2002年2月23日午後3時53分 「キャー!! 助けてー!」 横浜国際総合競技場の西側部分に響き渡った女性の悲鳴。 この叫び声がある事件のはじまりでした。 「KAMIUさん、もう1ケ所もやっちゃいましょうか?」 この日、私と後輩のY君と新人のTさんの3人はお偉いさん達専用の駐車場周辺の雨水を捨てる「排水溝」という場所の掃除をしていました。 防寒着を身にまとってゴム手袋or軍手を着用。 どこから見ても「メンテナンススタッフ」ではなく「清掃のあんちゃん」というスタイルです。(泣) 最初に予定していた部分の清掃作業も終わり、すぐ近くにあった排水溝をY君がキョロキョロ。 枯れ葉がたくさん詰まってたのと時間がまだあったことから「ついでにやっちゃえ!」となったのてす。 土曜日ですっ! 世間では「お休み」の日でございます。 そんな中を黙々と座り込んでゴミ掃除をしている「清掃のあんちゃん3人組」・・・もとい、「設備のメンテナンススタッフ3人組」。 当然のことながら近くを親子連れの家族やラブラブのカップルが通り過ぎていきます。 しかも!! 「なに? こいつら」 みたいな視線を投げかけてること・・・。(T_T) よけいなお世話と言いたくなる程じろじろ見られます。 「あんたらこそ何見てんのよ!!!」 「いいから、隣にいる恋人の顔だけ見て全世界が溶けるぐらいの2人の甘い世界に入っててよ!」 「あたいらみたいのがいるから、快適に利用できてるんでしょ!!」 心の中にそんな言葉が浮かんでくるぐらいきっついです・・・いや、ほんとに。 どこぞの団体さんが通るとすごいですよぉ・・・。 それまでお互いの顔を見てにこやかに話していたはずなのに、全員の視線が次々とこちらに向かうんです。 会話はそのままで。 「そんなに気になるなら労いの言葉一つでもかけてみろー!」 一度でいいからそう怒鳴り付けてみたいです。 予定外の場所の清掃も終わり、 「さて、帰ろっか」 って言葉が出ようとした時のことです。 「キャーーー!!!!」 「??」 「なに?」 「助けてーー!!」 突如辺りに響き渡った女性の悲鳴に3人とも顔を見合わせてしまいました。 どうやら声がしたのは、すぐ目の前の階段をのぼった「西側チケット売り場周辺」か、さらにその上の「西ゲート前広場」の辺りのようです。 「演劇の練習?」 「喧嘩?」 などど3人で思っていましたが何かがおこったことは事実なので、すぐ目の前の階段をかけのぼって「西側チケット売り場」へと急行いたしました。 2人の男性が重なりあうようにして地面に座り込んでいました。 近くでは女性が携帯電話で何かを必死に話しています。 最初は「くだらない喧嘩なのかな?」と感じてしまいました。 Y君の「防災センターに連絡した方がいいですよね?」という投げかけに『よそでやってよ・・・』という気持ちを込めて「そだね」と返事をしつつ、勇気(?)を振り絞って駆け寄りました。 良く見ると、20代の男性が50代の男性の首元に両手をまわし逃がさないように押さえ付けていたんです。 「すみません、競技場のスタッフですけど、どうしたんですか?」 一応、防寒着に隠れていた身分証名の名札を見せつつたずねると、20代の男性はちらりと私の顔を見るなり 「トイレの中で女性が襲われたんだ」 緊急事態ですっ。 「Y、連絡をっ」 「今やりますっ」 Y君は競技場内専用のPHSで防災センターにいる警備さんへと連絡。 1・2分程で警備担当の人が全速力で自転車に乗ってかけつれてくれました。 が、その間ちょっと困ったことが・・・。 状況が分かった後は問題ないんですけど、ハッキリと『加害者はこの人、こっちの人は被害者』と分からないあいだは私達はあまり積極的に協力できないんです。 仮に間違ってしまった場合に「競技場のスタッフは・・・」なんと事になりかねないっ。 私の頭の中には常にそれがありました。 けど、今は状況がはっきりしています。 年輩の男性が加害者! 競技場のチケット売り場は公衆トイレと一体の構造。 「スタッフの者です、入りますよ」 そういって女性用トイレの中へ入ると、入り口に一番近い洗面台のところで一人の女性が口元にハンカチを当てていました。 隠している部分からは血が出ています。 女性の顔は体験してしまった恐さでいっぱいでした。 「今、競技場の警備担当者や警察の人が来ますからね。大丈夫ですよ」 そういって外へ出ると・・・物凄い光景が待っていました。 「うおーーーー!!」 「おらぁーーーー!!!」 捕まっている年輩の男性が叫び声をあげています。 しかも、その容姿からは想像もできないような力で力で捕まえている男性をふり飛ばそうとするんですっ! Y君やTさんが逃げないように押さえ付けます・・・駆け付けた警備のTさんも。 「てめえらっ、一対一で勝負もできないのか!!!」 「なんだその手はっ!!」 「このオレを誰だと思ってやがんだっ!!」 奇声を発したり挑発する年輩の男性。 怒りのためか、あるいは飲んでいるためなのか、顔は真っ赤になっています。 『うるさいよっ!!』 そういってこの大バカおやじの真っ赤な顔に「ポグッ」と一撃・・・あるいは用を足す意外に使わなくなってしまったと思われるまん中の足&大切(?)な玉をサッカーボールのようにシュートしてみたくなってしまったのですが、それはぐっと我慢。 「こっちでーす」 姿を見せた警察の方に手をふって合図をいたしました。 警察の質問にもマトモに答えるような態度を少しも見せませんでした。 身元を聞いてもバカにしたような返事しか返ってきません。 ですが、その手にはしっかりと手錠が・・・めでたく御用となったのです。 新人のTさんはハッキリ言ってまだ競技場の場所を把握していませんでしたし、説明も満足にできないだろうと言うことで私とY君が警察へと行くことになりました。 ・・・が、ここでもとんでもないことが待っていたのです。(^_^;; 港北警察署に到着してからしばらくして案内された取調室。 TVドラマで見かけるような部屋・・・とは程遠い程シンプルで狭い場所でした。 中には事務机が1つにワープロが1台。 そして登場したのは40代後半ぐらいのおぢさんでした。 ここまで書くと予想がつくとは思います。 ワープロ&おっちゃん。 そう、タイピングが遅いこと遅いこと。(泣) 「KAMIUさん、悪いですね・・・すぐに終わりますからちょっと協力して下さい」(^_^;A 「はいっ」(^-^) そんな感じから始まった事情徴集なんですけど、両手は使っていても使っているのは両手とも人さし指だけ。 変換した文字を確定した時のポーズはかっこいいんですけどねぇ。 心の中では、 『だれかタイピングの早い人手伝いに来てよぉ・・・』 『パソコンに慣れた若い人呼んでこーい』 『もう1時間もたってるよぅ・・・』 『書類作るのに問題がないんなら私が変わりに打つよ・・・』 などなど。 「いやぁ〜、こういうのに慣れてなくってねぇ・・・」(^_^;ゞ 「キーの位置とか機能を呼び出すのってごちゃごちゃしてて分かりにくいですよねっ」(^-^) 「そうなんだよねぇ・・・KAMIUさんみたいに若い人ならパソコンとか使い慣れているから、こういうのも簡単でしょ?」(^o^;; 「そうですねぇ・・・でも、いろいろと複雑ですから分からないメッセージが出てきて困ることもありますよ」(^_^) 警察の人にプレッシャーを与えないようにしつつ会話をしていましたが突然、 「うおっ」(゜゜;) 「ありゃっ」(-_-;) 『なっ、なんですかぁ・・・』(^_^;A どうやら思ったように変換しないご様子。 ついには、 「うわぁ・・・KAMIUさん、コレ分かるかなぁ? ×××は△△△で※※※・・・ってメッセージが出てるんだけどね」 『し、知りませんがな・・・』(^_^;A そんないろいろな事がありましたが何とか書類も完成。 最後に間違いがないか確認のために書類を渡されましたが、ちょっとあぜん。 『、』句読点がいっぱい。 文章の内容に間違いがないので署名と拇印をして私の事情徴集は無事(?)に終了。 時計を見ると・・・午後の7:30。 警察署に来たのがだいたい午後の4:30ごろでしたから3時間もかかったわけですねぇ。 ・・・長過ぎっ! その後Y君を待って1時間以上。 ようやっと警察署を出たのが8:40頃でした。 競技場から警察署へと向かう時に 「KAMIU君悪いんたけどさぁ、警察から返ってきたら電話くれる? 聞きたい事とかあるからさ」 と言ってきた私達管理JVのまとめ役Nさん。 その言葉を思い出したのですが・・・。 Nさんへ電話。 「プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル・・・」 自分達の上司に電話。 「プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル・・・」 警察署の方に送っていただいて、疲れて返ってきた私達2人に待っていた出来事でした。 とっくに皆さん帰ったんですか? ご帰宅ですかっ? 私らの事どーでもいいんすか? 2人して暗い競技場を防災センターへと帰っていったのでした。 |