(法隆寺五重塔)
  「維摩居士=ゆいまこじ」(法隆寺五重塔)
[将軍満幅] 当麻寺の仏師の弟子
  「八部衆像」(興福寺)   「阿修羅像」など
  「十大弟子像」(興福寺)   六体のみ現存
[国中連公麻呂=くになかのむらじきみまろ]
  「廬舎那仏=るしゃなぶつ」(東大寺)  大仏。1,180焼失。現在の大仏は江戸時代初期に作られた。
 ☆「執金剛神像=しっこんごうしんぞう」(東大寺三月堂)
  「不空羂索観音像=ふくうけんざくかんのんぞう」(東大寺三月堂)
◎☆「日光菩薩像」(東大寺三月堂)
◎☆「月光菩薩像」(東大寺三月堂)
◎☆「四天王像」(東大寺戒壇院)
 ☆「十二神将像」(新薬師寺)
◎☆「鑑真和上坐像」(唐招提寺)

バロック(動勢様式)(1,150〜1,300)
[康慶]運慶の父
  「善殊像」(興福寺南円堂)   法相六祖像の内
[運慶]
  「大日如来像」(奈良円城寺) 前時代のマニエリスム(様式主義)950〜1,010の形式性から脱し切れていない。
  「阿弥陀如来像」(伊豆・願成就院)      (同上)
  「阿弥陀如来像」(逗子・浄楽寺)「脇侍像」  (同上)
  「恵光童子像」(高野山・金剛峯寺)
  「制多迦童子像」(伊豆・願成就院)
  「八大童子像」(高野山・金剛峯寺) 二点は後代のもの
  「不動三尊像」(蓮華王院)  父康慶と制作
  「仁王像(吽形)」(東大寺南大門)運慶の作と言われてきたが統一感がない。一門一派の共同製作ではないか。
  「弥勒仏坐像」(興福寺北円堂)
 ☆「空海像」(高野山三宝院)
 ☆「大日如来像」(足利・光得寺)
◎ 「無著・世親像」(興福寺北円堂)
[快慶]
  「阿弥陀三尊像」(兵庫・浄土寺)
  「孔雀明王像」(高野山・金剛峯寺)
  「阿弥陀如来像」(東大寺俊乗堂)
  「僧形八幡神坐像」(東大寺八幡殿)
[定慶]
◎ 「金剛力士像(阿形)(吽形)」(興福寺)
  「十二神将像」(興福寺東金堂)
[湛慶]運慶の長男
  「千手観音坐像」(三十三間堂)  通称三十三間堂は妙法院蓮華王院本堂
◎☆「婆藪仙人像=ばすうせんにんぞう」(三十三間堂) この像の含まれる二十八部衆像は全て湛慶作と考えられ傑作。
◎☆「摩和羅女像」(三十三間堂)     (同上)
 ☆「風神」「雷神」(三十三間堂)
  「運慶像」「湛慶像」(六波羅蜜寺) 湛慶像は世界初の自分の肖像
  「重源上人像」(東大寺俊乗堂)
[康勝] 運慶の四男
◎ 「空也上人像」(京都・六波羅蜜寺)
[藤原信実]
 ☆「源頼朝」(神護寺) 「平重盛像」「藤原光能像」と共に父隆信の作とされている。頼朝像が優れている。
[住吉慶仁]
◎☆「平治物語絵詞」(東京国立博物館、ボストン美術館他)
[作者不詳または略]
  「信貴山縁起絵巻」
  「伴大納言絵巻」
  「源氏物語絵巻」
  「明恵上人像」(高野山)
  「山水屏風」(神護寺)

ロマンチシズム(浪漫主義)1,450〜1,600 
[雪舟]
  「秋冬山水図」(東京国立博物館)
  「山水長巻」(山口・毛利博物館)  「四季山水図」の内

ジャポニスム(日本様式)1,760〜1,945  
[俵屋宋達]
  「白象図」(京都・妙心寺養源院) 400年前のピカソ
  「松図襖」(京都・妙心寺養源院)
  「風神雷神図屏風」(建仁寺)
  「舞楽図屏風」(醍醐寺)
[尾形光琳]
  「燕子花屏風図=かきつばたびょうぶず」(東京・根津美術館)
  「紅白梅図屏風」(静岡・MOA美術館)
[河合玉堂]
  「凍雲篩雪図=とううんしせつず」(東京・川端康成記念館)
[喜多川歌麿]
  「ポッピンを吹く女」  「婦女人相十品」の内の一枚
  「浮気の相」     「婦人相学十躰」の内の一枚
[葛飾北斎] 北斎=東洲斎写楽
  「市川鰕蔵の竹村定之進」  歌舞伎役者の大首絵
  「二代目大谷鬼次の奴江戸兵衛」 (同上)
◎ 「富嶽三十六景」    七十歳を過ぎた作者の集大成。「神奈川沖浪裏」「信州諏訪湖」など。「神奈川沖浪裏」の海外での評価はモナリザに比肩する。
[安藤広重]
  「東海道五十三次」   「庄野」「蒲原」「日本橋」「藤沢」「吉野」「桑名」など。
  「江戸八景之内唐崎夜雨」
  「比良暮雪」
  「洗場」    「木曾街道六十九次之内」
/以上
 興福寺の仏像は質素な建物に一堂に並べられており、ゆっくり眺めることができる。近鉄奈良からすぐ近くだ。

END