2003年 9月

2003年9月15日(月) 米国、脱ダム報告。90年代米国で脱ダムが本格化したときの推進役二人について−朝日新聞2002.11.22朝刊記事より

■ 元内務相開墾局総裁、ダニエル・ピアード氏。ダム開発終了を宣言した。現在は環境団体全米オーデュポン協会副会長
 ダムの新設を取りやめ、既存ダムを撤去してきたのは、河川政策の費用対効果からだ。利水や治水はダムなどのコンクリートの構造物に頼るよりも、節水や湿地の保全などソフトな対策にシフトした方が長い目で見れば安上がりだと考えた。農業用水が過剰だったという事情もある。
 費用対効果は細かく検討する。農業への影響なら、作物の生産予測や消費市場との距離、輸送コストなどあらゆる角度の調査をした。環境面にも経済的な価値があり、例えばダムをやめることで、観光やカヌーなどがさかんになるような効用もある。そのことに官僚も政治家も気づき始めた。
 一方でダムを壊すのにもコストが掛かる。自然な流れを復元させるためにダム湖から放流すると、冷たい水が魚類に影響しかねず、つもった土砂が思うように流れないこともある。
 日本でも、ダムとダム以外の選択肢を幅広く示し、費用対効果を検証することが米国同様に必要だろう。また公共事業の仕組みを地方分権化し、地元の意見を繁栄するよう改めれば、政策の優先順位がきちんと出てくるはずだ。地方政府は間違えることもあるだろうが長期的には望ましい方向へ進むだろう。
 ブッシュ政権では幸い、国も州も予算が足りず、ダムを新設することはまずないだろう。ただ、対イラク政策とも共通していることだが、京都議定書の離脱など、環境政策が一国主義に陥っているのが問題だ。

■ 元アリゾナ州知事、ブルース・パビット氏。クリントン政権で93年から8年間、水資源開発や国立公園などを所管する内務省の長官。現在は弁護士。
 内務長官在任中は、川の再生を重視した。現状を単に守るのではなく、ダムを撤去し、自然な流れや魚類を取り戻そうと考えた。
 私たちは、ダムを進歩のシンボルと思ってきたが、サケが遡上を妨げられるなど環境面の壊滅的な影響が分かってきた。洪水地域がダムで守られたとして開発され、換えって被害が広がっていることも分かった。そこで、開発を規制することが大事だと考えた。
 政治家や官僚、エネルギー、建設業界から批判が強かった。政治家はダムを愛する。自分の州に予算が来なければよそに取られると考える。官僚も権力、予算獲得に繋がるダムを愛する。
 それでも、ダムに頼らない政策を進められたのは、世論に訴えた面が大きい。全ての過程を白日の元にさらすことが大事だ。様々な選択肢、情報を有権者に示すことで、議論が深まる。
 日本は国土が小さく、状況は米国と異なる面もあるだろうが、やはり地域全体の環境保全や種や生態系全体の健全性を考えるアプローチが必要だ。例えば日本では絶滅危惧種の問題が米国ほど重要だと考えられていないように映る。
 ブッシュ政権は、河川などの環境政策の後退を狙っている。ただ民主主義は民意によって推進される。議会がブレーキをかけてもいる。米国は石油中心できたため、新エネルギー開発などの取り組みが弱い。もっと草の根の動きも必要だ。

■ 米国の脱ダム政策に政権交代後も後退が見られない背景には、市民の監視や制度的な歯止めがある。まず環境問題を扱うNGOの存在が大きい。例えば全米野生生物連盟は、ダムの復活に繋がる可能性のある水資源開発法案が連邦議会に出された際ロビー活動を展開し、10月始めに秘訣に追い込んだ。力の源泉は毎年発酵する議員の「通信簿」。公共事業や環境関連の法案を巡る取り組みを冊子にし、有権者らに数百万部配っている。
 住民が開発事業に異議を唱え、裁判に訴えることも多い。環境アセスメントは規制や情報開示の面で開発側に厳しく、野生生物の保護規制も強いなど、住民が訴えやすい制度だからだ。米国内にあるダムは焼く7万5千。目的別では釣りやボートなどのレクリエーションが36%。防火・農業用ため池17%。洪水調節15%、生活・工業用水10%、かんがい10%、発電3%など。所有者は民間58%、地方自治体17%、州政府5%、連邦政府3%など。 −以上朝日新聞による。

[コメント] 以上は記事本文そのまま引用した。要約するとニュアンスが伝わらないほどに無駄がない。こういう記事こそが新聞の価値であるのに、スペースがあまりに小さく、情報量が少ない。具体的な事実やインタビューの内容の検証が殆どない。
 元開墾局総裁は開発担当官僚組織の長として、ダムはまず費用対効果から見て必要なしというが、この人の言う効果(=価値)の内容を知れば環境保護に対する強固な信念が読みとれる。元アリゾナ州知事は業界と官僚の抵抗が強かったが世論に訴えて脱ダム政策を進められた、という。いずれも体制内にあって変革を成した。アメリカのシステムは、この二人の経歴からも分かるが組織のトップが流動的であることだ。日本の官僚組織では組織と人が不可分で一体である。このことが「組織の存続」という最悪の組織目標を育む土壌になっている。どのような組織もそのような面があるとすれば、組織が自己否定したりミッションを自ら変革したりという機能を持つためには、人と組織を流動化することがひとつの有効な方法であるようだ。

END