最新スポーツカー事情

 NISSAN、GTーRが発表された。エンジン出力が480ps、トルクが60kgmという超怒級パワーである。これにぶつけてトヨタはレクサスISーFという423ps、51.5kgmの車を発売する。ランサエボ]、インプレッサWRXも相次いで発売され、久々の新作スポーツカーラッシュだ。それで、久々に現在の車の技術や性能やデザインについて知りたいと思った。車好きというより運転好きの私の車が13年目となり、そろそろ買い換えを迫られているという事情もある。NISSAN、GTーRを中心に、世界のスポーツカーのスペックを比べてみた。

 NISSANは新しいGTーRをスーパーカーと称しており、ニュルブルクリンクで7分38秒で走れることをその理由に挙げているが、早いだけではスーパーカーとは言えない。スーパーカーという言葉も古びた印象だが、たとえば一般人はほとんど手がでない価格、乗る人と乗る場所を選ぶ車、個性的なデザイン、早く走るための最高の技術を取り入れた車、熟練した職人がクラフトマンシップを発揮して作られた車、と定義すると、スーパーカーとはもはや速く走ることは目的というより結果のひとつに過ぎず、むしろ運転者の感性を満足させる芸術品であり、自分だけが所有できるという希少性を有する車であるといえる。フェラーリ、マセラッティ、ランボルギーニ、アストンマーチン、メルセデスマクラーレンポルシェGTシリーズ。高価な絵画のように、これらの車は、関心の無い人にとってはなんの役にも立たず、それどころか環境保護の時代にそぐわない無駄な存在、金持ちの道楽と見なされている。運転とは個人の欲求を満たすものに過ぎず、公道で速く走ることは他人に危険を及ぼし、騒音を出しガソリンを大量に消費するからである。だから知性と感性のはざまで、私自身も悩ましい気分がいつもつきまとう。車談義では、相手の車への関心度をはかりつつ、切り上げ時を判断するわけだ。道具としての車、手段としての車なら、1リッターカーやワンボックスカーである。プリウスに乗る人は環境に本当に良いかどうかということよりも、自己主張という目的のための車であり、スーパーカー党の反主流派だとも言える。(冗談)

 結論から先に言うと、NISSAN、GTーRはスカイラインク−ペとプラットフォームを共有し、スピ−ドを出しても安全に走るためのメカニズムを満載している。4人乗りとして十分な室内スペ−スと快適装備からみてお安い900万円弱という価格設定のために、性能もインテリアも人の感性を十文意満足させるための、本当の贅沢をしていないようだ。こういう車は、スーパースポーツすなわち、速く走るための技術をかなり取り入れた(が他はたいしたことない)車だと言える。

 NISSAN、GTーRのエクステリアについて。ボディデザインは、魅力的とは言い難い。有機的な線が乏しいからだ。アルミ製のエンジンリッド(ボンネット)はでかいエンジンに合わせて膨らんだが、この部分のデザインの破綻(!)が唯一のアクセントだ。ボディはアストンマーチンのように人手で叩き出すと、直線すら魅力的になるのだが、スカイラインから受け継いだテールランプの真円がいっそう安っぽく見える。テ−ルデザインはCADデザインの単純な線で作られたアメ車のようであり、膨らんで丸みを帯びたリアフェンダ−とマッチしない切り落としたような形状とした。フロントデザインは、アウディやワーゲンのデザインに似せた、大きなエアインテ−クもどきの形状で、威圧感のあるデザインとなっている。このデザインはエボ]も採用しているが、大きく口を開けてかみつく犬みたいだ。高速で前車を怖がらすだけで、実に品がない。

 レクサスIS−Fは、マ−クXプラットフォ−ムのISに5Lエンジンを搭載した。バカパワ−は高速の料金所バトルに勝つことぐらいにしか役に立たない。出来が良さそうなパドルシフトが唯一の売りだ。こちらもフロントのエンジンリッドが5LV8エンジンを搭載するためにもっこり膨らんで、ベ−ス車は没個性的だがそれなりにまとまったデザインなのに、それすらも破綻させている。

 昔モ−タ−ファンという雑誌があって、車のメカについて凝った図解による解説が売りだった。辛口批評は車への愛情がこもったものであったが、カ−オブザイヤ−を公然と批判したりして、もう十年ほども以前につぶれてしまった。日本では車の雑誌はメ−カ−ににらまれたらやっていけるわけがないのだ。かくて、カタログのようなメ−カ−提供の写真とよいしょ記事がならぶ雑誌ばかりが氾濫している。売れる車が善という、作る側の論理ばかりがまかり通るようになってしまった。本題に戻る。

 ボディサイズについて。日本国内の道は、新しい道路や主要道路以外は狭く、車道といえども長年普通車の規格であった1700mm車幅に合わせて1車線または2車線とされたものが多い。現在の車のように車幅が1800mmもあると、山道を快適にとばせない。また、山間部や漁村などでは全長やホイ−ルベ−スが長いと曲がりきれない箇所も多い。また、車の四隅の見切りが悪いと狭路や未舗装道路、積雪で狭くなった雪道などでの取り回しに苦労する。田舎道や林道、山岳道路を好む私としては、必要以上に大きな車は楽しめない。全長はなるべく4,500mm以下、ホイルベ−スは2600mm以下が理想だが、後席の快適性を犠牲にしない場合は難しいようだ。GTーRは全長4,655mmで、これより大きいのはレクサス、M5、AMGであり、彼の地では田舎道でも困るサイズではない。ホイルベ−スはAMGだけだ。ドイツにはワインディングロ−ドはないのだ。美しい田舎道はとばす道ではない。GTーRの見切りは乗ってみないとわからないが、尻が盛り上がった車やボンネットが盛り上がった車は悪そうだ。サイズや見切りはポルシェ、アウディTT、TVR、RX8、S2000がよほど良さそうだ。

 エンジン特性について。アウディTTは低速トルクが大きくて使いやすそうだがスポ−ツエンジンとは言い難い。S2000は高回転でトルクのピ−クがあり、常に高回転で使うエンジンだ。車重からみてもS2000のパワ−は十分だ。ロ−タリ−はともかく、S2000、エボ]、WRXが小排気量で、軽量エンジンを搭載している。

 M5、AMG、GT−R、IS−Fはパワ−は十分だが、図体も相応に大きくて高速道路専用だ。まあス−パ−スポ−ツと言って良いが、国産車は180km/hでスピ−ドリミッタが動作する。これら以外の車はそれぞれ運転そのものを楽しめそうだが、アウディTTはファミリ−カ−。TVRは乗ってみないとわからないがスペック的にはロ−テクでクラシックな印象。ランエボ、WRXは早い。ウデを要求するのはS2000といったところか。ポルシェはスペック的には中庸だが、所有する喜びは大きいのではないか。スポ−ツカ−としてのデザインも最も秀逸。

 さて、結論である。GT−Rはサイズが肥大しすぎて高級なメカニズムを生かす機会がほとんど無い。高速道路専用のGT−Rを、同類のM5、AMG、IS−Fと比較すると、ドッカンパワ−だけなら高級なメカニズムにカネをかけるよりもラグジュアリ−方面に金をかければ良いという結論になる。ラグジュアリ−カ−にハイパワ−エンジンを積めば良いのだ。GT−RもトヨタIS−Fもベ−ス車が洗練されたラグジュアリ−カ−とはいいがたいから中途半端になった。GT−Rの車体を一回り小さくして、エンジンは2.5Lぐらいの車を作ってもらいたかった。このクラスにはエボ]とWRXがいるのだが、日産は専用シャシ−を与え、デザインにも凝った美しい車を作れば良かったのだ。

 S2000は1999年4月に発売されたが、本年9月アメリカでS2000CSが発表された。サ−キット走行用にソフトトップを廃止したモデルだ。本来車は道を選ぶのである。どこでも走れる車は、どこでも程々にしか走れない。かといって競技車は著しく快適性を損ない、長時間の使用に耐えない。小型スポ−ツのあり方は二つあって、ひとつはエボ]やWRXのような、四輪の駆動制御をアクティブに行うタイプ。もう一つはFRとしてABSのみとし、TVRやロ−ドスタ−、S2000のようなタイプ。そしてそれぞれがサ−キットやオフロ−ド用などの性格をある程度明確にしてゆけば、それが車の個性となる。このような運転そのものが楽しめる車が多く出現し、その個性を代々受け継いでゆけばステ−タスが形成され、文化とまで言わずとも、我が国なりのモ−タリゼ−ションが出現するのだ。

 世界の自動車マ−ケットがグロ−バル化して世界規模で再編が進行し、生き残れるのは全世界で5社とも3社ともいわれており、国内ではトヨタのみだ。中小業者が生き残るためには、個性的な車いわば、少数のファンに選ばれる車を作り続けることしかない。厳しい排ガス規制や燃料消費量規制のなかで、大企業の技術を受け入れてゆく必要があるだろうが。最近久々に中古車屋と話したが、品質はトヨタが一番という。30年前もそう言われていた。だが、車に関しては弱点も個性なのである。それ以上の魅力のある車の出現を望む。

スポ−ツカ−仕様比較

2007.11.2作成