水道とアルミ  2006.11.11作成

 アルミが認知症を引き起こす話はどうなったか。「日系エコロジー」11月号より転載

 水道水は、浄水過程でアルミを使用する。浄水課程では、水道原水を凝集、沈殿した後濾過するが、凝集とは凝集剤を混和して水道水中の混濁物質をフロックというコロイド状の固まりにして沈殿させる。この凝集剤としてもっとも一般的に使用されているのが、ポリ塩化アルミニウム(PAC [Al2(OH)nCl6-nm )という薬剤で、20mg〜40mg/Lが注入される。水道水中のアルミの規制値は0.2mg/l(快適水質項目)とされている。たとえば東京都水道局の水質検査では、品川区の蛇口でのアルミ濃度は0.02mg/lである。なお、PAC以外には硫酸バンド(硫酸アルミニウムAl2(SO4)・nH2O )が使用され、PACと同様にアルミによって凝集効果が得られる。
 水道水中のアルミは主としてこれら凝集剤由来のものであり、アルミとアルツハイマーの関連が疑われたことから、最近では鉄系凝集剤が一部で使われ始めた。低温でも凝集効果が良いことと、保存が容易なため注目されている。水道業界ではこのアルミの問題は大いなる関心事であり、日系エコロジーの最新号で特集記事を見たので転載する。(以下記事より要約)

 1965年、ポーランドでウサギによる実験で、脳にアルツハイマーと類似の「神経原繊維変化」に似た変化があらわれたと発表された。
 1972年、英国で人工透析患者が認知省に似た病気を発症、透析液に水道水を使用しており、水道水にはアルミが含まれる。腎臓障害でアルミを体外に排出できない患者はアルミが脳に蓄積し「透析脳症」を起こしていた。アルツハイマーとは異なるが、症状が似ているせいで、アルミが危険だと言われた。
 1988年、英国の「カメルフォード事件」が起き、浄水場に凝集剤のポリ塩化アルミを20t誤って投入し2万人の住民が数週間高濃度のアルミを含む水を摂取し、健康障害とアルミとの因果関係が疑われ、アルミ危険説が広がった。
 1989年、水道のアルミ含有率が高い地域の人は、アルツハイマー病の発症率が1.5倍高いという疫学調査が発表された。
 1992年、東大で、アルミの同位体元素をラットに注射したらアルミが脳に入った、と発表され、「アルツハイマーの原因はアルミか」との記事が新聞各紙に掲載された。
 1995年、国際機関「国際化学物質安全性計画」が、アルミがアルツハイマーの原因であるという証拠はない、と言明した。

 「国際化学物質安全計画」が挙げた理由は、、1965年のウサギの実験では、アルツハイマー病の神経原繊維変化と異なっていた。また透析脳症については、アルミが体内に大量に溜まる人だけに起きたものであり、中毒症状と見られる。水道水の疫学調査は再調査時に再現性が得られなかった。
 第2は鍋や缶からのアルミ溶出量は我々が食品などから摂取するアルミの量より少ないことが認識されたこと。緑茶350ccには1.3ppm0.47mg、海草100gには8.5mg含まれ、WHOとFAOの許容摂取量は体重1kgあたり7mg/週と設定しており60kgの人では一日60mgとなる。これに対し普段の生活で1日あたりの摂取量はWHOによれば2.5〜13mg程度。日本の調査では食品から4.5mg、水道水から0.2mg/L以下だが、アルミの調理器具からは1.68mg、アルミ箔製品から0.01mg、飲料缶から0.02mgが溶出する。しかし合計でも7mg以下であり基準を大きく下回る。
 胃薬(制酸剤)はアルミを大量に含み、一日の服用量に1000mg程度のアルミを含む種類もある。基準値を大きく上回るが、それでも認可されているのは、通常の人では摂取したアルミを1%程度しか体内に吸収しないからである。神経内科医の間では、アルミがアルツハイマー病の主な原因と思っている人はもういない(東京医科歯科大学)。しかしアルミがシロと証明するためには、今後動物実験などの研究が必要だ。
 アルツハイマー病は、遺伝性と弧発性とがあり、95%が弧発性である。発症には遺伝要因と環境要因が絡むが環境要因は未解明で、食生活などの生活習慣が指摘されている。
メカニズムは解明が進み、既に治療薬が開発されている。この病気には、@脳の神経細胞が減って萎縮する。A脳に老人斑という斑点ができる。B神経原繊維変化が起きる、という3つの特徴を有する。重要なのはAの老人斑で、アミロイドタンパク質が脳に蓄積してできる。
 危険因子の可能性調査として、経口リスクを検証するため、マウスの脳の老人斑を検証中である。
 一方、アルミは高濃度なら神経毒になるため、大阪大学では今も疑いを向けている。アルツハイマー病はDNA情報をタンパク質に翻訳する課程に異常があり、脳の微少血管がつまる等の低酸素状態が一因で起きると考えられている。脳の神経細胞による実験では、水道水程度のアルミを添加するとこの異常が極端に早く起きた。
 また、マウスの脳由来の細胞にアルミを1mlにつき0.33mg加えたら、神経細胞を支えるアストロサイトの核がバラバラになって細胞死した。
 アルミが主犯と考える神経内科医はもういないが、憎悪因子かどうかという研究は今後も継続される。(以上日系エコロジーより)

 すなわちアルミは経口摂取される場合はアルツハイマーの原因とはならないが、アルミそのものはアルツハイマーの症状を引き起こす可能性がまだ完全に否定されていないと言うことだ。
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